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測定器を壊すのは基本だが、クラスカーストトップをバカにするのは基本じゃない

お気にいただければ評価や感想、登録のほどよろしくお願いします。


『な、何なんだよ、あの数値……絶対にありえないだろ。雌ゴブリンに、ぽっと出の奴が俺たちの何倍もの魔力があるなんて……』

『測定所が砕けるなんて……もしかして、何か変な魔法でも使ったんじゃ……?』

『その割には、魔法陣もなかったけど……』


 休み時間を挟んで次の授業、約2名を除いてヒソヒソと話しながら、1年1組は魔法試射場へと来ていた。開けた土と砂のフィールドには巨大なゴーレムが1体鎮座している。


「えー……第2測定場はしばらく復旧工事のため使用できなくなったが、幸いにも怪我人は1人も出なかったため、授業は続行となる」


 咳払いをしながら事の結果を伝えるアランは、ちらちらとシヴァの方を盗み見る。

 本来ならば、あの生意気にもセラを庇おうとする編入生に、何らかの処罰を下したいところなのだ。しかし魔力量測定の魔道具が、通常の使用方法で壊れるなど前代未聞だ。何らかの攻撃魔法を使ったわけでもないので、ルール上では処罰する理由がない。

 教師でありながら初日から生徒たちを監督出来ないという評価を押されたくないため、適当な嘘をつけない。アレンは悶々とした感情を隠しながら、淡々と仕事を進めるしかなかった。


「これから生徒全員の得意な攻撃魔法の出力を測定する。1人1人、順番にあのゴーレムに向かって自分の得意な魔法をぶつけるんだ。その威力をゴーレムが数値化し、その数値を元に評価を下す」

(得意な攻撃魔法……ねぇ)


 シヴァは頭の中で自分が得意な攻撃魔法を羅列していく。

 その中には、標高1万メートル級の山を細切れにした熱線があった。地中海を蒸発させた灼熱があった。降り注ぐ隕石群を焼き尽くした爆炎があった。神々すらも焼失させた業火があった。

 そしてそれらは、あのゴーレムを容易く破壊しきってしまう物ばかり。先ほどの件を一応は反省しているシヴァとしては、どの魔法を使うべきか非常に悩むところだ。


「アラン先生、攻撃魔法をぶつけろといったけれど、壊してしまった時はどうすれば? 正直私、あまり加減を知らないのだけれど」


 そしてその不安を抱えているのはシヴァだけではなかったようだ。やけに自信に満ち溢れた表情のエルザがそう進言したが、アランは問題ないと首を横に振る。


「その心配はない。あのゴーレムは魔法耐性に優れたミスリル製で、かの有名な錬金術師、グラント・エルダー氏によって製作されている、自動修復能力付きのゴーレムだ。大抵の魔法ではビクともしないし、たとえ粉々に破壊されても元に戻るというお墨付きだ」

(誰だよ、グラント・エルダーって)


 しかし、それなら心配はいらないかもしれない。これまでの前例を考えれば手加減は必須だが、それでも修復不能になる心配はなさそうだ。


「それでは測定を開始する。1人目、前へ」

「はいっ」


 こうして魔法威力の測定が開始された。1人1人順番に魔法陣を展開し、各々が得意な炎魔法を、水魔法を、風魔法を、土魔法を、雷魔法をゴーレムに叩きこんでいく。


(平均数値は600前後か……これはどのくらいのものなんだろ?)


