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終わる世界

その時教授は、ブックをオフっていた。

作者: シナミカナ

「ついにやったぞ!」


研究所の扉が強く開けられわりかし大きめの音がなる。

しかし、この部屋にいる者は繊細な作業をしていることにも関わらず動じないでいた。

はっきり言ってしまえば馴れたのである。

半ば息を切らした初老のアーメイ教授がズカズカと機材に満たされた部屋を突き進み中央の方で天を仰ぐ。

何があったのか聞いてくれ、俺を祝福してくれ、そう言わんばかりである。

研究生はいまだに沈黙を保っていた。


流石にこのまま放っておいては可哀想なものなので、手元を置き小さくため息をつきながら期待に添える。


「教授、いったい全体何があったんですか?」


「よくぞ聞いてくれた!ついにヴォイニッチ手稿の翻訳を完全に完璧に遂行したのだ!」


この発表には沈黙していた研究生も唖然として教授を見つめている。

なかには劇薬を溢している者まで。後で指導せねばならない。

教授は変わった人ではあるが、嘘をつくことはない。半端で終わらせることも。


「・・・本当に翻訳してしまったのですか?」


言葉にするつもりはなかったが自然とこぼれ落ちた。

間違いなく我々は世紀の大発見の舞台に立っているのだ。

震えは止まらず鏡を見なくたって自分の目が輝いていることが分かる。


「左様。あれほど難解であるからもう再翻訳は不可能であろう。」

「先代に授かった手稿のコピー本に直接全て書き込んでしかるべき機関に売ったとも。研究所の運営の足しにしてくれ。」


どうやら第一発見者としての地位は速やかに捨て、この研究所の為に資金を調達したというわけらしい。

涙が頬を伝ってこぼれ落ちる。

教授足るもの名誉や地位が欲しいはずだ。大発見をしたいはずだ。

それをこの研究所の為にわざわざ見放すとは、なんて人だろう。

天文学的な数字の資金は間違いなく第二第三の大発見に繋がる。

白衣のポケットから清潔なハンカチを取りだし頬を拭った。

満を持して研究生の最も聞きたいであろう質問をぶつける。


「おめでとうございます教授。それで、一体いくらほどのお値段になったのですか?」


「うむ。どうやら山ほどの落書きがあったとかで10円だったよ。」


なんて人だろう。

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