第18話 目標の達成
「それーっ、必殺っバタ足あたーっく!」
足で水飛沫をつくり相手を水浸しにする、それが必殺バタ足アタックです!
「きゃっ、冷たいわパネちゃん♪ 私だって、えーっと、水龍の印……たしかこうね、えいっ!」
シャロさんが水面で両手をあわせて構えた後、手の間からびゅっ!と水が飛び出しました。
「のひゃぁ!? なんですかそれっ、水がぴゅーってすっごい飛びましたよっ」
「ふふ、これは水龍の印っていって、手に水の属性を蓄え、それを一点から解き放つことにより放出するという儀式印よ。プレイヤーさんに教えてもらったの」
「へー、凄いですねっ、私にも教えてくださいっ」
「いいわよ、それじゃ手取り足取り教えてあげるわ♪」
足はとらなくてもいいんじゃないでしょうか?
というわけで、私たちはのんびりと大湖畔で水浴びをしています。
いやぁ、残暑といってもまだまだ暑いですね。水が冷たくて気持ちいいです。
がんばってこの秘境を占拠した甲斐がありました。
綿採集するわたヒトさんもはりきってお仕事に励んでいます。
「それにしてもわたヒトさん、いい動きしてるわね。両手別々に綿採ってるわよ」
「そりゃ、綿Lv10ですもん、そのくらいはできますって……」
ん?綿Lv……10?
「あ!?」
「どっ、どうしたの?」
私は思い出しました。
というか、どうして忘れてしまっていたのでしょう!
「ど、どうしましょうシャロさん、うちの村、もうそろそろ資源Lv10ですっ」
「あら、よかったわね、最大レベルじゃないの。……? それって何か問題なの?」
シャロさんが首を傾げました。
確かに普通に考えれば村の資源Lvが上がったところで嬉しいだけ。どうということはありません。
しかしここの村に限って言えば意味合いが違ってくるのです。
「その、うちの村、全資源Lv10になったら廃村になっちゃうんです。プレイヤーさんに捨てられちゃいますよぅ」
「あら。そうなったら私がパネちゃん貰うわね」
シャロさんはにこにこ微笑んでます。
あ、そうか、うん。シャロさんの村は既に廃村になっていたんですよね。
「……あれ?」
「ん?どうかした?」
廃村になったらどうなってしまうのか、私には漠然とした恐怖しかありませんでした。
しかし、よく考えれば目の前に居たのです。既に廃村になっている村の勇者が。
参考に聞いておくべきでしょう。
「あの、シャロさんにお尋ねしますけど、廃村生活はどうですか?」
というか、そうです、シャロさんの村から絶賛略奪中のはずです。うちの村。
「あとあの……私のこと、恨んでませんか?」
「え? どうして恨むの?」
「だ、だってっ、私の村、シャロさんの村にっ、は、廃村を略奪してる村でっ」
「落ち着きなさい。私がパネちゃん恨むことは3万5千%ありえないから」
「あふ」
シャロさんが、ぎゅっと私を抱きしめました。
「廃村生活ね……まぁ施設が無くてちょっと不便なところもあるけど、パネちゃんと一緒に居られて幸せよ?」
シャロさんの言葉には嘘偽りはありませんでした。
「前にも言った気がするけど、略奪といっても戦闘不能状態の私を含めて非戦闘員が不自由しないだけの食料はちゃんと残してくれているもの。オヤツを作ってパネちゃんと一緒に食べられるほどにね」
「な、なるほど……」
確かに、生活は保障されているみたいですが……
「そもそもパネちゃんは廃村の何が嫌なの? 略奪についてはもういいわよね」
「え、えっと……」
シャロさんに言われて私は考えました。
「村が発展しなくて不便、とか?」
「コレだけ発展していればうちよりはるかに生活に不自由しないわ。次」
「さびれてく……?」
「人は増えないけど、減りもしないわ。それで?」
「プレイヤーさんとお別れしちゃう……?」
「パネちゃんには私が居るわ。独りにはしない、幸せにする。だからこれも問題ないわね?」
「……活気が無い、とか」
「これほどの大きさの村で廃村なんていったらどこも放って置かないでしょうし、廃村になったほうが逆ににぎやかになるかもね? 他には?」
どんどんシャロさんに論破されていってしまいます。
「んー……なんなんでしょう?」
「大丈夫よ、廃村になっても案外やっていけるものだから」
本当にそうなのでしょうか?
