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第一章 サイボーグ娘誕生 3

 目を開けると、見慣れない天井があった。

「こ、ここは?」

 ついこの前、同じ気分を味わった。だが、今はきちんとベッドの上に寝ている。恐る恐る布団をめくってみると、ちゃんとパジャマを着ていた。もっとも着慣れた自分のものではなかったけれど。

「夢。そうか、あれは夢よね」

 きっと真理の家の病院に運ばれたことはほんとうだけど、あれは夢にちがいない。だってあまりにも荒唐無稽だ。

 ええっと、真理くんが天才かつ無免許の外科医で、サイボーグ作ってます。で、あたしが事故にあったから、命を救うためにサイボーグにされちゃった。……ない、ない。

 まさに夢ならではのでたらめさだ。

 全体的に白っぽい部屋といい、ベッドといい、ここが病室のなのはたぶんまちがいない。しかも個室だ。ちゃんと窓もあって、カーテンが掛かってるけど、外は暗く、灯りは天井の蛍光灯。夜らしい。現実的な世界だ。マッドサイエンティストの研究室じゃない。

 他に誰もいないことをいいことに、ひかりはパジャマのボタンを外した。ついでに下のシャツをめくり上げてみる。正直、なんとなく気になったからだ。

 ブラは外されていたらしく、それなりの大きさの胸が目に入る。

 ためしに指でつっついてみる。

 ぷるん。ぽよよ~ん。

 弾力といい、肌触りといい、どう考えても作り物なんかじゃない。

 ほっとした瞬間、べつのことに思い至った。

 傷がない。

 あの変態通り魔に刺されたのだ。それも日本刀で体を突き抜けるくらい。それがかすり傷ひとつない。

 お、お、……おかしい。

 ひかりは焦りだした。もう、胸といわず、手や足、腰、尻とあちこちをさわりだした。

 どう考えても人間の体の感触だし、さわればさわったところの感覚もある。つねってみれば痛かった。

 ただ、プロポーションが微妙にちがうような気がする。なんとなくウエストは引き締まり、足も細くなったような。

 もう一度、胸を見てみる。今度はまじまじと。

 なんか、ちょっと、……いや、かなり、おっきくなってない?

 まあ、ある意味喜ぶべきことだが、ぜんぜん嬉しくない。

 ま、まさか、……あれって夢なんかじゃなくて……。

 確認したくて、丸出しの乳を両手で下から持ち上げてみる。やっぱり大きい。気のせいなんかじゃない。

 そのとき、いきなりドアが開いた。入ってきたのは白衣姿の真理。ひかりは一瞬にして固まった。

「んぎゃあああああ!」

「お、わりいわりい。まさかそんなことしてるとは……」

 そ、そんなことって、いったいなにをしてたと……。

「ち、ちがう。こ、これはぁあああ!」

 慌てて布団の中にもぐり込む。

「あ、あのう。ちょっとだけ大きくなってるんですけど……」

「え?」

「だから……、胸が」

「そうか? まあ、まったくいっしょってわけにはいかないんだ。既存のパーツを組み合わせて、なるべく同じ体型にしたつもりなんだがな」

「既存のパーツ?」

「だから、人工骨格とか。あと胸とかは、人工有機体だけど、培養液の中で体を形成するとき、プログラムにデータをインプットするんだけど、微妙に狂ってたらしい。っていうか、それくらいあったほうがいいだろ? むしろ感謝しろ」

 大きなお世話だぁあ。

 だがそんなことより、真理の台詞の中に出てくる異様な単語に、ひかりは絶望する。

「やっぱりあれは夢じゃなかったんだぁ!」

「ああ、もう一回断言してやる。おまえの体はサイボーグだ」

「うわああああああん」

 目からは涙があふれ出てくる。

 っていうか、涙は出るんだ。そういえば、首から上だけは生身のままだとかいってたような気もする。

「泣くな。とりあえず、生きていくのに不便はないし、いわなきゃ誰にもわかねえだろうが」

 真理はいったいなにが不満なんだとばかりの顔だ。

 涙をぼろぼろこぼしながら、真理を睨んだ。

 すぱ~ん。

 いきなり派手な音を立てて、真理が倒れた。

 見ると、後ろには女性が立っている。女性といってもひかりたちよりちょっとだけ年上ってくらいで、白衣ではなく、ジーンズにシャツ姿。手にはスポーツバッグを持っている。髪は男の子のようなショートカットで真っ黒。その顔立ちは少年のように凛々しい。

