『ドビュッシーの幻聴』
冬空の下で揺れるドビュッシーの幻聴。
音楽室であの子が弾いていたのを思い出す。
けれど、もうあの子はいない。
古びたグランドピアノの音色が聞こえない。
冬空の下で揺れるドビュッシーの幻聴。
昔見た映画のヒロインみたいに、
あの子はいなくなってしまった。
机の上に花瓶が置かれている。
「La Fille Aux Cheveux De Lin」
あの子とお話したのは一度だけ。
「日本語なら、『亜麻色の髪の乙女』」
私を馬鹿にするように口角を吊り上げていた。
冬空の下でドビュッシーの幻聴が止まない。
iPodは停止した。
あの子が弾く旋律を聞きたい。
けれど、あの子はもういない。
止まないドビュッシーの幻聴。