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妊娠初期

お腹がまだぺったんこで、妊婦だと周囲も見ただけでは分からない、妊娠4ヶ月目くらいまでが妊娠初期と言われます。ご存知の方も多いでしょうが、人によっては妊娠中で一番辛いのがこの時期です。ーーそう、恐怖の悪阻(つわり)のせいで。

悪阻というと、突然吐き気に襲われトイレに駆け込むというイメージですが、実際はそのような唐突な吐き気に襲われることはほとんどありません。ただ、生まれつき女性は男性より嗅覚が過敏ですが、妊娠中というのは更に過敏になり、突然苦手な臭いに襲われた場合には、そのような事態になることもあります。

煙草や生ゴミといった元から不快な臭いだけでなく、お米の炊ける匂いやコーヒー、肉の焼ける匂いなど、普段ならば食欲をそそるようやものに対しても、苦痛に感じることが知られています。

そもそも悪阻というのは、吐き気のみならず、妊娠によって起きる様々なトラブル全てを差す単語です。個人差が非常に大きく、マイナーなトラブルも多いため、辛さをなかなか他人に理解してもらえないことでのストレスもまた、悪阻の一つかもしれません。

ここで声を大にして言いたいのは、妊娠は病気ではないが、決して健康な状態でもないということ。健康だというならば、病院への受診を国から勧められるはずもありません。(妊婦検診、頼むから保険適応にして欲しい・・・あと出産費用の助成も、もう一声‼)それほど周産期というのは、母子共に昔から死亡率の高いものであったのです。未だ解明されていない部分もある悪阻の中でも、体の運動を制限するような類いのものは、母体に無理をさせないためにおこるという説もあるくらいです。

では、そんな悪阻の正体とは、一体なんでしょう。

妊娠による体の変化は、なにも腹が出るだけではありません。まずは妊娠を継続させるために、女性ホルモンが通常時より量も働きも変化しますが、このホルモンが、そもそもの元凶であることがほとんどです。

ホルモンとは体に色んな指令を伝えるためのツールです。分かりやすい例だと、成長ホルモン。私たちは脳からこのホルモンが十分に分泌され、更に他のホルモンとのバランスや受けとる臓器側の状態など、複雑なシステムが上手く機能して初めて健康に心身を発達させてきたわけです。そして、第二次成長と共に活発化する性ホルモンは、不足すると、命に関わるほどの事態になることもあります。性ホルモン(男性ホルモンor女性ホルモン)は、大人になるために必ず一定量が必要です。なぜなら骨を作り、筋肉を作り、運動機能を維持し生きていく上で重要な役目があるからです。

しかしその重要なホルモンが、周産期にはメッチャクチャな乱高下を見せます。それはすなわち、頭のてっぺんから足の先まで、体中全ての働きが激変する可能性があるということなのです。

子宮はもとより、髪、皮膚、消化器系、心脈系、腎臓、脳、そして精神・・・代表的な悪阻といえば、やはり吐き気や微熱、貧血になりますが。

常に風邪をひいているような熱っぽさと怠さに襲われているのが、妊娠初期です。そこに乗り物酔いや二日酔いのような吐き気が重なるのですから、気分は最悪です。これは私の体験ですが、それらに貧血が加わると、もう何が何やら分かりません。15分も歩けば、頭から血の気が引いて、物理的に立っていられないのです。しかも、横になって30分ほど休まないと、回復もしない。

ちなみにこのような貧血症状は、鉄分を十分にとっていても、血液検査の値が正常であっても起こります。体内を循環する血液量が増え、ホルモンの働きによって血圧が変動しやすくなり、それら諸々の変化に体がついていけていないからです。

これで普通に働いている方、心より尊敬します・・・というより、休めない状況に心より同情致します。最低でも、インフルエンザの高熱時に働くのと同じくらいには辛いでしょうから。

そして、何よりも主張したいのが、メンタルについてです。

前回の「子供が欲しい」でも書いたように、女性の方が感情の不安定さについては理解しやすいと思います。生理前後の苛々を経験されている方なら、尚更です。もしくは、何らかの精神疾患に罹患したことがあり、自分では感情がどうにもならないという恐ろしい経験をしたことがある方にとっては、想像がつきやすいと思います。

時々、メンタル不良は根性で全て何とかなると思っておられる方がいらっしゃいますが、そんな方に是非とも問いたい。

満員電車の中、急にお腹をくだして漏れそうになった時、わき上がる焦りや不安の感情を抑え込める自信はありますか?

