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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-ツペェア-
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喫茶店と犬

 ネトゲでよくあるお使いクエストのように、キュリア家と縁がある家について聞き込みをしていれば、直ぐに情報があった。

 これまた、中心の島にキュリア家があるようだった。

 非常に面倒で且つ遠いが、クエストは受諾している。


 幸い、まだ昼間だ。

 歩くだけ歩くことにする。

 生前の世界でいう浜名湖並に広くて大きい湖だ。

 中心の島まで非常に遠い。

 俺とエルリネにとっては慣れた距離なので、息を切らさずにさっさと進むがセシルが辛いようだった。

 先日岩山登った際のエルリネのように息も絶え絶えなので、一休みをして息を整えてから手を繋いで街を巡る。


 最初はおっかなびっくりの手の握り方だったが、俺がぎゅっと力を入れたところ慣れたのか、握り返してくれた。

 これで離れることはないだろう。


 さて、語彙能力の程度が低い俺だが、このツペェアの町並みを一言で表すなら「綺麗」で表せる。

 ベネチアなど行ったことはないが、芸能人がよくベネチアへ行ったりする番組があった。

 そこで街並みが綺麗とか、俗にいう「ため息の橋」で恋人と一緒に来たいですねーとか、小舟で移動するなんて情緒ありますねーとか、ベネチアも「綺麗」で表せた。


 だがこちらは生で見るだけに、ベネチアと負けず劣らずやはり「綺麗」である。

 ザクリケルニアのような行き止まりなどはなく、島へ至る道はあくまで一本道でほぼ真っすぐ島へ向かっている。

 その一本道の中に雑踏で邪魔にならない程度に、露天商や酒場やらがあった。

 その露天商や酒場はこの道にあったが、近くを警らしていた兵士に軽くこの街の見どころについて聞いてみたら、詳しく教えてもらった。


 それらをまとめると、まず道には"専門街道"という意味の道があり、露天商限定の道や、酒場だらけの道、宿屋しかない、肉野菜屋などなどが所ぜましと並んだりしているという。

 そういったあみだクジのように複数の並行した道があって、これまたあみだクジのように隣へ移る横道の橋があって、歩いて見る景色と小舟の上で見る景色の両方が楽しめるという。

「坊主たちにはちょっと早いが、恋人たちの観光スポットなんてものもあるぞ」なんて言われた。

 "坊主"か。

 ガチの"日本語"だと思ったが、そうでもないのだろうか。


 とにかく、恋人用の観光スポットもあり、この街並みの綺麗さもウリで図書館、博物館もあるという。

 後者の二つはとにかく楽しみだ。

 純粋な趣味もあるが、この世界を殊更学ぶにあたって重要なファクターだ。

 学校で学べるだろうが実際に目にした上で学ぶのと、概論だけ聞いているだけでは理解度に差が出る。

 

 なお、図書館と博物館は中心の島にあるという。

 セシルが「戦火に焼かれることなく残っている」と言っていただけある。


 さて警らしていた兵士の人に子供だからという理由で、俺とセシルとエルリネにこの街名物の串焼きとぶどうらしき味の水を買って貰い、しっかり楽しんでくれよな!」と言って兵士さんは離れて行った。

 もちろん、俺は「ありがとう!」と大声で返して見れば、兵士の人は、背中を向け雑踏の中で目立つように右手を上げて握りこぶしを作った。

「いいってもんよ!」と言っているように見えた。


 格好のいい場の離れ方だ。

 今度俺も真似しよう。


 セシルとエルリネを伴い、食べ歩きと徒歩観光をしている内に、中心の島に着いた。

 入街手続きを再度取る。

 特に何か言われることもなく、入街許可を貰った。

 まぁガッツリしたものは、先ほどのところでやってこちらは形だけなのだろう。

 図書館と博物館を見に来る観光客も多いだろうしね。


 今日の目的地である「キュリア家」について審査官に聞いてみれば、更なる島の中心の貴族街にキュリア家の屋敷があるという。

 うむ、非常に遠い。

 だが、セシルの祖母と祖父がいる家だ。

 純粋な俺の興味もあるし、セシルも心なしかワクワクしているようだ。

 行ったことがなければ気になるわな。


 食べ歩きはすれども、座って休憩というのはなかったので、適当に入った喫茶店で歩き疲れた腰と足を癒やしながら、軽食を摂る。

 異世界だからといって余り期待していなかっただけに、驚いたものがあった。

 それはパンケーキだ。

 いや、ホットケーキと言えばいいのだろうか。

 

 名前は「ツペェア焼き」という名物の一つらしいが、俺から見ればどう見てもホットケーキ。

 エルリネと俺は大サイズを選んだんので、ピラミッド状に五枚重ねられており、上に生クリーム状の黄色いモノとはちみつが掛かっていた。

 人肌程度に温かいので美味しそうである。


 非常に美味そうである。

 大事なことなので二回言った。

 オチ担当のエルリネさんを見たら、目がキラキラと輝いており涎がだらだらと出ている。

 生前飼っていたラブラドールを思い出した。

 アレも、餌を目の前にだらだらと涎を垂れ流し、「食べていい? ねぇ食べていい?」とチラチラ見て、一度(ひとたび)許可を出せばガツガツと飼い主に脇目を振らずに、食事を続けるそんな犬だった。


