料理で出会う出会いを
「む……!これはなかなか、美味い……」
「ふっふーん。当然です!この料理部のエースであるゆらみん様の手料理がまずいなんてことはありえんです!」
「おまえ、料理部だったんだな」
昼休みの二人きりの教室で俺と藤崎は机を二つくっつけて向かい合わせに席に座り、藤崎ご持参のお昼ご飯にしては大きすぎる重箱を二人でつっついていた。なんかあれだカップルみたいだった。
こうなった経緯を簡単に説明すると、俺が学食に行かないと私も行かないと藤崎は言い張り、俺としては藤崎お節介など知ったことではないので、無視して購買部にパンを買いに行こうとしたところ藤崎に「今日、お弁当作りすぎちゃったのでよかったら食べませんか?」と重箱を差し出された訳である。
「美味いのはいいんだが、いくらなんでもこの量は作り過ぎの限度を超えていると思うぞ」
「あは、それがですね今日はなかなか上手くいくもんですから、調子に乗ってしまったんです」
綺麗な装飾が施されている三段重ねの重箱。とてもじゃないが学生のお昼ご飯にはとてもみえない。
「だからってこんなに学校に持ってくることはないだろ?」
「あは、これでもまだほんの一部なんですよー」
「…………」
言葉を失った。これでほんの一部だと?……考えるのはやめておこう。想像で胸やけが出来そうだ。
でも、朝飯抜きでお腹と背中がくっついていた俺にとっては腹一杯食べられる上にただなので文句のつけようはない。これで不平不満を言ってたら罰が当たりそうだ。
「しかし、おまえはこんな重箱を持ってきておきながら、学食行こうとしてたのか?」
「あはは…正直どうしようかと思ってたので実は助かりました」
遅かったかもしれないが今気付いた。藤崎は案外、阿呆の子なのかもしれない。
ひょいと箸でだし巻きたまごをつまみ、口に運ぶ。ふわっとした感触とともに口の中にじゅわっと味が広がる。
お世辞抜きにしてもめりっさ美味い。
どれもこれも今まで主食がコンビニ弁当かインスタント食品(戸塚家は両親共に料理はしなかった――もとい出来なかった)だった俺には味わったことのない暖かい味がした。
自然とこんなに美味しい物を毎日食べられたら幸せだろうなと思った。
「美味しいですか?」
「……ああ、美味い」
「こんなに美味しい料理を毎日、食べられたら幸せだと思いません?」
「微妙に自意識過剰だな……けど、そうだな…確かに毎日こんな美味いの食べられたら幸せだな」
「ふふーん。やっぱりそうですよね!そこでです、かりん君に提案があります!もし、よかったら料理部入りませんか?」
「無理。面倒臭い」
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「ぶちょー!聞いて喜べです!今日はなんと二人も新入部員をゲットしたです!」
「おぉ!よくやったぞゆらみん!頭まなでなでしてあげます!なでなで」
「あは」
放課後。俺は料理部の活動場所である調理実習室にやってきた。
理由は簡単、料理部に入部するからだ。
本来の俺なら部活動なんて面倒臭いものに進んで入部するなど考えられなかったのだが(現に昼休みだって間髪入れず断った)藤崎に「料理が出来るようになれば毎日美味しいご飯が食べられますよ」この提案は俺にとってかなり魅力的だった。
昼休みの藤崎の手料理は実を言うとかなり衝撃的だった。この世にはこんなに美味い食べ物があったのかとさえ思った。
今まで進んで楽しようと考え、面倒臭いことは避けてきた俺だが、毎日こんな美味いものを食べられたらと思うと、面倒臭いことでもしてもいいと思えた。
そんな訳で、面倒臭くても俺は料理部に入ることにしたわけだ。
「なでなで」
「あは」
「部長に由来美ちゃん、いつまでそれやってるんですか?」
「あらやだ!副部長さんが仲睦ましい私とゆらみんを見て嫉妬していっしゃいますわよ!」
「わかります!姫先輩はうさぎさんなんです!淋しいと死んでしまうんです!姫先輩もなでなでですね!」
「なでなで」
「なでなで」
「ふにゃ〜……って、違う!やめてください!人の頭を勝手になでなではやめてください!」
「ほっほっほ、よいではないか〜よいではないか〜」
「あーれー!」
「なんだかんだいって、姫先輩ノリノリです」
「そんなことはありません!いつまでも遊んでないでそろそろ話しを進めますよ!」
「はいはい、まったく副部長はお硬いなぁ…」
「そこが萌ですよ部長。ギャップ萌です」
「なるほど副部長さんは萌えキャラで最近流行りのツンデレさんだな。どうりで萌えるわけだ」
「なっ……!」
俺が前触れなく口を挟むと副部長さんの顔が真っ赤になった。
「おっ!新入部員あんた無愛想なつらして意外といけるくちね!君!名前は!?」
「戸塚凜二郎」
「トツ・カリン・ジロウとな!?なんとミドルネーム持ちか!やるなおぬし!」
「当然です!かりん君は私のマブダチなのですから!ただの無愛想とはスペックが違います!」
褒められてるのか皮肉言われてるのか微妙なところだな。
「ふふ、なかなか期待できそうだな。それで、そっちの美少女は?」
「え……?あ、は、はい!私は黒澄花梨っていいます」
急に話しを振られ驚きながらもしっかり自己紹介はする美少女転校生の黒澄。彼女も料理部に入るらしい。
隣の席になった藤崎が朝の段階で既に勧誘に成功していたそうだ。
「うきゃー!なんだ、あの美少女は!お持ち帰りしていいかな!?いいよね!いただきまーす!」
「やめなさい部長!黒澄さんが怯えてますよ!」
「なんだよー、またヤキモチかよー、まったく副部長は独占欲が強いんだからん♪」
「ち、違います!なんで女どうしでヤキモチを妬かなくてはならないんですか!?」
「え?姫先輩って部長の彼女さんじゃなかったんですか?」
「なるほど副部長さんは同姓愛者。把握した」
「それは大変ですね。日本ではまだ同姓結婚は認められていませんし…」
「姫…障害は多いけど二人で幸せになろうね!」
「い、いい加減にしてください!話しが飛躍しすぎです!が、学生の身分で結婚だなんて……――じゃなくて!私は部長のことが好きでも、まして彼女でもありませんし、同姓愛者でもありません!」
顔を真っ赤にして必死に反論する副部長さんは旗から見ていてとてもほほえましく、一同、そろってクスリと笑った。