「いってえな。なにすんだよ、水貴?」

 水貴? そ、そういえば、この人……。

 見覚えがあった。というか、ひかりの学校の三年生にして、生徒会長の熱田水貴あつたみずきだった。

「水貴先輩?」

「真理。あんたデリカシーなさすぎ。あたしから、説明してあげる。っていうか、あんたちょっと外に出てて」

「なんでだよ?」

「女には男に聞かれたくない話もあるの」

「ち、わかったよ。うまくいいくるめておくんだぞ」

 真理はぶつくさいいながら、病室から出ていった。

「え、ええっと?」

 なんで水貴先輩がここにいるんだろう?

 だが、水貴は、あたしのことはどうでもいいとばかりにベッドのそばの椅子にどっしと腰かけると、ひかりの顔をのぞき込んだ。

「その体のなにが不満なのよ?」

 その顔はちょっといらついてる。

「だ、だって、こんな機械の体じゃ、ご飯だって」

「食べれるって」

 そういえば、そういわれたような気がしてきた。

「でもおいしく食べられるかどうか……」

「舌と鼻は自前」

「悲しくったって、泣けないし」

「泣いてたじゃん」

「おっぱい、大きくなって、脚と腰は細くなってるし」

「いいじゃん。っていうか、あたしに喧嘩売ってる?」

 そういえば、水貴の胸はけっこう薄い。

「それに痛みも感じない体なんて」

 ぱん。頬を引っぱたかれた。

「痛っ」

 今度は腕、胸、脚を叩かれた。

「いたたたた」

「で、つぎはなに?」

「ええと、ええっと……」

「ほら、べつにたいして困らないでしょ?」

「だ、だって、……子供が産めないじゃないですかっ!」

「お、そうきたか。たしかにそれはそうだね。でも、ずっと先の話じゃない」

「先だろうとなんだろうと、困ります」

「ま、生身でも、一生結婚や出産に縁がない人もいるしさ」

「そ、そんな、無責任な」

「ま、わりきって、人生楽しんだら? あ、ちなみに、あっちのほうはできるらしいから」

「あ、あっちのほうって、……あ、あれですかっ!」

「うん。人工有機体の中には人工神経が通ってるから、感じるよ」

「か、感じるんですかっ!」

「ん。感じる、感じる。ま、相手の男が下手なら知らないけど」

 なんか、顔がほてってきた。

「もちろん、キスも問題なしよ。なんせ、唇と舌は自前だから」

 は、はあああ。キスに舌ですかぁああああ! ひょっとしてからめるんですかぁあああ?

「は……はわわわ」

「え、なに? ひょっとしてはじめて? 経験ないの?」

 ひかりはぶんぶんと首をふる。

「ま、がんばって」

 水貴はちょっと唇をゆるめ、ぽんぽんとひかりの肩を叩いた。

「は、はい。……がんばります」

 この体で生きていくのをがんばるのか、がんばってキスをする相手を探すのか、自分でもよくわからなかったが、とりあえずそういった。

「で、でも……、ほんとに他の人にばれないんですかね? もし、クラスメイトにサイボーグだなんてばれたりしたら、あたし、生きてけない」

 そうだ。もしそんなことになったりしたら、たいへんだ。まちがいなくいじめられる。

 や~い、サイボーグ娘。その顔も整形だろ?

 ちが~う。

 その胸も大きくしたんだろ?

 う。……うううう。

 や~い。や~い。

 そういって、石でも投げられるのだ。そう思うと、悲しくて涙が出そう。

「ばれないって」

「どうしてそんなことわかるんですか?」

「しょ、しょうがないなぁ」

 水貴はなぜか頬をすこし赤らめ、まわりをきょろきょろと見まわした。

 いったいなにがはじまるのか、ひかりにはまったくわからなかったが、水貴はなんと、いきなりシャツを脱ぎすてた。

「へ?」

 さらに両手を後ろに回すと、ブラまでかなぐり捨てる。たしかにひかりから見ても、こぢんまりとした乳房が露わになる。

「な、なにを?」

 しかし、水貴はそれをやめる気配がない。ジーンズのホックを外すと、それすらもずり下ろす。そして、最後に残った白いショーツまで……。

「あたしの体を……見て」

「み、水貴先輩って、ひょっとして、レズだったんですかぁああああああっ?」

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