 エルリネも「食べていい、食べていい?」と耳をピコピコ揺らし、チラッチラッと俺を伺う。

 別に駄目とは言っていない。

 でも、その姿が中々可愛くて且つ生前を思い出す。

 ラブラドールが死んでから約六年とこの世界での七年、合わせて十三年。

 どんなことをしてどんな感じでラブラドールに対して怒ったりとか、忘れてしまったが未だに特徴を覚えている。


 ビーグルの方はしなかった、餌を目の前にした仕草がとても可愛くて。

 悪いことをして怒れば、前足でごめんなさいと顔を覆う仕草。

 それで、怖いはずの俺に対しても近付けば直ぐに甘えてきて。

 散歩のときは、喜んでぴょんぴょん飛び跳ねて、掘っ建て小屋のような家に頭を「ゴンッ」とぶつけて痛がるバカ犬。

 適当に三十分だけランダムルートで家の周りを歩き、帰ってくるお散歩ルート。

 いつの間にか、疲れてぐったりとお散歩中に倒れるぐらいようになって、あれよあれよという内に虹の橋に渡った。


 エルリネはそのラブラドールではない筈なのに、仕草がそっくりだ。

 そっくりではないかもしれない。

 本人なわけないし、そう都合よく解釈しているだけかもしれない。

 飼い主だった俺が空目する程度にそっくりなだけだ。


 そのことを思い出して思わず、エルリネにラブラドールにしていたことをする。

 それは、横頬から首もとをカリカリと掻き、その手で頭の上に手の平を置く。

 ナデナデしながら、「よし、食べていいよ」と許可を出す。


 猫は飼ったことがないので分からないが、犬は頭をいきなり撫でようとすると、上から襲ってくる鷹などを空目して怖がると聞いていた。

 それ故の俺なりの撫で方だった。

 エルリネも頬を撫でたとき、ビクッとした。

 叩かれると思ったのだろうか。


 だが、撫でるように首もとを触り、頭を撫でれば蕩けた顔の褐色肌のエルフ娘が出来た。

 もちろん、狙ってなどはしていない。

 だが、この蕩けた顔がまさに飼っていたラブラドールにそっくりで、愛しいと思ってしまった。

 まあ、件のラブラドールは♂なんですけどね。


 ひと通り蕩けた顔の褐色エルフさんの頭を撫でている内に、セシルの料理も来た。

 セシルの方はパフェだ。

 字が読めないのでなんて書いてあるのか分からないが、便宜上パフェと呼ぶ。

 パフェには俺たちのホットケーキに付いている、黄色の生クリームのような物体がふんだんに使われている。

 こっちも中々美味そうである。


 生前はスイーツ男子の一人であった。

 友人共はスイーツ男子を武器に嫁を見つけたりしていたが、俺は純粋に甘いモノが好きだった。

 そんな俺だから目移りする。

 ホットケーキは腹に溜まるが、パフェも美味しそうだ。

 食いたい。

 が、うっかり食べたいなんて漏らせば「はい、あーん」イベントが来る。

 この天下の往来で「はい、あーん」はしたくない。

 なので無私無想で想いを封印する。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 結局、自分の欲望は抑えられず「はい、あーん」イベントをこなした。

 嫉妬の目があるかと思ったが、俺もセシルも七歳児だ。

 もちろん、見た目も七歳児だ。

 微笑ましいものを見る目で見られた。

 これが、成人とかしていたら嫉妬の目だろう。

 

 俺はともかく、現時点でセシルは美人だ。

 この状態で成長すればセシルは、間違いなくミスコンテストに出場出来る。

 日本人風の顔つきはしていないので、厳密には出れないが。

 エルリネも美人だ。

 というか、この二人は俺には勿体無い。

 "作者"というチートはヤバい。

 (はべ)らせるのが容易だ。


 とはいえ、現地の"作者"としては望んでいない展開だが。

 これで、俺も見た目チートなら最高なんだが、黒歴史ノートに主人公のチートっぷりは描いたものだが、肝心のミリエトラルには描写なし。

 いや、正確に言えばある。

 但し髪の毛が栗毛で、童顔という部分だけだ。

 その童顔という部分も保護欲、母性本能をチクチクとくすぐるタイプであれば大モテだろうが、子供故の童顔であったら……。

 いわゆる、栗毛の特徴なしになってしまう。

 どうしたものか。


 いや、別にモテたいとかそういう訳ではない。

 だが、特徴なしは"作者"としてあんまりだ。

 凹んでしまう。

 そんなネガティブに考えている中で、ちらとエルリネを見ていれば、一口毎に顔の表情が変わっており、彼女を見ているだけで飽きがこない。

 段々と減っていくホットケーキに合わせて、彼女の顔も段々萎れて、笹葉のような耳も段々角度が下がっていく。


 空になった皿を見て、しょんぼりしている姿がやはり、生前のラブラドール。

 仕方がないので、俺が自分のホットケーキを半分に切ってエルリネの皿に載せた。

「えっ」っと驚かれ、要らないですよぅと返そうとしてくる。

 それに対して「もうたくさん食べたから、お腹一杯なんだ。食べきるのを手伝って」とエルリネに言ってみれば、「それでは仕方がないですね、頂きます」と言ってきた。

 なお、そのときの彼女の耳は嬉しいとき特有の耳がピコピコ揺れていた。

 うん、やっぱり彼女を見ていると飽きない。


 なお、エルリネの食べるスピードは俺に合わせてくれた。

 可愛い。


 それにしてもこの喫茶店のホットケーキは美味かった。

 ここ以外の喫茶店は当然ある筈で、そこら辺を食べ比べて最高に美味いところを見つけたら、メティアと姉さんを連れてこよう。

 うん、楽しみだ。


 さて、セシルもパフェを食べ終わったと同時に、俺のホットケーキも無くなった。

 当然、エルリネもぺろんと平らげる。


 ぼったくられることなく、お代を支払い外に出た。

 正確な時間は分からないが、日の高さからするとおやつ時を越えたぐらいだろうか。

 ちょうどいい時間に、ホットケーキを食べたようだ。

 さて、またセシルと手を繋いで貴族街へ向かおうか。

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