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お姉さまはやはりすごい人でした


「初めまして。デルフィーナの3番目の姉になりますロレインですわ」


 清楚な雰囲気の美女であるお姉さまは美しい仕草でクラウディオにそう挨拶した。先ほどの恐ろしい発言などなかったかのような柔らかな笑みを浮かべている。色の白さと線の細さが繊細な雰囲気を作り出していた。本当に黙っていれば、儚げな美女だ。


「ああ。楽に座ってくれ」


 クラウディオはお姉さまの落差に動揺しながらも挨拶をかわし、座ることを勧めた。もちろんクラウディオはお姉さまの夫であるネイトにも勧めたが、護衛も兼ねているからと姉の背後に立った。それを咎めることなく、クラウディオは対座にわたしと並んで座る。

 クラウディオは部屋にいるウェズリーにも席を外すようにと指示をしていて、今ここには4人とカルラだけだ。そのカルラも4人分のお茶を用意すると、挨拶をして静かに部屋を退出した。


 こうして二人を見ていると、少し前の祖国にいたような懐かしさがこみあげてきた。いつだってあの閉ざされた離宮の中ではお姉さまと一緒にお茶をしたのだ。


 それがお互い結婚して、夫となった人も一緒に話すことになるなんて。


 不思議な思いを感じながらお姉さまを見つめた。視線が合えば、お姉さまがにこりとほほ笑んでくれる。その笑みに嬉しくなる。


「お姉さま。お久しぶりです。会いに来てくださって嬉しいです。でも、こちらに来るにはもっと時間がかかると思っていました」


 わたしも嬉しさににこにこと笑みを浮かべてまず疑問に思ったことを尋ねた。3日前に招待状を送ったばかりなのに、どうしてこの王宮にいるのか。少なくとも片道2週間はかかるはずだ。

 転移魔法を使うことも可能だが、招待状を送るにはやはり日数がかかる。いくらなんでも早すぎだ。


「国王陛下から相談があると招待状が来たので、すぐにお邪魔したのよ」


 驚いた? という顔をされて素直に頷いた。お姉さまの口ぶりからすると魔道具と魔法陣についても伝えられているのかもしれない。


「実はね。一週間前からこの王都に宿泊していたの」

「え?」

「宿の方に王宮から使者が来たのよ」

「お姉さまはわたしに会わずに帰るつもりだったの?」


 意外なことを聞いて首を傾げれば、お姉さまはころころと笑った。


「ちゃんと面会を申し込んでるわよ? 許可をもらうまで時間がかかるということで待っていたの」


 どうやらお姉さまはこの国にわたしに会いに来てくれたようだ。そして面会の申し込みをして待機していたところに今回の迅速な招待につながったという事らしい。


「知っていたの?」


 クラウディオに聞けば、彼はあっさりと頷いた。


「面会は調整中だった」

「知っていたなら教えてくれたらよかったのに。そうしたらわたしから会いに行ったわ」


 そう不貞腐れると、お姉さまが嬉しそうに笑みを浮かべた。


「クラウディオ殿下は貴女を連れて帰られないように知らせなかったのよ」

「黙って帰らないわよ」

「でも、国が懐かしいでしょう?」


 それはそうだ。ここは一人きりだし、お父さまにもお母さまにも会いたい。


「ロレイン王女」


 クラウディオが渋面でお姉さまの発言を止めた。お姉さまはにこりと笑う。


「簡単に行き来できるように、転移の魔道具を作ってきたの。ほら、祖国の方には魔法陣がすでにあるから、デルフィーナだけが転移できるものを作ったのよ」

「転移の魔道具?」


 何でもないことのように言っているが、唖然とした。簡単に転移の魔道具と言っているが、かなりの高度な技術が必要だ。祖国でも転移の魔道具を作れる者はいなかったはずだ。昔から使っている魔道具を修理しながら使っているに過ぎない。


「魔道具、お姉さまが作ったの?」

「ええ、もちろん」

「この短時間で?」

「そうよ。簡単だもの」


 お姉さまの簡単という言葉に、クラウディオは大きく息を吐いた。


「そのような重要なことを俺に聞かせてよかったのか?」


 クラウディオは王族に対する公の言葉ではなく、気安い言葉で尋ねた。お姉さまがあまりにも無防備に暴露しているので、少し不安になる。このまま捕らわれてしまうとか考えていないのだろうか。


 この国では魔道具が扱える人間は喉から手が出るほど欲しいのだ。しかも、王族二人にそれなりの魔力があると知ったら、祖国は無事でいられるのだろうか。それにもっともまずいのは、転移の魔道具で祖国と繋がっているところだ。