 少なくとも、シヴァの眼にはふざけているとしか思えないくらい弱弱しい魔法にしか映らない。とても本気で、自分が得意な魔法を撃っているとは考えられないくらいに。


 教室から戻ると、クラスメイト達がシヴァとセラの2人を遠巻きにしながらヒソヒソと話していた。


「そういえば、お前はどんな魔法が得意なんだ?」

「…………」


 ふと気になって隣のセラに問いかけてみるが、彼女はますます暗い表情でホワイトボードを見せる。


【魔法……教えて貰ったことが無いから、使えないです】

「教えて貰ったことがないって……この賢者学校に入って結構長いんだろ? 先生が教えてくれなかったのか?」

【……私に教える必要ないって言われました……】

「……ちなみにこれまでの授業はどうしてたんだ?」

「…………」


 無言が返ってくる。しかし、その表情を察するに碌なことでは無かったのだろう。どうやらイジメ問題は本気で深刻のようだ。


(これは出来ない……みたいなことになったら、まーた耳障りな笑い声が聞こえてくるんだろうなぁ)


 通う学校を間違えたか……本気でそう思えてきたシヴァは頭を振る。


「……よし、それじゃあ俺が簡単な攻撃魔法を教えてやるよ。魔力注ぎ込めばそれなりの威力にはなるだろうし」


 それでも、ここまで悪いともうこれ以上はないだろう。なら後は上を目指すだけだ。

 少し人目が付かないよう、隅に移動してからセラに魔法を教えるシヴァ。その最中、一際激しい水と風の嵐がゴーレムを飲み込んだ。


「うぉおお……! こ、これは水と風の混合属性の中でも最上級と謳われる……! 記録は6063だ!」

「ふふんっ」


 エルザの魔法のようだ。他の生徒たちと10倍近くの差をつけて、優越感に浸った表情を浮かべている。


『すげぇえ! なんて威力の魔法だよ!』

『噂では使えると聞いていたけど、この目で見たのは初めてだわ!』


 先の魔力測定からずっと不機嫌そうだったエルザだったが、周囲の褒めたたえる声と共に上機嫌になっていく。どうやら随分と分かりやすい性格をしているようだ。 


「え~……それでは次は、セラ・アブロジウス! 前へ」

「……っ!」


 そして丁度魔法陣を教え終わるころには、残りはシヴァとセラの2人だけになっていた。

 先ほどまで不機嫌そうなエルザに怯えていたアランが、妙にニヤニヤとした表情でセラの名前を呼ぶ。エルザを良い意味で目立たせた後で、セラを悪い意味で目立たせようという魂胆が透けて見えるようだ。


「落ち着いてやんな。教えたとおりにやれば大丈夫だから」

「…………」


 一気に集中する視線に挙動不審になるセラの肩に手を置いて震えを止めると、セラもおずおずとゴーレムの前に出る。そして待ったましたとばかりに罵声を上げようとしたクラスメイト達に向かって、シヴァは人差し指を口元に置き、にっこりと笑いかけた。


「静かにしような。初めての魔法実演なんだから」

『『『ひぃいっ!?』』』


 先ほどと同じく、ほんの少しの圧を加えた笑顔(威嚇)を前に、クラスメイト達は竦み上がる。彼らからすれば、なぜ笑顔を前に自分が怯えているのかが分からないだろう。


「…………」


 周囲が静寂に包まれる中、セラは指先に魔力の光を灯し、ゆっくりと魔法陣を描いていく。


(ぷっは! 何だよあの遅い魔法陣構築)

(しかもあれって、《魔弾(フォイア)》よね? よくあんな簡単な魔法を、あそこまで拙く……ぷくくく)


 使うのは魔力を固めて撃ち出すだけの、基本中の基本の攻撃魔法。ペンで紙に書くような、目にも当てられないほど遅い構築速度。クラスメイト達もこれには内心バカにしていたが、その内の何人かが魔法陣がおかしいことに気付く。


「あれ……? なんだあのルーン文字? あんなルーン文字、あるわけが……」

「しかも紋章も見覚えがない……え? 《魔弾(フォイア)》じゃないの?」


 自分たちが知っている基礎魔法じゃない。そう、クラスメイト全員が認識した時、エルザが血相を変えて叫んだ。


「あ、あれは古の時代に殆ど失われた古代のルーン文字と紋章!? 世界的に見ても極一部の貴族や王族、教会や研究所にしか伝えられていない古代魔法の秘奥を、なぜ基本も伝えられなかったセラが!?」

