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測定器を壊すのは基本

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 教室に入り、指定された席へ向かう。セラの席は教室の窓際の一番後ろで、シヴァはその前なのだが、そこでも惨事があった。


「机までやられてるのか。よくやるわぁ」

「…………」


 机にも『ゴミブスちゃん(笑)』とか、『ゴブリン』とか、『存在する価値皆無』とか、様々な暴言が落書きされ、更に机の収納スペースに生ゴミが詰め込まれ、椅子の上には生ゴミが大量に山積みにされている。そんな中でひときわ異彩を放つ、花瓶に入れられた一本の花。死者を悼むのに用いられる奴だ。


(にしても朝っぱらからこんなことをして……よほど暇な奴なんだろうなぁ)


 新学期初日からわざわざ生ごみ持参で学校に来たのかと思うと、そういう印象を持たざるを得ない。仮にも訓練所に通う生徒として、もっとやることはないのかと。


「まぁ、生ゴミはさっきと同じようにこうしてやればいいんだけど…………ん?」


 生ゴミの類を一瞬で焼失させると、周囲の生徒……クラスメイト達から不躾な視線をぶつけられる。まるで水を差されたというか……空気を読めてないことをした奴を見るような目だ。


『何なのあいつ……何庇っちゃってんの? きもっ』

『空気読めよなぁ。惨めに片付けるのを見て邪魔するのが楽しみだったのに、白けちまったぜ』

『ていうか、今あいつ何したんだ? いきなり生ゴミが無くなったんだけど……』


 そして周囲からこのような囁きが聞こえてくる。これを聞いて、シヴァも本格的におかしいと思い始めた。

 イジメは問題だ。それをさも当然のように……もっと言えば、それを全員が楽しんでいたかのような反応を示すのはどういうことなのだろうかと。


「……まぁ、いっか」


 何があっても自分が対処すればどうにかなる。とりあえずは気にしない方向で決定したシヴァだが、目下問題は完全には解決していない。


「この落書きどうするかね? ……うわっ、この文字なんてわざわざ彫ってあるし」

「…………」

「……あー……」


 学校についてからどんどんセラの雰囲気が暗くなっていく。

 シヴァも集団で攻撃される経験は慣れてはいるが、セラとシヴァとでは性格も違えば状況も違う。このような時、どのような対処を授けるか思いつかなかった。シヴァならば、とりあえず犯人を見つけ出して二度と同じことが出来ないようにするのだが。

 

(とりあえずこの机はどうにかしないと……おっ!)


 ここでシヴァはある物に注目する。教卓の横、窓際に置かれた担任教師用の机だ。作りは生徒用とまったく同じである。


「あんな所に予備の机があるじゃないか! これと交換しよう!」

【……え?】

『『『……え?』』』


 しかし、つい最近まで学校というものを知らなかったシヴァにそのような細かい知識はない。予備だと思い込んだ彼は、セラの机と椅子を担任の机と椅子とを交換する。

 この行動にはセラもクラスメイト達も驚いた。このままでは、担任教師は初日から机に落書きされたということになってしまう。


「いやー、良かった良かった。予備があって本当に良かった」

【あ、あの……】

「全員席に着けー」


 誤解を解こうとホワイトボードを持ったセラだが、タイミング悪く担任が入ってくる。どこか神経質そうな金髪の男だ。


「編入生は始めましてだな。今日からこのクラスの担任となった……ん?」


 そこで担任教師は自分用の机(元はセラの机)の惨状に気付く。そして本気で訳の分からないといった、戸惑いの表情でクラス全体を見渡した。


「え……あの……ちょ、これ……?」

「せ、先生、それは……」


 まさか初日から担任イジメ受けている? いや、そういった対象は全てセラに向かうようになっているはずだと、纏まらない思考に言動が取れない担任に生徒の1人が声をかけようとしたが、その前にシヴァが声をかける。


「あぁ、そこに置いてあった机、セラのと交換させてもらいましたよ」

「え? な、何で……?」

「え? だってそこに置いてあったのって、予備ですよね? セラの机、教室に来た時にはそれより酷い有様だったし、誰も使ってないなら交換しても良いかなって」

「いや、これは先生の机であってだな?」

「え!? そうだったんですか?」


 ここにきて机の持ち主が誰なのか分かったシヴァは、心底驚いた表情を浮かべる。


「う、うむ。なので私の机とアブロジウスの机を元に戻し――――」

「でも別に良いですよね? だって先生は教師なんですから。教師が困っている生徒を助けるのは当然って本に書いてましたもん」


 なんの他意もないピュアな眼差しと言葉に、担任教師の言葉が詰まった。


「他の机と交換する時間もありませんでしたし、教師なら一旦自分の机と落書きされた生徒の机を交換して、後で綺麗な机と交換するくらいの事はしてくれて当然かと思うんですけど、違うんですか? 生徒側は学校に金払ってる身分だから、多少は尊重してくれると聞いたんですけどね?」

