新しい家3
ベッドで横になりそれまでの緊張の糸が切れたのかいつの間にかトゥールは眠りについていた。
陽はすっかり落ち窓の外は暗くいつの間にか雨が降り出していた事にも気付かず。
父親は夕食の時間になっても部屋から一向に出てくる気配のないトゥールが心配になり様子を見に部屋を訪れた。
ーカチャー
控えめな音をたて開いたドアの隙間からトゥールの寝顔が見えると父親は安心したのか毛布を掛け部屋を出た。
その晩トゥールは不思議な夢を見た。
それは澄み渡る青空のなか太陽が燦々と降り注ぎ一面の緑は気持ちの良い風に吹かれ軽やかに揺れている。
この広大な自然の中一人、大きく体を反らせのびるとトゥールは口いっぱいに空気を吸い込んだ。
するとそれまで晴れていた空は黒く濃い霧に包まれとぐろを巻きながら空へと上り始めた。
霧は厚い雲へと姿を変え空と大地が黒い線で繋がると一気に全てを飲み込み草木は枯れそこには殺伐とした渇いた大地が広がっていた。
トゥールは恐ろしくなりその場から急いで立ち去ろうと片足をあげたものの体が鉛のように重く思うように動くことは出来なかった。
次第に自分自身も黒い霧に侵食されそれが首元までくると必死にもがき助けを求める所で目が覚め鉛のような重さから解放された。
「ハァッハァッ、夢か…」
体がどんどん侵食されていく感覚だけが妙に生々しく残り慌てて着ている服をめくり上げ確かめた。
体に異常が無いことがわかると気が抜けたのか喉がカラカラに渇いている事に気が付いた。
水を飲もうと廊下へ出ると隣の部屋の扉から灯りが漏れていた。
(父さんまだ起きてるのか、仕事でもしてるのかな。)
トゥールは父の邪魔にならぬよう階段を静かに下りると昔に読んだ何処かの国のニンジャの話を思い出しクスクス笑いながらまるでニンジャのように忍足でキッチンへと向かった。
ちょうどシンクの横に洗い終わったグラスが綺麗に並べられており、そこからひとつ取ると水道の蛇口をひねり水をだした。
喉を潤すと今度はお腹がグゥ〜っと鳴り始め食べる物が無いか辺りを見てみる事にした。
するとキッチンカウンターの上にあるバスケットに目が止まった。
中には数種類のパンが入れてありその中で手のひらサイズのパンを選び二つ食べるとすっかりお腹も膨れようやく落ち着きを取り戻した。
次の日、玄関の方から聞こえる話し声でトゥールは目を覚ました。
それは父とお手伝いさんのもので何やら出かける父がお手伝いさんに家の事を頼んでいるようだった。
「お、おはよう。」
「おはようございます、ぼっちゃん。」
「おはよう、うちでお手伝いをしてくれているカーラさんだ。私はこれから仕事で大学へ行ってくる。帰りは遅くなるから先に夕食を済ませていなさい。」
「それではカーラさん、宜しく頼んだよ。」
「はい、かしこまりました。」
「行ってらっしゃい。」
父は挨拶を済ませるとすぐに家を後にした。
残されたトゥールはまた一人、何をして過ごそうかとぼんやり考えていた。
「さぁ、ぼっちゃんも早く顔を洗って朝食を召し上がれ。」
カーラさんに言われた通り洗面所で顔を洗い着替えを済ませるとトゥールはダイニングルームへと向かった。
そこには祖母の家では出なかった豪華な朝食が並べられており5種類もの飲み物が準備されていた。
トゥールは驚きと嬉しさで目をキラキラ輝かせながら席へとつくと、まずカリカリに焼けたベーコンから食べ始めた。