世界滅ぼすとか誤解なんだが
懲りずに始めた、新連載です。今度は書籍化できるくらいの評価を求めて頑張りたいです。
今回の新作が面白そう、面白かった、続きを早くと思われた読者様は、どうか評価ポイントや登録をよろしくお願いします。
神と人が最も近しくありながら、戦乱と混沌が渦巻く狂気の時代があった。
人間と魔族が獣人と亜人が終わることのない憎しみと共に戦いを繰り広げ、消えることのない戦火が世界を呑み込んだ。
しかし、そんな彼らの戦いは、たった1人の存在によって終わりを告げることとなる。……否、正確には、終わらせざるを得なくなった。
「これで終わりだ、《滅びの賢者》シルヴァーズよ!!」
数千万は下らない大軍を一夜にして皆殺しにし、数多の大国を滅ぼし、山も大地も焼き払い、遂には神々すらも破壊し尽くした最恐最悪の具現にして、最強の不倶戴天。
時に終わらない戦火という概念から生まれ出でた《炎の悪魔》、時に外宇宙より侵略してきた《破壊神》、そして世界を滅ぼすという狂気にとり憑かれた《滅びの賢者》と恐れられ、世界そのものの敵となった男……シルヴァーズによって、世界は滅亡の危機に瀕していた。
誰も彼も、どこの勢力、世界全てがシルヴァーズを討とうと躍起になったが、差し向けられた軍勢や英傑は返り討ちに遭い、最早常道では決して倒すことが出来ないと思い知ることとなる。
このままでは護るべき国や人々も絶滅させられる。それを悟った神々を初めとする全ての種族は禍根を乗り越えて一致団結し、遂に《滅びの賢者》を永久封印直前にまで追い込むことに成功した。
立役者となったのは、各勢力最強の猛者たち。
世界の創造と維持を司る、〝破壊〟と対を為す神、《創造神》クリア。
人類の希望である、全ての邪を払うとされる《勇者》レックス。
偉大なる魔族の王にして、世界最高の魔力を持つ《魔王》ガロード。
雄々しき獣人の首魁、戦士の中の戦士と称えられる《獣帝》エルファレス。
全ての精霊、妖精の頂点に立つ存在である《精霊宗主》カナン。
亜人を統べる者であり、雄大なる山と森と平原の覇者、《霊皇》オルキウス。
最も猛き者であり、武と戦いを司る誇り高き神、《闘神》イドゥラーダ。
いずれも世界を滅ぼすことも、救うことも出来る7人。そんな彼らが力を合わせても、封印という手段を選ばざるを得なかったことから、シルヴァーズが如何に強大な存在かが理解できるだろう。
「オレたちの力じゃ、お前を殺し、滅ぼすことは出来ない……! だからこのまま、時空間の狭間へと追放する……!!」
7人とも深く傷つき、消耗しきった体に鞭打ちながら、全霊の魔力を込めて封印魔法の行使と、シルヴァーズの動きを封じることに全力を尽くす。
彼らの目の前に居るのは、創造神が作り出した絶対破壊不可能とされる鎖で雁字搦めに繋がれた、まさに悪魔というべき外見をした、焔で出来た衣を身に纏う男。
全身は漆黒に染まり、背後から生える竜を思わせる翼と尻尾。頭からは鬼神のような角が2本、指からは血のように赤い、長く鋭い爪が生えた、まさに世界の敵を全身で表現するシルヴァーズは、破壊できないはずの鎖に罅を入れ、引き千切ってはまた新しく巻き付いて来る鎖を焼き尽くし、それだけで世界そのものを揺るがすような怒気を撒き散らす。
「己ェエエエエエエエエエエエッ!! 勇者如キガ……魔王如キガ……神如キガ、許サンゾォオオオオオオオオッ!!」
全力で抗う《滅びの賢者》の膂力に、7人の英雄英傑、神々が吹き飛ばされそうになる。憤怒と怨嗟を振りまきながら暴れ狂うシルヴァーズの背後に渦巻く魔力の奔流は、時空間の狭間へと敵を追いやるための封印魔法の入り口だ。
「ここまで追い詰められてなんて気迫と圧力……! だが負けない……負けられないっ!! ここでお前を封印し、世界を救うっ!!」
「これで最後だ……皆! 力を合わせて奴を押し込むぞ!!」
というのが7人の……というか、世界全ての人々から見たシルヴァーズの姿と、彼を取り巻く周囲の現状である。
「お願い話を聞いてぇええっ!! ていうか、誰か助けてぇええええええっ!!」
実際、世界を滅ぼすことも救うことも出来る7人に囲まれ、破壊不能とされる鎖で身動きを封じられ、時空間の狭間へと追いやられようとしているのは、涙目になっている、どこにでも居そうな茶髪の青年である。勿論翼も尻尾も、角だって生えていない。外見だけ見れば、人間と同じだろう。