「あ……いえ、違わないです……」


 ぐうの音も出ない正論を前に、なぜか敬語になりながら机のことは諦めた担任教師。とっさに反論の言葉が思い付かなかったのだ。


「あー……ごほんっ! とりあえず机は後で交換しに行くとして、改めまして。今日から1年1組の担任を務めることになった、アラン・ラインゴットだ。1ヵ月の間だけだが、よろしく頼む」

「1ヵ月? 1年の間違いじゃなくてですか?」

「うむ。今年度から設けられた制度なのだが、高等部1年生は1学期の最初の1ヵ月の間に生徒個人個人の能力の振り分けが行われ、その後に正式なクラスが決定する。成績ごとに分かりやすい差をつけることで、生徒たちの意欲向上を促すとのことだ。この教室はいわば仮のクラス。成績が良い者ほど、1ヵ月後のクラス分けで待遇も設備もいいクラスに振り分けられるので、これから30日間はしっかりと励むように」


 これまた差別が生まれそうな制度だと、シヴァは思う。現代はそれほどでもないのだが、4000年前は身分制度が非常に強固であり、貴族は気まぐれに平民を殺すこともあったくらいだ。

 今回の新制度は、それにどこが通じるところがある。


「それでは早速だが、これから第2測定場で魔力測定を行う。これもクラスの振り分けに大きく影響する大事なことだ。トイレに行きたい編入生は先に済ませておくように」

 



 広大極まる敷地内の施設の内の1つ……巨大な魔法陣が描かれたステンドグラスで覆われた建物の中に移動したシヴァたち1年1組は、施設中央の祭壇の横に立つアランに視線を集めていた。


「この施設全体が、魔力総量を数値化する魔道具となっている。この祭壇の上に立ち、魔力を全力で放出すれば、その者の魔力総量が数値で現れる仕組みだ」

「……ん? 何でこんな施設が作られたんですか? 魔力の量なんて、一目見れば大体わかるじゃないですか?」


 シヴァがそんな疑問を口にすると、周囲は揃って訝しそうな表情を浮かべる。


「何を言っている? そのような事、魔術師個人で出来るわけがないだろう? 魔力量を測るには専用の魔道具が必要……魔術師の常識だ」

「はぁ……そうなんですか?」

「このようなことも知らないとは……まったく、本当にまともな手段で編入試験を受けたのかが怪しいな」


 先ほどの仕返しのつもりなのか、ネチネチと嫌味を言ってくるアランを無視して、シヴァは周囲の魔法陣に目を配る。


(4000年経って、当たり前だった基本技術が廃れてなくなったのか? だからって、こんな大掛かりな設備はいらないと思うけど)


 ただまぁ、正確な量を数値で表すというのは、4000年前にはなかった。特に必要もなかっただけということもあるが、こういう細かい点は進歩しているらしい。


「それでは1人ずつ祭壇の上に立ち、魔力を放出しろ。1人目は誰から行く?」

「じゃあ俺から!」


 男子生徒の1人が祭壇の上に立ち、魔力を放出する。すると、祭壇の上に投影された0という数字が急速に上がっていき、最終的に4382という数字で止まった。


「このように、簡単に魔力量を計ることが出来る。ちなみに高等部1年で4000を超える数字は中々のものだ。皆も、これを基準にすると良いだろう」


 こうして、生徒たちは次々と魔力を測っていく。大抵の者は4000前後、高い者なら6000ほどといった具合だ。


「おおっ! これは凄い! まさか1万1020とは……流石はアブロジウス家の令嬢なだけはある!」

「ふふんっ」


 そんな中、一際目立った女子生徒が1人。自信満々な表情を浮かべる黒髪の少女だ。


『さ、流石はエルザ・アブロジウスだぜ……! 幾ら学長の娘とはいえ、まさか平均値の倍を上回る数値とはな』

『《滅びの賢者》の転生者として目されているだけのことはある』

(1万越えねぇ……そんなに凄いのか? せいぜい、ライルと同じくらいにしか感じないんだけどな)


 それよりも、シヴァには気になることがあった。


「なぁ、アブロジウスって確かお前の下駄箱の名札にも書いてあったけど……」

【……姉です。義理の】


 つまり、セラも学長兼公爵の娘ということになる。にも拘らず、周囲からはあの仕打ち。シヴァは陰謀の匂いをぷんぷん感じ取った。

 そうこうしている内に、測定を終えていないのはシヴァとセラの二人だけとなる。レディーファーストとしてシヴァに促され、祭壇に立とうとしたセラだったが、エルザの一声でその足は止まることとなる。


