†01.優等生、更科琉亜†
『勝者・更科琉亜』
無機質なアナウンスが自分の名前を読み上げる。
杖を腰にしまい、先程まで戦っていた相手を見やる。
「はー負けちゃったかぁ……」
「お疲れ、これで俺が勝ち越した訳か…」
「うー、悔しいー!」
同じ2年でライバルでもある、小鳥遊蒼空。
先程まで、模擬戦の相手をしていた。
ソラとは学年トップを争う、良いライバルだ。
「お疲れ!ルア、ソラ!ほら!」
「…ありがとうございます、シュウヤ先輩」
飲み物を手渡してくれたのは、3年の朝日奈終夜先輩。
学年トップで、男女問わず人気がある。
噂では、シュウヤ先輩の事が好きな生徒がいるらしい…でも、シュウヤ先輩には彼女がいる。まぁそんな事、俺は興味ないんだけどな。
「これなら、今度の遠征メンバーに2人共選ばれるんじゃないか?」
「本当ですか!?去年選ばれなかったんで、選ばれたいです!!」
「…ソラ、遠征はそう甘くないって俺何回言った?」
「そんなの分かってるよ!」
…絶対分かってないな……。
1年前、俺はそれを経験している。
分かるんだ…今回の遠征も甘くはないって……。
ソラに何かあったら、俺が守らないと…。
「?ルア……?」
「ん?どうした?」
「…ううん、何でもない」
「そうか」
不意に2つの足音が聞こえ、振り返ると、
「先輩方、模擬戦お疲れ様でした」
「…お疲れ様でした……」
「あっ!シノちゃんにニノ君だ!」
現れたのは、1年の東雲亜加梨と、二宮雫。
2人共、学年で上位をキープしている。
2人も遠征メンバー候補に入っている。
「ニノ君!今度の遠征メンバー、選ばれるといいね!」
「あ、はい!出来ればアカリと一緒に行きたいです…」
「ははっ、ホント2人は仲が良いな!」
「そ、そんな事ないですよ!」
シュウヤ先輩の言う通りだと思う。2人はいつも一緒にいる。
もしかして……いや、それはないか。
「それより!…明日だよね、遠征メンバーの発表」
「そうだな。誰が選ばれるのかな。少なくともルアは選ばれるだろうな」
「僕とアカリも選ばれたいです!」
「まぁ選ばれなかったら応援すればいいさ」
応援、か…。
今まで遠征メンバーに選ばれ、帰って来なかったのはただ1人だけ……。
それは…
―俺の3つ年上の兄、更科瑠姫兄さん。
3年前、誰も足を踏み入れた事の無い孤島に遠征に行ったっきり、未だに帰って来ていない。理由は…分からない。
ルキ兄さんは学年トップの成績優秀な生徒だった。なのに、何で……。
「……ルア?」
「…!…すみません…少し外の空気吸ってきます……」
「…ルア……?」
ソラ達の視線を感じながら、模擬戦の部屋から出る。
廊下に誰もいない事を確認し、ポケットからペンダントを取り出す。
ペンダントを開くと、5年前に撮った家族写真が入っている。
俺は4人兄弟の三男として生まれた。ルキ兄さんは次男だ。
俺は…ルキ兄さんが大好きだった。家族の誰よりも。
「…ルキ兄さん……」
―誰もいない廊下で、1人呟き…静かに泣いていた。