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あまね日和  作者: アサオ
4/10

《第一章》俺とおまえで夕暮れの道を


「ありがとうございました〜」


元気のいい店員の声を背に俺はコンビニの外に出た。


手には馴染みの通学鞄とコンビニのレジ袋。


レジ袋からは食欲をそそるいい匂いがする。ちらっと袋の中を覗くと今日の夕飯である3つの肉まんが見えた。


夕飯は練習も兼ねて自分で何か作ろうと思っていたのだが、帰り道コンビニを通りかかった時、無性に肉まんが食べたくなった俺は誘惑に負けて肉まんを買ってきた。


あの後、俺は入部届けにぱぱっと必要事項を記入し桜谷さんに提出。次に料理部部員としての護らなくてはならない三つの規約を聞かされた。


一つ、みんな仲良く。


二つ、作った料理に責任を持つ。決して食べ物を残してはならない。


三つ、部長の言うことは絶対である。


この三つを護ることを義務ずけられた。三つ目がどうにも納得がいかない部分もあったがとりあえず護ることを誓った。もとい、誓わされた。


その後は今日は藤崎がいないし、部長がテレビ番組の予約を忘れたからといった理由で解散となった。早速、部長に疑惑を持ったのは言うまでもない。


「…………ふぅ」


夕焼けに染まる空を見上げ一つ息をついた。


今更ながら部活になんか入ってよかったのだろうか?


今までは極力、人と関係を持たないようにと心掛けて生きてきた。


理由は簡単、面倒臭いから。


人に合わせるのが面倒臭い。


人との会話が面倒臭い。


人と関わるのは本当に面倒臭い。


奴らは我が儘だ。


まあ、こんなことを考えてる俺自身も相当な我が儘で自分勝手の面倒臭い奴なんだろうな。



そんなことをぐだぐだと考えながら歩いていると公園のまえを差し掛かった。


――そうだな、少し早いがたまには公園のベンチで夕食というのもいいかもしれない……。


しかし『後悔先に立たず』とはよくいったものだ。


なんで、俺はこの時、公園なんぞで飯を食おうなどと思ったのだろうか?


きっと、多分、それが運命ってやつなんだろう。


もし、これからのことを物語とするならば、その物語は、きっと、ここから始まったのだろう。



――俺とあいつの物語が――。



「……………」


ベンチには先客がいた。二つ並んであるベンチの一方に髪の長い女が俯せになって寝ていた。その女はまるで死んでいるかのようにぴくりとも動く気配は無い。下手をしたら本当に死んでいる可能性もないではないが、俺の知ったことではないので放置して、女が寝ていないもう一方のベンチに腰を下ろした。ようは面倒臭いだけだった。


さて、夕食にしようというところであることに気がつく。


――飲み物を買い忘れた……。


何を隠そう俺は飯の時には飲み物がないと食べられない性分なのだ。


公園の中を見渡すと少し離れた所に自動販売機があった。俺は鞄と肉まんの入った袋をベンチに残し自動販売機の所までいき缶コーヒー(ブラック)を買うとベンチまで戻ってくる。


「……肉まんが、ない?」


俺がベンチを離れた僅かな隙に肉まんの入った袋が忽然と姿を消していた。ベンチには俺の鞄を残すのみである。


「…………」


「がつがつむしゃむしゃうまうま」


視線を横にズラすと、ベンチでさっきまで寝ていたはずの女が起きていて、なにらや白くて、丸くて、ふわふわで、肉汁ジュワーで美味しいものを貪るように喰らっていた。


あぁ、すごく、おいしそうだなぁ、肉まん。


「……おい」


「がつがつむしゃむしゃうまうま、ふぁあい!なぁんれぁふぁ?」


「……とりあえず口の中のものを飲み込め」


「ふぁ――むくぅあ!?んぐぅ!んー!んー!」


女は急に苦しそうな表情になると何かを求めるように手が空中をさ迷う。どうやら『俺の』肉まんを喉に詰まらせたようだ。当然の報いだな、ざまあみろ。


「んー!んー!」


直も女の手はさ迷い続けてる。以前として苦しそうな表情のままで、おまけに涙を溜めている。


「……ほら」


なんていうか――あれだ…なんか可哀相になってきたので、俺はつい、さっき買ったばかりの缶コーヒー(ブラック)を差し出してしまった。



++++++++++++



「……おまえ、いつまでついてくるきだ?」


「私の名前は『おまえ』じゃなくて『団子坂あまね』さっきいったでしょ?」


「……団子坂」


「堅苦しいなー。名前で呼んでよ」


「……あまねさん」


「さん付けって他人行儀じゃない?」


「他人だろ」


「ともかく、さん付けはダメ」


「……あまね」


「とっちー私より年下だよね?」


「だからなんだ?それととっちーってなんだよ」


「戸塚だからとっちー」


「…………」


この際何も言うまい。面倒だ。今更、呼び方なんてどうでもいい。


「で、とっちー、年上のお姉さんを呼び捨てはどうかと思うの」


「……あまねさん」


「だから、さん付けはダメだって」


「…………」


めんどくせぇ!……いかん。心の中といえ。思わず叫んでしまった……しかし、この団子坂あまねと言う女、前代未聞に面倒臭い。俺の面倒臭いランキングぶっちぎりの一位だ。


――はぁ……変なものを拾っちまったなぁ……。


あれからの経緯はこうだ――俺が缶コーヒー(ブラック)渡し、事なきを得た女、俺は自前の面倒臭いセンサーで本能的にこれ以上この女に関わると面倒臭い事になることを予見した。面倒臭いことに比べたら肉まんの代金なんて安いものだ。そう考え、さっさとその場を離れようとしたのだが……何が目的なのか、案の定、後をつけられ面倒臭いことになっている。。


なんとゆうか、いくら予見出来ても回避できるとは限らないようだった。不甲斐ない。


「ねぇ、とっちー」


「…………」


「お腹空いた」


「…………」


「ファミレスかなんかに食べに行こうよ」


「……一人で行け」


「ファミレスを略さないで言うとファミリーレストランだよ?ファミリーつまり家族で行かなきゃしょうがないじゃない」


「……俺とおまえは赤の他人だろ」


「とっちーは私のすてでぃ!」


「……おまえステディの意味わかってないだろ?」


「あは、細かいことは言ってちゃ大物になれないぞ!」


細かいことか?それに大物になるきなど更々ない。


「いいから行こう!」


言うや否や団子坂あまねは俺の手をとり、ぐいぐいと引っ張っり先をいく。俺は団子坂あまねに引っ張っられるがまま歩き出した。


ほんのりと甘い香りがした。


どこか懐かしく、安心出来る香り。


自然と前を歩く団子坂あまねに手が伸び――。


「……!?」


――お、俺は何をしようとした……?


触れる直前で止まった――止めた手を凝視する。


不意に前を歩く団子坂あまねが立ち止まり、振り返った。


「ねぇ、とっちー」


「な、なん――だ?」


団子坂あまねの突然の行動に柄にもなく取り乱してしまう。



「私たちってさ」



夕日に彼女の長く綺麗な髪が照らされる。俺を見つめる瞳はどこまでも真っ直ぐで――。



「どこかで会ったことない?」



――不覚にも、この世のなによりも綺麗だと思ってしまった――


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