「あら、測る必要なんてないわよ。だってどうせ、ゴミはゴミらしいゴミみたいな魔力しかないんだから、正確な数値を晒して恥をかく必要もないでしょ?」


 エルザの理不尽極まりない言葉に周囲は同調したように大笑いした。


『あはははっはははははっ! それもそうよねぇ! あまりに低すぎたら、笑い過ぎてお腹捻じれちゃうじゃない!』 

『いやー、気になるっちゃあ気になるけどな! 下には下がいるって安心も出来そうだし!』

『先生! こいつの魔力量はもう1とかで良いと思いまーす!』


 聞くに堪えない嘲笑の嵐に身を震わせ、耐え忍ぶセラ。そんな彼女(生徒)の姿を見ても、アランは肩を震わせて笑いながら周りと同調した。


「ぷっ……くくく……! そ、そうだな。そういうわけでセラ・アブロジウスの魔力量は1ということで――――」

「何を訳の分からんことを。減るもんじゃないし、実際に測ってみればいいだろうに」


 そんな醜悪に明るい雰囲気をぶち壊したのは、誰あろう……シヴァである。シン……とクラスが静まり返る中、シヴァは1人堂々とした態度でセラの肩に手を置き、祭壇の上へと連れて行く。


「俺は学校なんて初めて通うからよく分からんが、世の道理くらいは理解できる。周りが何を言おうが関係ない。お前だってこの学校の生徒なんだから、同じように魔力をちゃんと測る権利があって当然のはずだろ?」

「ちょ、ちょっと待ちなさい! この私がしなくても良いって言ってるのよ!? 学長の娘である私に逆らってタダで済むと――――」


 自分の思い通りの展開にならなくて苛立った様子のエルザが掴みかからんばかりの勢いで詰め寄ってくるが、そんな彼女にシヴァはほんの少しだけ圧力を加えてにっこりと微笑んだ。


「ちょっと……黙ってろや」

「う……ぁ……か、はっ……!?」


 本人からすれば、ちょっと怒っていると言っている程度。しかし、周囲がそう受け取るとは限らない。

 笑顔とは本来、威嚇の行動と言われている。《滅びの賢者》と恐れられたシヴァのちょっとした脅しに、セラを除く全員が呼吸を忘れそうなほどに恐れたのだ。


「さ、気にせずやっちまいな。お前の魔力量は結構なもんだから、自信を持ってもいいぞ」

【で、でも……魔力の放出と言われても、やり方が分からないです】

「簡単簡単。ヘソの下辺りに力を入れて、ゆっくりと息を吐き出してみな。生物の構造上、そうすれば勝手に魔力が放出されるから」


 もはや誰も止めることが出来ない状況となり、セラはシヴァに優しくレクチャーをされながら、祭壇の上で魔力を放出する。


「んなぁっ!? 魔力9万9999っ!? 馬鹿なっ!? 測定所で測れる最大値……カンストしたというのか!?」

『『『はぁあああああああああああっ!?』』』

「ふむ……数値だけ見ればエルザの9倍以上……それでもまだ少なく表示されてるけどな」


 騒然となる一同の中、セラは思いもよらない数値に目を白黒とさせ、シヴァは納得のいかない表情を浮かべる。


『そ、そんな数字あり得ない! 私たちがこんな雌ゴブリンに負けるなんて!』

『こ、故障だ故障! そうでなければインチキだ!』

「そ、そうだな……とりあえず、記録は0ということで――――」

「おいおい先生、それは納得できませんよ。故障だっていうんなら、ちゃんと直してもう一回測り直してやってください」


 再び、アランに対してのみ少しだけ圧力をかけながら話しかけるシヴァ。記録用紙に書き込もうとしていたペンは止まり、額から冷や汗を滝の様に流す。


「い、いや……やっぱり故障というわけではなさそうだ。セラ・アブロジウスの記録は表示通りということで……」

「そうですか? それなら良いんですけど……あ、最後は俺ですね。……あ、確認ですけど、本当に本気でやっても大丈夫なんですよね?」

「? あ、あぁ」


 そしてセラと交代する形で、シヴァが祭壇の上に立ち、魔力を放出する。

 

(普段通り発したら炎熱まで放出されるからな……壊さないように、気を付けながらっと……)


 大抵集団を相手にしてきたシヴァは、何気ない行動も攻撃となる癖がついている。その癖が出ないように気を配りながら、ゆっくりと魔力を放出するのだが、その上に投影された数値が凄まじい勢いで上昇し続けていく。


「い、一瞬でカンストして……!?」

「な、なんだ!? 測定所全体にヒビがっ!?」


 本気でやってもいい。そう言われて、本気で破壊を伴わない魔力を放出し続けるシヴァの魔力放出はいまだ終わることなく続く。


「ば、馬鹿な!? 測定所の耐久度を遥かに超える魔力量があるというのか!?」


 しかし、放出され続ける魔力が出終えるより先に、その圧力に耐えきれなくなったステンドグラスの魔法陣全体に細かい亀裂が入り、ガシャアアアアンッという甲高い音と共に砕け散った。 


『うわああああああああああああああっ!?』

『きゃああああああああああああああああっ!?』

「おっと、いかんいかん」


 生徒たちが怪我をしないよう、降り注ぐ鋭利なガラス片を余さず全て焼き尽くすシヴァ。そんな彼以外の者が呆然とし、あるいはヘナヘナと座り込む中、すっかりと開放的になった施設を見渡して、シヴァは深くため息をついた。


「人だけじゃなくて魔道具まで脆いなんて……現代は強度を度外視しているのか?」



ほかのざまぁシリーズもよろしければどうぞ

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