「え?」


 何やら大げさなことを言っていると、シヴァは茫然とした。今しがたセラに教えたものなんて、4000年前の魔法の基本中の基本でしかないというのに。


「い、いかん! 伏せろっ!」


 アランが叫んだ瞬間、ようやく完成した魔法陣の中心から2メートルほどの大きさを誇る魔力の塊が、強烈な回転と共に発射され、並大抵の魔法では傷1つ付かないミスリルゴーレムの上半身を消し飛ばし、遥か上空の雲を突き破って大気圏外を突き抜けていった。


「……じゅ、10万3241」

「ふむ……まぁまぁだな。初めてにしては上出来と言える」

【あんなのが出るなんて、聞いてないんですけどっ?】

「いや、あのくらい普通だって」


 青い顔で若干涙目になりながら詰め寄ってくるセラに、シヴァはさも当然のように答える。セラくらいの魔力量があれば、あのくらいが普通なのだと。

 そんなやや見当違いな弁解をしていると、下半身だけが残ったゴーレムがゆっくりと自動修復されていく。


「修復速度遅いなぁ……まぁ、失った質量に拘らないあたり、ギリギリ及第点ではあるか。じゃあ最後は俺の番だな」


 ゴーレムが完全に修復し終えたのを見計らって、シヴァは軽めに、ゴーレムが修復できる範囲に収まるのを意識しながら魔法を放った。


「《火昇閃(ラグナフ)》」


 ゴーレムの足元から雲を、天を超えた先にある宇宙空間まで届く火柱が昇り、ゴーレムを焼き尽くした。

 その灼熱は限界まで収束され、建物や人に直接的な被害を与えなかったものの、生じた突風はシヴァの陰に隠されたセラ以外のクラスメイトと担任教師を吹き飛ばし、莫大な水の塊である雲を消し飛ばし、青い空を紅蓮に染め上げる。

 そして火が消えた時、そこに残されたのは丸い漆黒の焦土だけであった。


「シ、シヴァ・ブラフマン…………測定不能…………」

「……あれ? 点数は? 修復機能は? ……あれ? もしかして、また壊しちゃった?」


 いくら修復機能といえど、跡形もなく焼失すれば機能しない。

 4000年前にはそこらへんに幾らでも転がっていた、〝どれだけ入念に焼失させても復活する装備〟の類ばかりを相手にしていたシヴァは、眼が飛び出んばかりに驚いているクラスメイト達を差し置いて、余りにも呆気なく壊れた(と思っている)ゴーレムに、逆に戸惑いを隠せなかった。




 そして全測定が終了し、教室に戻ってきた1組だったが、教室の端にいるシヴァとセラは遠巻きにされていた。


『何なんだよ、あのとんでもねぇ魔法は。あのチビヒョロ女まで、一体どうなってるんだ?』

『……あんなに強い魔力があるなら言えばいいのに……。どうしよう、私何も知らずに苛めてたんだけど……』

『ふざけんな……あんなのなにかも間違いに決まってるだろ。俺が雌ゴブリン以下なんて、あるわけが……』


 恐れと嫉妬。それらが入り混じった納得のいかなさそうな視線。それにセラは身を縮こませるとは少し違うがどこか落ち着きがなさそうであり、シヴァも難しい表情を浮かべている。


(うーん……おかしい。なんだか俺が思い描いていた青春と、多分少しずれてきてるぞ?)