何か、大事なことを忘れているような気がします。
「あ、そうそう。廃村にしてもパネ子には闘技場通い続けてもらうからね。きたるべき魔王戦のために」
その忘れていた大事なことは、村に戻ったときにプレイヤーさんがさらっと言ってくれました。
「……え?」
私たちは、魔王から世界を救うためにこの世界に居るのです。
「そうでしたっ! この村が廃村になったら、世界のために戦えないじゃないですかっ!!」
「いや、だからそのために闘技場には通ってもらおうかと思ってるんだけど?」
あれ?
「それに、Lv上げとかないとルールを守らずに攻めてきた奴に反撃できないしねー」
「る、ルール? 廃村にルール、ですか?」
「ほらこれ。前からちょくちょく作ってたんだけどさ」
とプレイヤーさんから一枚の紙を渡されます。
・施設を破壊しない。村を荒らさない。
・秘境を奪わない。兵士駐屯所を襲わない。
・勇者が居て返り討ちにされても文句言わない。
等々、そこには、そんなことが書かれていました。
……プレイヤーさん、なんですかこのルール。
「だって、村がむやみに荒らされるのはパネ子も嫌でしょ? 勇者として」
そうでした、私たち勇者は村を守るという使命もあったんです。
そこかー、そっかぁ、私そこが引っかかってたんですよ。ええ。
「んん?じゃぁ、なんですか? 私が廃村に反対する理由はなんですか?」
「え? さぁ?」
さぁ?って。そこ、一番重要なところじゃないんですか?
いや、確かに私にももうなんか分かりませんけど。
「まぁとりあえず、そろそろ次の村を育てはじめるか」
「次?! ……え、それって、他の世界……他の鯖へいっちゃうってことですか?」
「えっ? この鯖でだけど? おっと、誰か着たようだ」
「えっ?」
見ると、ちょうど議会から完成した軍旗が届けられるところでした。
「あと闘技場通いを続けてもらうんだから、この鯖にはずっと顔出すよ?」
あっ、じゃぁプレイヤーさんとお別れっていうのもナシなんですか。そうですかー。
なんか、力が一気に抜けてしまいました。
プレイヤーさんは、この村のことをきちんと考えていてくれました。
私は、村を散歩することにしました。
プレイヤーさんは本当に真面目に村を発展させていました。
それはこの村を見れば分かります。
この村には、無駄が無いんです。
すべてがの施設が資源レベルを上げるために直結しています。唯一、議会のLv10だけは違うかもしれません。
……
確かに態度こそいい加減でした。しかし、私が見ていないところでは近隣の廃村からも資源を集め、交易で余っている資源を足りない資源と交換し、兵士たちに休み無くエレメントを集めさせ、毎日何かしらの施設のLvをあげていて。
廃村にするということを黙っていて、村の名前も普通にしていたら……私たちを一直線に導く、すばらしいプレイヤーにしか見えなかったことでしょう。
ええ、ほんと。態度まで真面目にやってさえ居れば。
何度真面目にやってくださいってプレイヤーに言ったことやら。
やってるじゃないですか、真面目に。
「……」
私は村の高台にやってきました。見晴らしがよく、村の保有資産源も良く見えるところです。
綿畑や、狩り場、鉱山や植林地もしっかり良く見えます。
私が秘境を攻略している間に木資源もLv10になっていました。うーん、こうしてみると圧巻です。
あー、なんでしょう。私。自分でも何がしたかったのか、分からなくなってきました。
真面目じゃないと思ったプレイヤーさんは真面目だし、
村は廃村になっても大丈夫らしいし、
私も闘技場に通って、有事の際にはその力を発揮しろっていうし。
「ううぅ~……」
私は結局プレイヤーさんに踊らされていただけです。
『はじめまして!これから一緒に発展させていきましょうね♪』
と、私は最初にプレイヤーさんに言いました。しかし、村はプレイヤーさんに任せっきりでした。
真面目にやってないのは、私でした。
なんか、悔しいです。
でも、プレイヤーさんがちゃんとやってて嬉しくもあり、でも廃村にするのはかわりないから悲しくもあり、ああ、もう、わけが分かりません。
