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トゥールとアレセンシアの本  作者: 川島 蛍
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アレセンシア国

それは一瞬の出来事だった。

まばゆい光に引き寄せられ、様々な色をした光がトゥールを歪んだ空間から押し流すとそこは先程までいた隠し部屋ではなく風の吹き荒れる崖の上だった。


「ねぇ、ここはどこーっ!?」


トゥールは自分の身に何が起こっているのか到底理解出来ておらず強い風に煽られながらも声をかき消されないよう大きな声で叫んだ。

その不安げな表情はまだ幼く、みかねたトカゲはフーッとため息混じりに息を吐くと立ち上がり二本の前足を組み得意げに話し始めた。


「ここはアレセンシア国だ。少し予定とは違う所に出てしまったが、まぁいいさ。どうだ素晴らしい所だろう?ちょっと下を見てみろよ。」


トカゲに言われた通り恐る恐る下を向くとそこには鮮緑の大地が広がっており色彩豊かな花々は崖に沿って流れるように線を描き遠くの方まで続いていた。

その花の一つ一つはどれもが色濃く鮮やかで離れた場所にいるトゥールの目にもはっきりと見えており思わず引き込まれそうになるほど美しかった。

トゥールはこれほどまでに美しい景色を今まで見た事は無く、恐怖を忘れ夢中になっていた。


「わぁ、本当に綺麗だね。絵本に出てくる妖精の国みたいだ!」


「お前の言う妖精ってのはあいつらの事か?」


トカゲはニヤッと笑うと近くを飛ぶ蝶の群れを指差した。

トゥールはトカゲの指差した方を見上げ蝶の群れをじっと見つめるとそれは楽しそうに歌う妖精達の姿だった。

妖精達は見られている事に気付き、すぐさま歌うのを止めて岩陰に隠れてしまうと崖の上にそれまで聞こえていた小さく柔らかな声は通り過ぎる風の音だけになってしまった。

トゥールは妖精達を怖がらせないようにそっと話しかけ安心させようと笑顔を見せた。


「やぁ、こんにちは。君たちを捕まえたりしないから安心して。」


そう言うと隠れきれずにいた妖精の足下に落ちていた枯葉を被せなるべく目線を違う所へ向けた。

すると妖精達は安心したのか次々に顔を出しトゥールへ話しかけ始めた。


「ねぇ、あなたどこから来たの?」


「どの種族かしら?名前は?」


「まだ子供かしら?迷子?」


妖精達はトゥールの頭の周りを飛びながら次々に質問を始めた。


「え、えーっと、僕はトゥール。人間だよ、前まではモリアスに住んでいたけど引っ越してきたばかりで今の家の住所はわからないんだ。」


「人間?初めて聞いたわ。」


「お家がわからないのね、可哀想。」


「あっちで美味しい花の蜜が採れるの、一緒に行かない?」


妖精達は口々に話しかけトゥールを花の川へと誘った。


「お嬢さん方申し訳ないんだが、こいつは今から大事な用があってね、そろそろ行かなきゃならないんだ。お花畑はまた今度にしてもらおうか。おい、行くぞ。」


トカゲはトゥールが返事をする前に妖精達に断ると先に歩きだしてしまった。

トゥールは妖精達に別れを告げ前を歩くトカゲに追いつこうと急いで走った。

切り立つ崖の上に咲いた幾つかの小さな綿毛の花は開いてはすぐに飛ばされ風に舞うその姿は春の雪の様に淡く下の景色とは異なり儚く感じられた。


「待ってよ、トカゲさん!何処へ行くの?」


「遅い!お前を待っていたら日が暮れちまうよ。それに、俺はトカゲさんじゃなくってミーゴっていう立派な名前があるんだよ!」


トゥールは苛立ちながらも自分の事を気にかけているミーゴが何だか面倒見の良い兄のように思えると急に楽しくなりいつの間にか不安が消えてしまっていた。



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