新しい家2
見慣れた街を離れ車は大通りから狭い路地へと入ると段々補装されていない悪路へと進んで行った。
不規則にガタガタ揺れる車の中で二人は特に会話をする事もなく沈黙だけが重く続いていた。
トゥールは時折ミラー越しに父親の顔を見ていたが父親と目が合っても何を話していいかわからずすぐに下を向いてしまい結局何も話せないまま車に揺られているしかなかった。
父親も平静を装いながら運転していたが久しぶりに再会した我が子に何と声をかけていいのか迷っていた。
今までずっと預けたまま殆ど会いにも来なかった自分が今更良い父親面をした所で何の意味も無い事を自分でも解っていたのだ。
だからと言ってトゥールに愛情が無かった訳では決してない。
ただ、仕事一筋に生きていた自分が急に妻を亡くし残された幼い息子とどう関われば良いのかわからなかったのだ。
車はいつの間にか林の中を走っておりトゥールの知る街はもうどこにも見えなくなっていた。
林の中をどんどん進んで行くのと同時にトゥールは段々と不安に駆られていた。
(一体何処へ向かっているんだろう?新しい家なんて本当にあるのかな?)
先程までのウキウキした気分はいつの間にか消え去り窓ガラスに映るトゥールの顔は不安と落胆の色を隠せなかった。
こんな事になるのなら祖母の家に残っていれば良かった、そう思っていた時ブレーキを踏む音が聞こえ車の振動が止まった。
「着いたぞ。」
父の低く静かな声がトゥールの耳に重く響くとトゥールはゆっくりドアを開け目の前にある大きな家を見上げ言葉を失った。
それは新居にするにはあまりにも古くさびれた家だったからだ。
枯葉だらけの敷地から玄関まで続く階段は白いペンキが所々剥げひびの入った木材がむき出しになっていて一歩踏み出すとギシギシときしみ今にも崩れ落ちそうだった。
しかし外観の酷さに比べ家の中は重厚感のあるヴィクトリア調のしっかりとした作りになっており廊下には深みのある臙脂色の絨毯が敷かれていた。
長い廊下の右側には知らない誰かの肖像画が数枚並べて飾られており、トゥールに学校の音楽室を思い起こさせた。
だがそれが誰なのかなど気に留める事もなく先へ進むと広いダイニングルームへと繋がっていた。
部屋の真ん中に置かれたテーブル、それに合わせた座面に苔色の革が張られた椅子、大きな食器棚とそこにある全てが品の良いアンティークの調度品で揃えられていた。
「すごい…」
トゥールは抱えていたボストンバックを降ろすとテーブルの上に置かれたキャンドル立てを取ろうと手を伸ばしかけた所で父が自分を探している事に気が付いた。
「トゥールここにいたのか。おまえの部屋を案内しよう、来なさい。」
「はい、父さん。」
玄関を入ってすぐ左側にある階段を上りると右側に二つ扉が並んで見えた。
父は手前の扉を開けトゥールを通した。
「ここがおまえの部屋だ。」
部屋の中には机と本棚、ベッドの必要最小限の物しか置かれていなかったが、祖母の家よりも大きくきちんと整えられた布団は見るからにフカフカで寝心地の良さを物語っていた。
「他に何か必要な物があれば言いなさい。」
父はそう言うと部屋を出ていってしまった。
トゥールは階段を下りる父親の足音が聞こえなくなると勢い良くベッドへ飛び乗った。
そして枕を抱きしめ寝転がると足をバタバタ動かし興奮していた。
「すごい!ここが僕の家?僕の部屋だって?お屋敷じゃないか!?」