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あまね日和  作者: アサオ
5/10

自意識過剰な勘違いを


「希織さん、お風呂の準備が出来ましたよ」


「んー、あー、ちょい待って!今いいとこなんよー」


「はい、はい、なるべく早く入ってくださいね」


そう言い残してお母さんは居間を出ていった。


部活を早めに切り上げ、マッハで帰宅した私は真っ先に居間に向かい、テレビ番組の録画予約の確認をした。案の定、予約はされていなかった。


そのあと、少し早めに夕食を済ませ、後はずっと今のソファーに陣取り、お気に入りのぬいぐるみ『熊吉』を抱えて、テレビに食いついていた。


部活を早く切り上げてまで見たかったのは春の特番『探検隊シリーズ』幻の生物を探して秘境を探検するといった内容のものだ。偶然にしてはタイミング良すぎのハプニングや探検隊のわざとらしい演技がめりっさ面白い。あからさまのヤラセ番組をゴールデンタイムで堂々と3時間も放送し続ける心意気が大好きだ。


『このあと、ついに幻の生物と遭遇!?』


そんなテロップが出るとコマーシャルになった。


ちょうどキリのいいところなので、私はテレビを消して居間をでる。録画してあるし、お風呂を上がってからゆっくりと見よう。


「はっ!」


脱衣所で気合いを入れて服を脱ぎ捨てる。乙女たるものいついかなるときも油断は禁物だ。


一糸纏わぬ姿になった私は浴室に入る。


「……ふぃい〜」


軽く身体を洗ってから、湯舟に浸かって一つ息を吐いた。湯加減は熱くてちょうどよかった。お風呂は熱いからこそお風呂だ。ぬるま湯なんかに浸かってなどいられない。だから、一番風呂はいつも私、お母さん達の後だとぬる過ぎるからだ。


熱さ故か頭がぼーっとしてくる。なんとはなしに今日、一日を思い返す。


今日は少し変わった一日だった。


朝はいつも通り寝ぼすけの私を起こしに来てくれた幼なじみの姫、そんな姫を私は寝ぼけたふりをしてベットに押し倒したりなんだりすると、顔が真っ赤になる姫はやっぱり可愛いかった。そのあと散々、怒られたのはいわずもがな。


姫と一緒に家を出て、少し歩いて、電車に揺られて、また少し歩いて、学校に着いた。


学校についてまずすることは、下駄箱を開けることだ。私のではなく姫の下駄箱をだ。姫の下駄箱にはやっぱり今日も数通の便箋が入っていた。私はそれを姫に気付かれないように回収する。私の姫に近付く身の程知らずのゴミ野郎は当然、血祭りだ。


姫は私が守る。


問題がある気もするが、私に再起不能にされたぐらいで姫を諦めるような根性無しだ。そんな野郎が姫と釣り合うはずがない。私の行動は当然のことなのである。


授業は真面目にうける。たまに居眠りをすることもあるが基本真面目だ。意外にも私は優等生なのだ。テストの点数だって悪くはない。


昼休み、姫を呼び出そうとしていた野郎を血祭りにしてから、姫と一緒に学食へ。今日の学食は少し騒がしかったがなにかあったのだろうか?


午後の授業も滞りなく進み放課後。


部活に行って少し待っているとゆらみんが人を二人連れて来た。


一人はめりっさ美少女の黒澄花梨ちゃん。はかなげで、護ってあげたくなるような子だった。しかも、転校生なんて素晴らしい属性がついていた。


――そしてもう一人……。


「戸塚凜次郎」


男だった。無愛想で表情に余り変化のない、そのわりにはノリが良かったり、悪かったり。


どうせまた姫狙いの馬鹿かと思った。


よくあることだった。今までも数え切れないほどの馬鹿どもが姫目当てで料理部に入っては辞めていった。まったく私達の料理部をなんだと思ってるんだろうか?


はっきり言って問答無用で追っ払おうかとも思ったが…他でもないゆらみんが連れて来た人だから、無下に扱うのもどうかと思い。とりあえず面接でもして、後は難癖つけて追い返すつもりだった。



追い返すつもりだった。



初めに「何故、料理部に入ろうと思ったのか?」そう聞くと――。


「料理が出来るようになりたかったから」


そう、淡々と答える彼。


まあ、無難な答えだし在り来りで、他の奴らと大差なかった。


これじゃわからない。


だから、私は率直だけど間接的に「誰が好み?」と聞いた。そうしたら彼は――。


「……俺は桜谷さんみたいなのが好みです」


彼はあろうことかまさかの私狙いだった。


「……まぁ、たまたま桜谷さんが俺の好みだったから」


ただ淡々と言う。相変わらず表情に変化はない。とても嘘をついてるようには見えなかった。となると本当に私を狙っているのか?