 不安な思いが顔に出たのか、お姉さまが安心させるように微笑んだ。


「心配はいらないわ。転移の魔道具は膨大な魔力が必要になるからこの国の人は使えない。それに、この国はすでに魔道具を使っていない。わたしが話していることも本当かどうかなんて確認できないもの」

「でも」


 あまり大国との間に軋轢など産んでほしくないので、そういう事は黙っていてほしい。


「デルフィーナは心配性ねぇ。もし祖国に何か仕掛けるつもりならこの国の水脈を破壊するから大丈夫よ」


 ニコリとほほ笑みと共に零れ落ちた言葉はかわいいものではなかった。だらだらと嫌な汗が背中を伝った。


 水脈を破壊ってそんな簡単にできることなの???

 お姉さまのことだから、不可能じゃないから堂々と話している気もする。


 お姉さまの言葉にクラウディオが息を飲むのが分かった。

 だから言ったのに。お姉さまを呼んではダメだって。気がついたってもう遅いけど。


「もちろん。バレないように気を付けるわ。あとは主要人物に腹を下し続ける、幻覚が見え続けるような呪いをかけて遠征できなくするなんて簡単よね?」

「お姉さま……」


 お姉さまから過激な言葉が出るたびに神経ががりがりと削られる。そうだ、お姉さまはこういう人だった。敵と判断したら徹底的にやり込める性格だ。この難のある性格をクラウディオに隠さず見せているということは、クラウディオを試しているとしか思えない。


「北の国に手を出すつもりもないし、魔力を持っていることも魔法陣が読めることも公表するつもりはないから安心してほしい」

「ええ。一応信頼しています。だからこそ、こうしてお話しているのです」


 微妙な言い回しではあるが、お姉さまはクラウディオを認めてくれたのだと思う。……多分。自信ないけど。


「……協力してもらえるのか?」

「色々条件は付けさせてもらいますけどね」

「無理のないことなら」


 クラウディオが答えれば、お姉さまが命の保証をすること祖国への手出しはしないこと、その他沢山の条件を伝えてきた。


「他には?」

「すべてを決めた後、契約魔法をかけさせてもらうわ」

「契約魔法?」


 クラウディオの疑問ももっともで、魔法を使わないこの国ではなじみがない。お姉さまは軽く説明した。


「契約を破った場合、命を奪うというものよ。嫌ならこの話はここまでということで」

「いや、異母兄上では難しいが、俺でよければ契約しよう」


 他にはないだろうか、とクラウディオの問いにお姉さまはうーんと指を唇に当てて考え込む。お姉さまが恐ろしいことを望まなければいいと思いながら、お姉さまの言葉を待った。


「そうね、最後に一つ。デルフィーナと一緒に出掛けたいわ」

「残念ながら、わたしはお姉さまを案内するほど外に出ていません」


 情けない顔をして言えば、お姉さまが不思議そうに瞬いた。


「どうして?」

「どうしてって。ひどい日焼けをするのが嫌だから」


 出歩かないのはイザベル対策であったが、取り合えずもっともらしいことを告げる。あまり怒りを誘発するような情報は与えたくなかった。お姉さまとイザベルとの舌戦なんて聞いていられない。恐らく側にいるわたしが一番の被害者になりかねない。それだけは避けたい。


「おかしいわね。温度調節の魔道具は持っていないの?」

「ここは暑いじゃない。暖房はいらないわ」


 祖国は北国でとても寒いから、暖を取るための腕輪がある。皆これをつけているので、冬でも外で活動できるのだ。小さいからとても便利である。


「デルフィーナ。あれは温度調節よ。暑くても寒くても関係ないし、光を遮る結界にもなっているわ」

「どういうこと?」

「快適温度にする魔道具なんだから、いつ持っていても効くわよ。もちろん日焼けもしない。国にいた時も、雪焼けしたことがなかったでしょう?」


 雪焼けと聞いて、納得した。

 どうやらわたしは勘違いしていたようだ。そしてお姉さまが首まですっぽりと隠れるドレスを着ていても涼し気な理由も分かった。自分の着ている肌を露出したドレスがとても恥ずかしいものに思えた。

 最近慣れてしまって恥ずかしいとは思っていなかったのだけど、できればお姉さまのようなドレスの方がいい。


「まあ、でもあまり王都を知らないのなら出かけない方がいいのかしら?」

「一緒に出掛けてもいいのなら、俺が案内しよう」


 クラウディオがそう言えば、お姉さまは頷いた。


「では、最終日の前日にお出かけしましょう」


 お姉さまも早く処理してしまいたいのか、そのまま具体的な話し合いの場となった。




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