「ここまで追い詰められてなんて気迫と圧力……! だが負けない……負けられないっ!! ここでお前を封印し、世界を救うっ!!」
「これで最後だ《破壊神》……皆! 力を合わせて奴を押し込むぞ!!」
「もしお前が本当に戦火より生まれた悪魔だというのなら、貴様を倒すのは闘争を止められなかった我らの責だ!!」
「だから破壊神でも悪魔でも賢者でもねぇって言ってんだろ!? 本当に俺の言ってることが分からない!?」
「くっ!? 何という咆哮……! 鼓膜が破れそうだ……!」
「しっかりして!! 諦めちゃダメだよ!! もう少しだけ頑張って!!」
「いや頑張んなぁぁあっ!?」
「その身の全てを引き換えにしてでも私たちごと世界を滅ぼす? ここまで追い込まれてもまだ世界を滅ぼすことを諦めないなんて……なんて恐るべき執念。一体、何が貴方をそこまで……」
「んなこと誰も言ってねぇだろ!? あぁ、もう!! まるで聞こえちゃいない!! どうしてこんな事に!!」
実際、彼は世界を滅ぼすつもりなどサラサラないし、その動機もない。なのになぜ世界最高クラスの強者たちが、一斉にシルヴァーズの言動を曲解するに至ったのか……そもそも口にした言葉が全く別の物騒なセリフに置き換わって彼らの耳に届くのは何故なのか。
(おかしいなぁ……俺ってただの田舎集落で生まれた一般人だったはずなのに……)
発端は子供の頃に遡る。
シルヴァーズは元々、戦争や戦いを恐れて逃げてきた者たちが、隠れるように森の中に作り上げた集落で生まれた子供だった。
魔物よりも人の方が恐ろしいこの時代では、(比較的)奇跡のように平和な村で育ち、極ごく普通の少し腕白な鼻水垂れの少年だったのだ。まかり間違っても悪魔とか破壊神とか、そういうのではない。
(全ての始まりはそう……村に現れた魔物が原因だったっけ……)
そんなある日、一匹の魔物が集落の近くに現れた。闘争によるものか、はたまた戦争の巻き添えになったのか、傷だらけで弱り切り、餌を求めて集落を襲いに来た小型の魔物だ。
その場に居合わせたのはシルヴァーズただ1人。幼かった彼は、「俺が皆を守るんだっ!」と子供特有の正義感で何とか魔物を追い払ってしまったのである。
それが全ての始まり。1度上手くいってしまえば、7歳の男の子など自分がヒーローか何かと勘違いしてしまう単純な生き物で、今後も村に近寄ってくる危険な魔物を追い払ってやろうと決心してしまったのだ。
そして更に幸か不幸か、その後もシルヴァーズでも追い払える程度の弱い魔物とばかり遭遇し、自分がどれだけ危険な事をしているのか理解できないまま、強くなるために木の枝で素振りをしたり、独学で簡単な魔法を習得したりして、村の危険を追い払い続けてしまったわけである。……実際、村が被る被害が食料程度の魔物しか来なかったのはさておき。
(そんなある日、どこぞの魔術師みたいなのが現れて……)
何時もみたいに村の警備に森を探検する、調子に乗りまくっちゃっている7歳のシルヴァーズ。すると彼は、村全体を囲むような怪しげな魔法陣を描く、1人の魔術師を発見してしまう。
こんなものを描いて何をする気だ、と詰問するシルヴァーズに、魔術師は子供相手に警戒を解いたのか、自らの目的をペラペラと、自慢するように喋った。
どうやら中に居る人間を生贄にして自らの魔力に変換する類の魔法を行使するための陣だったらしい。偶然村を見つけた魔術師は、居なくなっても困らない人間を探していた為、どの国にも属さない村の人間は格好の材料だったという訳だ。
(……そんで戦いになって……)
無論、当時正義感の強かった幼い少年のシルヴァーズはそんな事を許すわけがない。彼は子供ながらに魔術師に戦いを挑んだ。
ここで彼に一つの幸運と、一つの不幸が訪れる。前者は魔術師が根っからの研究畑の人間で、戦いなどロクにしたことのないモヤシであったということ。人1人を殺傷することが出来る程度の魔法を使えるようになっていたシルヴァーズは、村を生贄にしようとした魔術を打ち倒して見せた。
――――許さんぞ小僧ぉ! 呪ってやる……我が魂の全てを引き換えにしてでも貴様を呪ってやる!!