感情が昂ぶって、涙がにじんできました。
「パネちゃん。ここに居たのね……どうしたの?泣きそうよ?」
シャロさんがいつもの調子でやってきました。
「シャロさん……う、いや、その。……私のふがいなさに……あとその、わけわからなくなって」
「そ。いくらでも泣いていいわ。私が胸を貸してあげる。女の子だもの、泣いてもいいのよ」
シャロさんは、私のことを優しく抱きしめてくれました。
大きくてやわらかなその胸に顔を埋めます。
自分でも、なんで泣いているのか分かりません。
「泣けば落ち着くわ」
シャロさんは、ほんのりいい匂いで、
私はそれに甘えるように泣きました。
私はごしごしと顔を拭きます。
「パネちゃんって、お化粧とかしないの?」
「……おけしょうって何ですか?」
「ああ、うん、なんでもない。そのままのパネちゃんが凄く素敵」
シャロさんの服も涙や鼻水でだいぶ汚してしまいました。
そのお詫びといってはなんですが、今度一緒にお菓子作りをする約束をしました。
……ほんと、シャロさんには頭が上がりませんねー。
「そういえば、さっき村に誰か着てたわね。えっとなんて言ったかしら……そう、サク。あの策士と、一緒にもう一人。長髪で美形で、女みたいな男だったわ」
「……フェンさんですか? 何の用でしょうか……」
私は気になり、官邸へ向かいます。
そこでは、フェンさんとプレイヤーさんが和やかに話をしていました。
「いやー、ほんと、いいの?それ。タダでいいの?」
「問題ない問題ない。そろそろばら撒きの時期だし」
一体何を話しているんでしょうか?
プレイヤー同士の話にはちょっと近寄りがたいですねー。
「む、パネ子殿。それに、シャーロット殿も一緒か。仲が良いんだな」
「あ、サクさん。いらっしゃいませ」
「こんにちわ、そちらも恋人さんと仲良よさそうね、羨ましいわ」
「……一応、うちのプレイヤーのフェンだ」
あ、否定はしないんですね。
「プレイヤーさんたちは何を話してるんですか?」
「聞いてないのか? 今度、そちらが村を作る村を人口200人くらいになったら貰い受ける、という話だが」
「は?」
その割にはタダで、とか聞こえた気がしますが。
「しかもその際、資源も何もいらないとは……懐が広いな、そちらのプレイヤー殿は」
「はぁ!? ちょ、り、プレイヤーさんっ!? 何考えてるんですか!?」
もう近寄りがたいとか言ってる場合じゃありません、私は乱入しました。
「あれ?プレイヤーさん。パネ子ちゃんに言ってなかったの?」
「あ、うん。これから言おうかと思って」
「せ、説明してくださいっ!」
私はプレイヤーさんににじり寄ります。
ちゃんとした説明がなければみこみこアッパーに次ぐ必殺技が開花しそうです。
「え? いやぁ、とりあえずせっかくだから人口をブーストしてさ、ランキングのランクアップに協力してあげようかと思って」
「だからってその、えっ、え、ど、どういう神経ですかそれ!?」
「廃村プレイしようとしてて思いついた、廃村もいいけど、副村譲渡に特化したブースト補助村もいいんじゃないかって。もちろん種族が違う村からの依頼も多々あるだろうっ!ニーズには遠慮なく応えていくつもりだ! だからしばらくコレでいく。それまで廃村プレイはお預けだっ! 報酬なんてなかった!」
プレイヤーさんは右手を高く掲げ叫びました。
「あら、廃村にならないの?……おそろいになるかと思ったのに、ちょっと残念」
「……歪みないな、プレイヤー殿」
「さすがだね、真似できないよ。したくないけど」
私は震えていました。
怒りで。
プレイヤーさんが真面目にやっていると思った自分に対しての怒りで。
なんですかそれ。
私、ちょっとプレイヤーさんのこと見直したのにその矢先にこれですか!?
「プレイヤーさんっ、一言言わせてもらいますよ!」
「えっなに?」
プレイヤーさんを正座させます。そして私は、力の限り叫びます。
「まっ……」
「ま?」
「マジメにやれぇえええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」




