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関わるのはすごく遠慮したい



 部屋に一人引きこもっていると、昨日のことに気持ちが飛んでしまう。魔道具の暴走と言ってクラウディオたちが難しい顔をしていたのもよくわからないが、彼の部下だという女性に敵視されているような態度も気になった。

 わたしとクラウディオは政略結婚で、それでもクラウディオはきちんと夫婦としてわたしに歩み寄ってくれている。わたしも彼が嫌いではないし、折角夫婦になったのだ。愛情がまだ育っていなくても、育てる努力は必要だと思っている。


 クラウディオはどこに行っても女性からとても熱心な視線を向けられているけど、あまり気にしていない。気にしたらダメだと思っているのか、すっぱりと切り捨てているようにも思う。その中であの女性は少しクラウディオの中で立ち位置が違う気がしたのだ。


「気分転換に庭でも散策しませんか?」


 ミランダから預かった書類を広げているだけで、集中力を欠いたわたしを見かねたカルラが外に出るようにと進める。昼間はとても日差しがきついので外へ出ることは好きではないのだが、今はもう夕方。日が少し傾き、暑さも和らいでいた。これならば日傘があれば大丈夫だ。


「そうね、少し歩こうかしら」 


 カルラを連れて、庭に出た。庭は日を遮るように木々が植えてある。魔道具でも見つからないかなと思いつつ歩いていれば、木の陰に隠れるようにして何かが置いてあった。わたしは無意識に屈んでそれを拾う。手のひらに収まる大きさの置物だ。重さもあまり感じず、中は空洞のようだ。

 動くかどうか確認するために、少し魔力を流すが、特に変化がない。


「魔道具だと思うのだけど、壊れているのかしら」


 誰に言うわけでもなく呟きながら、手にした置物を慎重に調べる。形状がつるんとしていて、一つだけ大きなガラスがはめ込まれている。ただすぐに魔法陣を見つけることができなかった。庭に置いてあることを考えると光源だと思うのだが、よくわからない。


 拾った木を中心に周りを見渡せば、あちらこちらに置いてある。形も様々でただ丸いものもあれば、花を模ったものもある。魔道具と言えども実用性というよりは装飾性が高い。だからこそ、使わないのにこうしておいてあるのかもしれない。


「お持ちしましょう」


 後ろを歩いていたカルラが気を利かせてわたしの持っている魔道具を運んでくれる。


「これをどうするのですか?」


 部屋の中に持ち込み、テーブルに置いてもらった。クラウディオが帰ってくる前にちょっと確認だ。


「多分これ、魔道具だと思うの。壊れているなら直せないかなと思って」


 椅子に座り、手に取った魔道具をくるくる回して、庭でしたよりも丁寧に魔法陣が書き込んでありそうな場所を探した。外に置く魔道具は魔法陣が壊れないように基本的には内側に書かれている。どこかに蓋ようなものがあるはずだ。つなぎ目もよくわからないほど滑らかな表面を何度も触りながら探すが、特に開けられるようなところがない。


 仕方がなく、先ほどよりも少しだけ強めの魔力を流した。この魔道具がまだ生きているのなら、流された魔力がどこかに溜まるはずだ。壊さないように慎重に少しづつ魔力を増やしていくと、ぽろっと表面が剥がれ落ちた。


「開いたわ」


 どうやら一定の弱い力で魔力を流し続けると蓋が開く仕組みらしい。なかなか面白い発想だ。これを祖国にいるお姉さまに見せてあげたい。きっと喜んで調査すると思う。お姉さまのよくわからない研究に活用されるはずだ。


 蓋がはまっていた個所を覗き込めば、魔法陣がびっちりと書いてあった。細かい魔法陣だが何とか肉眼で読める。

 今まで見た中ではかなり独特な飾り文字であったが、ゆっくりとなら読み解くことは可能だ。なんだか複雑そうだが見慣れない文字がそう思わせているだけで、夜に使う光源の魔道具だとわかった。点滅させたり色を変えたりする魔法が書かれている。普通の光源の魔道具よりも複雑になっているのは点滅周期や色の指定がされているせいだろう。


