真夜中の働き蟻
星が夜空を踊りだし、人間たちは眠りだす。
猫も狸も目を閉じて、世界が夢を見てる頃。
月の明かりに照らされて、働き蟻は今日もゆく。
常にせっせと働いて、自分の仕事に勤しめば
いつしか心は消え失せて、疑問も夢もなくなった。
「己の為になるはず」と、言い聞かせたは、いつの事か。
三日三晩は食わずとも、まだまだ動くこの身体。
これも偏に女王の為、明日も身を粉に働いて。
前に見えるは同志の背、後に続くは同志の顎。
決して列は乱さぬよう、重荷を背負って這ってゆく。
「自由は要らぬ、仕事のみ」
魂に刻んだ教訓は、思考さえも捨てさせた。
星が夜空を踊りだし、人間たちが眠る頃。
働き蟻の一粒が、ふと立ち止まり、月を見る。
空に浮かぶは丸い月。
雲風吹いて千切れれば、夜空は姿を変えてゆく。
移り変わるは儚き空。
黒い眼でそれを見て、働き蟻は何思う。
尻に仲間がぶつかって、我に返って歩き出す。
歩き出したら皆忘れ、今日も今日とて歩いてく。
月の光に照らされて、今日も今日とて歩いてく。