そして後者にして最大の不幸は、魔術師が死に際にシルヴァーズに掛けた呪いである。
その呪いの正体は、家に帰れば実の両親から魔物呼ばわり、化け物扱いされたことで効力が証明された。
後から分かった事だが、どうやら呪いを掛けられた者は他の生物から見て途方もなく邪悪で、敵対心を煽るような姿と言動をしていると錯覚させるものらしい。それこそ今まさに勇者や魔王、神々を筆頭とした者たちが揃って騙されるくらい強力な。
結果、7歳にして村を追い出される形となり、1人呪いを解呪するべく旅を始めたシルヴァーズ。しかし、全ての生物から敵対心を抱かれる呪いを受けた彼の目的は、遅々として進まなかった。
なにせ師事者が得られないので魔法は全て独学。何かを破壊する魔法の適性はあったが、それ以外の魔法の適性はお世辞も無かった彼が呪いの解呪に手こずるのも無理はない。
その上、人前に出れば警戒、攻撃されるため買い物すら満足にできないときた。盗みを働いてでも飢えを凌ぐしかなかったのだが、そんな事をすれば余計に敵対心を煽ってしまうのは当然。
シルヴァーズは世界の破滅など欠片も目論んじゃいない。生きるために何でもし、攻撃されては生きるために反撃し、戦闘になっても殺されないために戦う魔法を積極的に習得しただけ。
どれだけ敵意が無いことをアピールしても、まったく別の邪悪な言動として認識されるため、どんどん敵が増えていく。そうして彼の悪名は人から人へと伝わり、討伐隊が、軍が、英傑が、最強が押し寄せるようになってきて、それらに対抗するべく強さばかり優先するしかなかった。
その結果が、《炎の悪魔》、《破壊神》、《滅びの賢者》という、全く嬉しくない二つ名である。
(あの瞬間から俺の人生にケチが付いたのか……! しかも生きるためとはいえ、俺も色々やらかした自覚があるから、すっごく生き辛くなっちゃったし……!)
一時期、人前に出ずに山に引き込もうと考えたこともあったが、時は既に遅し。なにせ不穏分子や敵対者を排除するのに妥協しないのが今のご時世である。悪名が世に広まる頃には、大陸を丸ごと圏内に収める索敵魔法の使い手に目を付けられ、後に星1つ分を圏内に収める索敵魔法の使い手に目を付けられて逃げ場を完全になくしてしまっていた。
(いや……ぶっちゃけ1人だと寂しいし、どんな形でもいいから人と関わりが欲しいとも思ったけど……)
そんな事を考えていると、遂にその時はやってきた。
「後、もう少し……! 皆の力を、一斉に奴へとぶつけるんだ!!」
『『『おおおおおおおおおおおおおおっ!!』』』
「ちょ、おまっ!? あ、あ、あ……あぁ~~~~~~~っ!!」
勇者レックスの号令と共に、7人の攻撃が束となってシルヴァーズの腹を穿つ。その勢いで後ろへと押し出されたシルヴァーズは、時空間の狭間へと吸い込まれ、その入り口である魔力の渦は跡形もなく消え去った。
それは、《滅びの賢者》がこの世界から消えてなくなったということ。
しばしの静寂が7人を包む。それに耐え切れなくなったように、彼らは一斉に歓喜を上げた。
「やった……ついに俺たちはシルヴァーズを倒したんだ!!」
不倶戴天の化身、《滅びの賢者》を倒したという朗報は世界を駆け巡る。ほんの数年前までは殺し合いをしていた種族同士は世界の破滅から逃れたと思い込んで喜び、互いの体を抱きしめ合い、互いの健闘に心からの賛辞を贈る。
全世界共通の敵の登場により戦乱の禍根を乗り越え、同盟を組んだ全種族は平和の尊さを改めて実感し、軍事同盟を友好同盟へと変更。これが末永い平和の時代の始まりであった。
時間が急速に巻き戻ったり、早送りになったり、時には突然停止する、地面も空気もない特殊な宇宙空間にも似た時空間の狭間。
世界中の人々が世界の敵を倒したことに喜び涙しているその頃、勘違いで勝手に世界の敵呼ばわりされていたシルヴァーズは、只人が入り込めば刹那の瞬間に消滅するであろう時空間の狭間から平泳ぎ、バタ足、クロールで脱出しようともがいていた。
「死んで……たまるかっ!! 俺は……生きるんだっ!」
死にたくない。それこそが彼が戦ってきた理由。確かに多くの敵をこの手で殺めてきたが、ただ生きることを願い、敵に抗うことの何が悪いというのか。たとえ脱出不可能と呼ばれる時空間の狭間に追いやられようとも、こんな理不尽に殺されては今まで何のために抗い続けたのか分からない。
「おおおおおおおおおおおおおっ!!」
出口よ開けと、シルヴァーズは蒼白い光を解き放ち、時空間の狭間の全てを埋め尽くす。
《炎の悪魔》の由来ともなった灼熱の閃光。全身から放出される閃熱は物理的な力全てを無意味なものとする空間をも焼き尽くした。
すると空間に大きな亀裂が入り、出口を思わせる強い光が漏れだす。
「あそこに飛び込めば、もしかしたら!!」
ここは時間の流れが不規則に入り乱れる特殊な空間だ。元の時間軸に戻れる可能性など芥子粒ほどしかないどころか、もしかしたら全く違う時代、それどころか全く違う星に投げ出される可能性もある。
それでも水や食料どころか、空気すらないこの場所よりかは遥かにマシなはず。一縷の望みをかけて、シルヴァーズは光の中へと飛び込んだ。
この時、彼はまだ気づいていなかった。不規則な時間の流れでも影響を受けない、色々とおかしい彼の肉体と魂の中で、唯一シルヴァーズを長年苦しめていた呪いだけが局所的に影響を受けていたことに。
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