「デルフィーナ様は魔法陣が読めるのですか?」

「あまり複雑なものは得意じゃないけど、何となくは読めるわ」


 カルラの言葉に魔法陣から顔を上げることなく答えた。


「それは初耳だな」

「ひゃああ」


 するりと耳がくすぐられて持っていた魔道具を落としてしまった。パッと顔を上げればいつの間にかクラウディオがいた。そろりと外を見ればまだ明るい。今日に限って早く帰ってきたようだ。


「……おかえりなさい」

「ただいま。少し時間ができたから散策しようと誘いに来たんだが……」


 クラウディオが真剣な眼差しでわたしを見降ろしていて少し怖くなった。落とした魔道具を手に取って、蓋を閉める。少しだけ魔力を流せばつなぎ目も分からなくなった。クラウディオは元に戻した魔道具を手にすると、同じように魔力を流す。やや強めの魔力に壊れないかひやひやする。しばらく悩みながら魔力を流していたが、ため息を付くとわたしに渡してきた。


「開かない」

「表面を包み込むようにするのよ」


 そう言いつつ、やって見せた。ほどなくしてぽろりと蓋が取れた。


「なるほど」


 納得しているようなので、もう一度蓋をしてクラウディオに渡す。クラウディオは同じように表面に魔力を流した。今度はぽろりと蓋が開いた。


「すごい。いつもならどこかを壊してからこじ開けるのに」


 彼の呟きがとても不思議で目を瞬かせた。


「魔道具は書き換えられないようにするためと壊れないようにするために工夫されているのが普通よ。無理やりこじ開けたら魔法陣が壊れてしまうわ」

「そうなのか」


 あまりにも知らなそうなので、眉が寄る。


「もしかして、魔道具がどうやってできているかを知らないの?」

「10年以上前に魔法師団が解体した時に失われた」


 それでも全く知らないというのは不思議な気がする。少し興味を引かれたが、それ以上は聞かなかった。この国の在り方が矛盾すぎて理解できるとは思えないからだ。


 クラウディオから魔道具を取り上げると、中の魔法陣を確認する。特に壊れていないから、魔力でも流せばいいはずだ。

 蓋を開けたまま、魔法陣に少し魔力を流せば、大きなガラス部分が輝いた。優しい色が光に混ざり一定時間で切り替わっていく。この柔らかな光なら、夜の庭を幻想的にせてくれるだろう。

 なかなかおしゃれな道具に、いかにこの国が栄えていたのかを知ることができる。祖国は残念なことに遊び心よりも、実用性第一だ。

 お姉さまなら遊び心があるかもしれないけど。お姉さまの興味が呪いの方にしかないことに気がついて無理だと否定した。


「壊れてはいないみたい」


 でも使えないところを見ると、きっと起動部分がおかしいのかもしれない。


「デルフィーナ」

「何?」

「見てもらいたい魔道具があるのだが……一緒に来てもらえないか?」


 躊躇いがちに言うクラウディオを見て少し悩む。彼の目にも迷いが見られたのだ。その迷いにわたしも即答できなかった。


「理由を聞いてもいい?」

「理由か。詳しい説明は異母兄上の許可がないとできないのだが……どんな魔道具であるか知りたいんだ」


 言葉を選びながらも、まったく要領の得ない説明に嫌な空気を感じた。きっと関わってはいけないことなんだろうと直感的に思う。


「断っても?」

「いや、とりあえず何も聞かずに見てほしい」


 先ほどよりも悪い感じに転がった気がする。クラウディオをむうっとした気持ちで睨むと、クラウディオは笑った。


「そうしよう。説明はしない。デルフィーナはただ見て、なんであるか俺に教えるだけ。これで行こう」

「ちょっと一人で納得しないで。そんなにも構えることなら、わたし、関わりたくない」


 クラウディオはわたしを立ち上がらせると少し屈んでわたしの額にキスをした。なんだか子供をなだめるためにするようなキスだ。


「ちょっとした散歩ついでだ。行くぞ」

「ええええええ」


 やや引きずられるようにして、クラウディオと散策へ出かけることになった。




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