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トゥールとアレセンシアの本  作者: 川島 蛍
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アレセンシア国2

二人は崖を下り先ほど見た鮮緑の大地へたどり着く頃には陽は半分沈んでいた。

トゥールの足に出来た幾つものマメは潰れ靴下からは血が滲んでいた。

普段のトゥールならば早々に弱音をこぼして今頃は地べたに座り込み一歩も動けずにいた筈だがまだ知り合って間も無いミーゴの手前、弱い自分を見せるのは何だか恥ずかしく思え痛みを堪え歩き続けた。

鮮緑の大地は夕陽に照らされ所々黄色く色が抜けると草の影は後ろに大きく伸びていた。


「やっぱり日が暮れてきたな、もう少し急ぐぞ。」


ミーゴは何かを気にしながら先へ進もうとしていたがトゥールは未だに何処へ向かっているのかさえ知らず空腹と疲労で体力は消耗しトボトボと付いていくのがやっとだった。

沈みかけた太陽を背に茜色に染まっていく空をぼんやりと眺めトゥールはあの空の切れ目まで行けば何かわかるのかも知れないと考えていた。

しかし歩いても歩いても一向に地平線へはたどり着かず鮮緑の大地はいつの間にか灯りを無くした海の様に黒く薄れる意識の中で草の揺れる音だけが静かに聞こえていた。


「おい、大丈夫か!?」


トゥールの異変に気付きミーゴは慌てて声をかけたがトゥールは意識を失いその場に倒れてしまった。

意識の無いトゥールはただずっと暗闇の中で膝を抱えうずくまっていた。

何も無い暗闇は静寂に包まれ、そこに自分以外の気配は無く呼吸と心臓の鼓動だけが生命を感じさせた。

そして不思議な事に生暖かな暗闇はトゥールに妙な安心感さえ与えてくれていた。

やがてパチパチッと小さな炎が火花を散らして見えるとトゥールは目を覚ました。


「起きたか?」


目を開けると心配そうにミーゴが顔を覗き込んでいた。

辺りはすっかり陽が落ちトゥールはそれまでいた鮮緑の大地ではなく林の中にいた。

隣で燃える焚き火を見ながら暗闇で見た炎はこれだったのかと納得していると煙りの向こうに人影のようなものがこちらへ近づいて来るのが見えた。


「ミーゴっ、誰か来るよ!」


知らない影に警戒しミーゴの小さな体の背後へ回るとトゥールは薄っすら目を開け誰かが来るのを構えて待っていた。


「目を覚ましたか?」


煙りの中からそう言いながら出てきたのはトゥールより少しばかり年上にみえる少女の姿だった。

少女は足首まである長い銀色の髪に今日の月と同じ深い真鍮色の瞳がとても印象的だった。

少女は手に持っていた木の実や果実をトゥールの目の前にドサッと投げ置くと反対側の木に寄り掛かるようにして座りトゥールを観察するように見つめていた。

木の実は落ちた衝撃でバラバラと広がりその内の幾つかが焚き火に触れるとバチッと弾ける大きな音が林の中に響いた。

トゥールは自分以外の人間が他にもいる事が嬉しくなりさっきまで気を失っていた事も忘れ少女の方へと近寄ると早口で話しかけた。


「僕はトゥール、君の名前は?」


「ルアだ。」


「ルアか、君が助けてくれたの?君も僕と同じでこの世界に連れて来られたの?」


興奮気味に話すトゥールを見てそれまで心配しいたのが急に馬鹿らしくなり呆れた顔をしながらミーゴはルアに代わり答えた。


「そーだよ、ルアが倒れてるお前をおぶって林の中まで運んでくれたんだ!感謝しろよ!それにだなぁ…」


「私は人間ではない。」


ミーゴの話を途中で遮るようにルアは口を開くと月明かりの中、すっと立ち上がり夜空を見上げ束ねていた銀色の長い髪をほどいた。草で編まれた紐は地面にゆっくりと落ち、風に吹かれた髪が体を覆うようにして広がるとルアは狼の姿へと変わった。




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