梅雨の蒸し暑いバスの車内で突然隣に立つ人が煙草を吸い始め、顔に煙を吹きかけられでもしたら、怒らずにいられますか?

何ヵ月もかけて作り上げてきた企画のデータが突然全て飛んだら、泣きたい気分になりませんか?そういったことが毎日続いたら、根性で気分がなんとか浮上するでしょうか?

妊娠中に限らず、女性というのはホルモンのバランス一つで、そのような「理由なき感情の荒波」に振り回されているのです。

個人差はありますが、妊娠初期と後期に精神は不安定になりやすく、また産後は産後で違う種類のホルモンと育児不安とが相まって、悪化することも少なくありません。

そんな時一番欲しくなるのは、間違いなく共感と気遣いの言葉でしょう。そしてその正反対の言葉や態度に、何より傷付くことでしょう。妊婦ならば、例外なくそういった精神状態を経験するはずです。

そんな時、体験したことのない人に共感を求めても、満足は出来ません。体験したことのある人でも、もう何十年と経過していると、怒涛の育児によって記憶が薄れ、望むような共感が得られないこともあります。

相手に過剰な期待をしていると、それが満たされなかった時に感情の荒波がつけこんできますから、ママさんたち以外には理解されないことを前提に行動せざるを得ません。

また、体が利かなくなり仕事も制限され、人によっては仕事を辞めざるを得ないこの時期には、責任感が強かったり、人に気を遣う繊細な人ほど、精神的に追い込まれます。社会から隔絶された気分にもなるでしょう。

しかし、妊娠初期のストレスは胎児の発育不良に繋がりますから、上手い発散方法を見つけねばなりません。まだマタニティ・ヨガなども出来ない時期ですので、リラックスするにはまず、罪悪感をなるべく捨てることが一番だと思います。

稼ぎに出られなくてごめんね、家事さえままならなくてごめんね、電車で席譲ってもらってすみません、仕事代わってもらってすみません・・・そんなこと、思わなくていいんです。だって、どう頑張っても出来ないんですから。

最近言われる「お妊婦様」的な傲慢な態度は問題ですが、二人分の命を支える体が何より大切であることをまず己で自覚することが、母親になるための思考回路を形成する第一歩ではないでしょうか。

そして、この「妊娠初期」の最後に書いておきたいのが、初期の流産についてです。

誰であっても子供の死というのは受け入れ難いものですが、特に母親にとっては、それこそ毎日泣き暮らし、何も手につかなくなるような大事件でしょう。

しかし、実際には初期の流産というのはかなり多いのです。特にまだ心臓も動かず胎児とも呼べない段階の流産は、稽留流産といい、10回の妊娠のうち1回は起きるくらいの高確率です。そしてそのほとんどが、元々受精卵側に問題があるため自然に妊娠が止まったという理由です。

普通の健康な人でも、卵子や精子に一定の数の奇形などの異常が存在しますから、何らかの問題を抱えた受精卵が出来上がる可能性も当然あるわけです。

しかし、たとえ「よくある」ことでも、たとえ「まだ卵の段階」であったとしても、子供を願う夫婦には大変な衝撃です。私自身も経験があることですが、ああいう状態を「頭が真っ白」というのでしょうね。医師の説明など全く聞こえていませんでした。その後も、腹の子はいったい何が原因で何処へ行ってしまったのかとグルグル考える日々でした。

そんな時は、まずその感情を大切にしてあげることが、浮上への道に繋がります。

私の場合は、戸籍もお骨もあろうはずがない「我が子」に名前をつけ、縫いぐるみを作ってあげました。名前の刺繍されたクマさんは、今も家族を見守ってくれていますが、見ようによっては滑稽で、馬鹿馬鹿しいことかもしれません。しかし、大切なのはその苦しい出来事をどう消化するのか、ということです。

誰が馬鹿にしようが、関係ありません。自分のしたいように、自分の子供、自分の思いを弔うことが乗り越えるきっかけになるのであれば、新しい家族になろうと思ってくれていた存在が、それを否定するはずもありませんから。



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