少し、考えて答えをだした。


私が狙いっていうなら合格。追い返すのは辞めにして入部を認めることにした。


「むふふふふ、むふふのふふふ、むふふのふ」


明日からのことを想像すると自然と笑みが零れた。


さーて、彼は一体、何日もつかな〜?


入部するにあたって私は彼に三つのことを誓わせた。一つ目と二つ目は大切なことだが、重要なのは三つ目だ。


『部長の言うことは絶対である』


むふふふ〜。彼にはなにさせようかな〜。あんまり厳しいものだとすぐやめてっちゃうから、初めは少し軽目のやつにしてぇ〜。だんだん馴れてきたらハードで厳しいのにしてぇ〜――あぁ〜、楽しみだなぁ〜。勿論、逆らったりしたらすぐに追い出すつもりだ。


「戸塚凜次郎かぁ〜。なかなか悪くないかも」



++++++++++++



「……ッ!?」


なんだ……?今、背中を寒いものが?


「どったの?」


「……気にすんな。なんでもない」


「なにか悩み事?しょうがない、お姉さんが聞いてあげますよ!」


「……人の話しをまったく聞かない女がいるんだが、どうしたらいいと思う?」


「そうか、なるほど、恋の悩みか……ごめん!私、恋愛経験無いからわかんない!」


話しがちっとも噛み合っていなかった。


「ねぇ、とっちー。も、もし、よかったら私をお嫁に貰ってくれないかな?」


そして、意味もわからなかった。


「……またそれか……あんだけ食えば腹いっぱいだろ?いい加減、帰れ」


ファミレスを出ても今だに俺をしつこく付け回す団子坂あまね。


いい加減、面倒臭いので早く帰ってほしい。


この女とは本当にもう関わりあいたくなかった。


遡ることちょっと前。俺は団子坂あまねに強引にファミレスまで引っ張っられて、そのまま勢いで中に入った。


「えーと、ここから、ここまで全部」


メニューを広げてそんなことを言うもんだから流石にビビった(ウェイトレスも引き攣った笑いを見せていた)が俺が食べるわけでも、代金を払うわけでもないから放置した。


俺の胃はすでに肉まんしか受け付けない状態になっており、他のものを食べる気には慣れなかったので何も注文しなかった。この行動はある意味正解だったとすぐに思った。


暫くして、次々と運ばれてくる料理達。まずはステーキ、次にステーキ、そしてステーキ、やっぱりステーキ、ステーキステーキステーキステーキステーキステーキステーキステーキ――……。


次から次へと出て来る素敵なステーキの軍勢に胸やけがした。見ただけで腹一杯というやつだ。団子坂あまねが言った、ここから、ここまで、と言うのはどうやら全て素敵なステーキだったようだ。そして、それを満面の笑みで次々と平らげていく団子坂あまねを見て、また胸がムカムカした。なにか食べていたら戻していただろう。


「……そんなに食って大丈夫なのか?」


あまりの食いっぷりについついそんなことを聞くとあまねは。


「まともなご飯なんて久し振りだったから……とっちー、ありがとう」


はて……?何故、俺はお礼なんか言われてるんだ?肉まんか?いや、待て、肉まんのお礼なら一応さっき聞いたぞ……すると、このお礼はそれとは別のことか?


――なんでだろうか、とっても嫌な予感がする……。


「……おまえ」


「おまえじゃなくて団子坂あまね」


いちいち面倒臭い奴だ。


「…………なあ、あまね。聞きたいことがあるんだが?」


「恋愛経験はないよ?」


「そんなことじゃなくて…あまね、おまえ金はあるのか?」


「お金?そんなのないよ。でも、愛はあるから、おーるおっけー!」


「…………」


愛だけで飯が食えるなら、みんな仕事しないで、きっと恋愛するな。


つまりはこの女、俺におごってもらう気満々でファミレスに来たわけか……。だから、わざわざ俺を強引に引っ張ってきたと、そういうことですね?


「…………」


とりあえず財布の確認をした。朝、いつもより少し多めに入れてきたとはいえ、ステーキ軍団全てを賄い切れる額は入ってなかった。


「ねぇ、とっちー」


「……んあ?」


「わ、私をお嫁にしてやってください!」


「…………」


頭が痛くなってきた。最強の意味不明。この女の言動全てがもうなにがなにやら…。この近くに悪い電波を発信する悪の軍団の秘密基地でもあるんだろうか……いかん、俺まで変な電波を受信し始めた。


そんなこんなで、そのあと俺は近くのコンビニのATMまでマッハで向かい。金をおろしてマッハでファミレスに戻り、なんとか、ことなきを得て今に至るわけである。


「それでね、とっちー、折り入って頼みがあるんだ」


「却下。早く帰れ」


「そのことなんだけど…実は私、帰る所がないんだよ…」


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