 確かに備品や施設を壊しはしたが、それでも個人的な基準では大したことはしていない。そう思っているシヴァは原因が思い浮かばず、どうすれば現状を変えられるか悩んでいると、エルザがズカズカと近づいてきた。


「ちょっといいかしら?」

「っ!?」


 シヴァに向かってたったその一言。それだけで後ろに座っていたセラが恐怖に引き攣ったような青い表情を浮かべる。その様子を一瞬横目で確認し、シヴァはエルザと向き合った。

 

「確か、シヴァ・ブラフマンだったかしら?」

「ああ、そうだけど? そっちは確か……エルザ・アブロジウスだったか? セラの姉貴の」


 そういった瞬間、エルザは鬼のような形相を浮かべる。


「なんて不躾な平民なのかしら!? 私は学長の娘で公爵家の令嬢なのよ!? 敬語を使ったらどうなのよ!? それにそんなゴミをかき集めた出来損ないの姉と言われるなんて、心底不愉快だわ! しかも一際醜い魔力をした混血雑種の分際で、よくも純血かつ高貴な血が流れる私に無礼な言葉遣いが出来るわね……今すぐ跪いて許しを請えば、痛めつけるだけで許してあげなくもないわよ?」


 この時、シヴァは悟った。こいつは編入試験で戦ったライルの女版であると。


「混血雑種ねぇ……今のご時世、それを口にすれば顰蹙(ひんしゅく)を買うって聞いたんだけど、一体純血の何が偉いっていうんだ?」

「ふん! 愚かなだけじゃなくて無知だなんて救いがないわね。そんなもの、五英雄の転生者が純血の者に限られているからに決まっているじゃない!」

「え? そうなの?」

「当たり前でしょう? 《滅びの賢者》だけでなく、《勇者》や《魔王》、《獣帝》に《霊皇》も純血種だった……だから転生先も純血種に限られる。普通に考えて当たり前の事よ。それに比べれば、混血なんて何の価値もなくなるわ。まったく、これだから薄汚い雑種は嫌になるのよ」


 果たして、そんな制約が必要だろうか? 確かにそっちの方がかつての力を出しやすいかもしれないが、そんな余計な条件を入れなければ全盛期の力を出せないような弱卒連中でないことを、シヴァは身を以て知っている。


「まぁいいや。話はそれちゃったけど、結局何の用だ?」

「本当に無礼な雑種ね……まぁいいわ。一度しか言わないからよく聞きなさい」


 エルザはこちらを物理的にも立場的にも見下しながら告げる。


「シヴァ・ブラフマン、私の傘下に加わりなさい」

「傘下? 部下ってことか?」

「ええ、そうよ。学長の娘という立場に加えて、大勢の配下に学年1番の実力……私こそが《滅びの賢者》の転生者であることを裏付ける、賢者学校の頂点に立つに相応しいという下地は着実に出来上がっている。でもまだ足りないから、こうして力のある生徒たちは皆私の支配下に置いてるってわけ。あんたもほんのちょっとは出来るみたいだし、薄汚い雑種だけど私の配下に加わることを許してあげるわ」


 どうやらエルザは彼我の実力差も理解していない……というか、理解したくないらしい。測定であれだけの差を見せつけてまだそんな上から目線で居られるなど、エルザの矜持とプライドは見上げるほど高いようだ。


「分かるかしら? 私の配下に加われば、大勢の生徒たちを味方につけるも同然。そうすればあんたの学校生活は安泰といっても過言ではないのよ? 逆に歯向かえば……どうなるか分かっているわね?」

「ふむ」


 エルザに付き従うように後ろに立つ大勢の生徒たち……というか、クラスメイトの過半数以上を見て、シヴァは思考に耽る。

 このままエルザの長いものに巻かれれば、シヴァの学校生活が安泰なのは間違いないだろう。同じ派閥の者同士、友人にも恵まれることが多いというのは簡単に予想できる。

 ……ならば、シヴァの答えなど決まっている。


「嫌でぇーす。ぶぅーっ!」


 ありったけの侮蔑と嘲笑を交えた、全力の変顔で拒否してやることだ。


ほかのざまぁシリーズもよろしければどうぞ

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