表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トゥールとアレセンシアの本  作者: 川島 蛍
5/17

新しい家4

朝食を終え部屋で荷物を出し始めてから10分も経たないうちにトゥールはこの片付ける作業に飽きてしまっていた。

そしてふと、この家のことをまだ何も知らない自分に気付き無性に知りたいという欲求に駆られていた。

トゥールはまだ自分が行き来していない場所を想像しては好奇心を膨らませると、急いでボストンバッグからシャツやセーターを取り出しひと通りクローゼットへ押し込みカバンの底に残ったメッセージカードの束を机の引き出しに無造作にしまい自分の部屋を飛び出した。


(まず、隣は父さんの部屋でその向いはシャワールーム…)


さすがに父の部屋へ勝手に入るのは良くないと思い初めは二階の廊下の突き当たりにある扉を開く事にした。

その部屋は特に変わった所もなく大人用のベッドが二つ間隔をあけて並べられゲストルームになっていた。

次にトゥールは一階へ下りると扉という扉を開けてみたが洗剤の買い置きや非常用の缶詰めなどこれと言って興味をそそられる発見もなく時間だけが過ぎていた。

トゥールはだんだん退屈になり祖母の家でしていたように大きなソファーの上で寝転がり本を読み始めた。

そしてカーラさんが廊下を忙しく動き回る足音に耳を傾けていると何だか催眠術にでもかかってしまったみたいに眠気がやって来た。

うとうとしながら心地良く目を閉じようとしたとき急に何かが目の前を通り過ぎるのに気が付いた。

咄嗟に起き上がり目を凝らして床をじっと見つめると小さなトカゲが部屋の中を走って行くのが見えた。


「トカゲだっ!」


トゥールはそれまでの眠気が一気に吹き飛ぶと夢中になってトカゲを追いかけ始めた。

しかしトカゲは長い廊下をせかせか走り階段の柱へ器用に登ると狭い隙間を抜け父の部屋へ逃げてしまった。

トゥールは少し悩んだがトカゲを捕まえるだけだと自分に言い聞かせ父の部屋へ足を踏み入れた。

思っていたより狭く感じる父の部屋は、沢山の本が所狭しと並んでおり部屋にまるで合わない大きな机には万年筆とインク、大きな虫眼鏡に仕事用だと思われる資料が山積みにされていてお世辞にも綺麗な部屋とは言えるものではなかった。

しかしずらりと並らんだ古い本やインクの匂いが入り混じりどこか懐かしい気持ちにさせ覚えているはずのない赤ん坊のときの記憶が蘇ってくるような気がした。


(これが父さんの匂いなんだ。)


トカゲはトゥールとの追いかけっこを楽しんでいるかのように素早く右左へ動き机の上のインクの入れられた小瓶を尻尾で倒すと汚れて真っ黒になった四つの足で今度は古い本の上に止まりどこかへ行ってしまった。


「あぁっ!どうしよう。勝手に入ったのがバレたら叱られちゃうよ…」


慌てて本を手に取りシャツの袖でインクを拭きとろうと擦ってみたがなかなか汚れを取ることは出来なかった。

トゥールはその場にしばらく立ち止まりどうしたものかと考えた結果、本を自分の部屋へ隠しておく事にした。


(随分古そうだし無くてもきっとわからないはず…)


トゥールはそう自分に言い聞かせ部屋へと戻るとうまく本を隠せそうな場所を探し始めた。

ベッドの下や机の中、色々試してみたがやはり本棚と壁の隙間に隠しておくのが一番だと思いつくと早速本棚を動かしてみることにした。

大きな本棚は想像以上に重く子供の力では少しずらすのが精一杯だったが本を隠すには十分な隙間が出来上がった。

トゥールは汚れた本を入れようと隙間を覗くと壁に小さな扉がある事に気が付いた。

そしてここなら絶対に本が見つからないと歯を食いしばり、体じゅうに汗をかきながら必死に動かすと何とか自分が通れる程まで移動させる事が出来た。


《ギギィィー》


トゥールが腰を曲げてやっと通れる程の小さな入り口は錆びた音が耳に障りながらようやく開くとそこは隠し部屋のようになっていた。

トゥールはここに来て一番の発見だと目を輝かせ喜ぶと部屋の中を見渡した。

隠し部屋はずっと使われていなかったようでほこりが溜まり蜘蛛の巣がいたる所に出来ていて如何にも不気味な感じがしていた。

トゥールは不自然に置かれた古い鏡が気になり近付き手を伸ばしかけると何かにつまずき転んでしまった。


「イタッ。ん?何だこれ?」


足下に転がる卵程の大きさをしたゴツゴツした石は全体的に黒く普通の石のようだったがよく見ると中に乳白色と緑色の綺麗な線が見えており何かの原石の様だった。

トゥールは昔読んだ石の本を思い返しこの石の名前を思い出そうとしていた。


「えーっと、クリ…クリソプレーズだ!」


トゥールはズボンのポケットに石をしまうと気分はすっかり宝物を見つけた冒険者のようだった。


「やれやれ、鈍臭いやつだな。」


耳元で突然声がした。


「うわぁっ!!」


トゥールは突然の事に驚き大声をあげると声の主は素早く鏡の縁に移動し眉間に皺を寄せながら話を続けた。


「うるさいやつだなぁ、声かけただけだろう。」


鏡の方を向くと先程のトカゲが怪訝な顔つきでこちらを見ていた。


「トカゲっ!?何で喋ってるの!?どうしてっ!?」


トゥールは何が何だかわからずトカゲに聞いてみたが自分がトカゲと会話をする事自体、全く状況が掴めていなかった。


「いちいち大声を出すなよ。これだから子供は嫌いなんだ。今説明してやるから少し黙ってろ。」


今にも叫び出しそうな口を両手で必死に抑えトゥールはトカゲに向かって大きく頷いてみせるとトカゲは鏡の縁に前足を組んで座り大きく咳払いをしてから話し始めた。


「俺と話せるのはお前が選ばれた人間だからだ。そして今からお前はアレセンシアに行く。何故ならその本を持っている、それに石もだ。」


「えっ?どういう事?僕わからないよ。それに知らない所に行ったら父さんに叱られるよ。」


トカゲはため息混じりに首を振るとトゥールの肩へと飛び移り早く仕事を終わらせようとトゥールを急かした。


「はぁ、何でこんなやつが選ばれた人間なんだ。つべこべ言ってないで早く行くぞ。」


トカゲがそう言った途端、鏡は妖しく光を放ち眩しさにギュッと目を瞑ったトゥールを引き込むとまた不自然に部屋に佇んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