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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第?章-『To Be Continued』或いは、志半ばの「Bad End」-  A視点
95/503

F18 A①

※警告※

胸糞表現あります。

また過大なネタバレ含む可能性があります。

お嫌いな方はお戻りください。

 わたしと妹の生みのお父さんを目の前で殺された。


 わたしと妹は怖くて怖くて怖くて、震えているだけだった。

 お母さんたちは怖くて怖くて震えているわたしたちを、寝台の下の物置に隠した。

 わたしたちが隠れてすぐ、お母さんたちは魔族に(くみ)する獣人族として、殺された。

 目の前で。


 嫌がるお母さんたちを、隣の村の獣人族と黒い体毛と黒い瞳を持つ人族がお母さんたちを嬲り殺した。

 絹を切り裂くような、悲鳴。

「ああ、嫌だ。おかあさん」

 と、呟けども聞いてくれるのは、わたしの双子の妹。

 妹は泣いている。

 耳と目を手で塞いで。


――ああ、嫌だ。こんな世界。

 助けて。こんな世界なんかにいたくない。


 声をあげずに物置で泣いて泣いて泣いて、気付けば外は静かだった。

 それでも怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて。

 お腹の虫がきゅうっと鳴ってて、我慢できなくなって外へ出れば……。


 村はなくなっていた。

 そうして、わたしと妹は天涯孤独になった。

 


 わたしは妹がいれば、なんでも出来た。

 やったことがない狩りも、妹とやればうさぎとか鳥も食べることが出来た。

 水場も見つけた。

 妹のさらさらとした綺麗な毛も森の中の生活で、ごわごわしていた。

 わたしの毛もどろんこと、獲物の血とかでドロドロカピカピで、季節の変わり目の抜け毛の季節で、毛が抜けなくて痒かったし、いつまでも毛が抜けなくて暑かったり寒かったりした。


 わたしたちのような種族には、自分の体臭はとても気になる。

 よく言えば、森の木々の緑色の匂いがした。

 わるく言えば……、お洗濯をしていない服を何年も着込んでいるような……、非常に臭い。

 鼻が曲がる。

 とっても臭くて目の前の水場でバシャバシャと水遊びしたくなった。

 それでも、我慢した。

 遊んだら、わたしたちが飲む水が不潔になる。

 こんなに臭いわたしなのに、妹は「お姉ちゃん」と言ってわたしの毛皮に鼻をつき入れたり、一緒に寝たり甘えてくれる。

 

 妹がいるから、わたしは頑張れる。

 わたしたちは今逆境に陥っているけど、ここで成り上がって。

 お母さんを犯した獣人族と、あの黒い瞳と黒い体毛を持つ人族を残らず殺してやる。

 妹から幸せを奪ったやつらは絶対に許さない。


 殺してやるためには、この姿ではいけない。

 わたしはまだ、お母さんが持っていた爪や牙なんて持っていない。

 焦って殺しに行こうとしても、どうせ殺されて毛皮を剥がされるのが関の山だ。

 どんな風に剥がされるのかは分からないけど、お母さんとお父さんが怖い顔で言うから、きっと怖気が走るような剥がされ方なんだろう。

 

 だから、この姿では行かない。

 もっと成長して、もっと大きくなって。

 口を開ければ人族の細い頸を一撃で噛み砕けて、爪を振るえば大樹ごと身体を切り裂けるような身体に。


 でも、そんな想いも身体が大きくなるにつれて、薄れてきた。

 わたしと妹は獣魔族だ。

 獣の姿を取るだけではなく、あの憎き人間の姿にもなれる。

 木登りをするときは、人間の姿になった。

 美味しい果実を、二人で分け合った。


 ずっとずっと成長するまで、こんな空間であればいいのに。


 そんな中、あの村でみた人族ではないけども、同じような黒い瞳と黒い体毛を持つ人族の集団がわたしたちの前に現れた。

 よりによって、人間の姿をとっているときにだ。

 殺されると思った。

 犯されると思った。


 復讐してやると言ってあんなにも想ったのに、目の前にすると動けない。

 でも、妹だけは絶対に逃さなければいけない。

 わたしの拠り所なのだ。

 妹がいるから、わたしは生きていけるのだ。


 だから、二人で逃げた。

 妹と逆側に走った筈なのに、妹は着いてきた。

「お姉ちゃんお姉ちゃん」と言いながら、着いてきた。

 私と違う方向に逃げていれば、助かるのに。

 なんでこの妹は、本当に馬鹿なんだろう。


 嫌だ死にたくない。

 妹と一緒に死にたくない。

 わたしはぼろぼろの毛皮になってもいいから。

 妹だけは助けて。


 後ろからは、人族の集団が追いかけてくる。

 助けて助けて助けて助けて助けて助けて。

 誰か助けて助けて助けて助けて助けて。


 もう二度と復讐なんて考えません。

 妹は。

 妹だけは。

 お願いだから。

 助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて。


 人族の集団が使ってきた、火の槍が妹の脇腹を狙う。

 わたしが代わりに、背中を槍に貫かせる。

 痛い。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 毛皮が燃えているのが分かる。

 ああ、わたしは死ぬんだ。

 熱いよう。

 ごわごわカピカピの毛皮が燃えて熱い。

 熱くて熱くて痛い痛い痛い痛い痛い。

 

 岩が脇を貫く。

 痛いよう。

 嫌だよ。

 死にたくないよう。

 手足が重い。

 目の前が霞む。


 嫌だ死にたくない。

 嫌だ死にたくない。


 人でないといけないの。

――人の身でなければ、狩られるこの身が恨めしいよう。


 泣きながら。

 ぼやける視界で世界を見ずに、無理矢理手足を振るい立たせながら走る。


 走った先には、目の前には人族がいた。

 獣人族でもない。

 匂いからして人族。

 でも何故か嗅いだことのない、スーッとした匂いを持つ人族。

 

 ああ、わたしはもう駄目なんだ。

 頼める立場ではないことは存じています。

 それでもお願いします。

 人族様。

 妹だけは助けてください。

 お望みとあらば、人の姿を取って犯されます。

 ですから、妹だけには手を出さないでください。


 お願いをしたあと、わたしは身体に迫り来る凍えるような寒さを感じて意識が……、無くな……って。

 最期にみた言葉に言い表せない燦然玲瓏と輝く紋様をみて、わたしは何故だかとても安心した。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 


 次にわたしが目覚めたときは、焚き火の前だった。

 きっと、これから肉を切られてくべられるのだろう。

 どうせなら、美味しく食べられたい。

 

 妹はどうしたのだろうか。

 逃げてくれただろうか。

 それとも……。

 私と一緒に捕まってしまって、焚き火にくべられてしまっただろうか。


 嫌だ。

 でも、妹ともに死ぬのもありかな。

 こんな世界にもういたくない。


 なんて想いながら、目を瞑り食卓に上がるまでの時間を覚悟していたところ。

 妹の吼える声が聞こえる。

 よかった。まだ生きているようだ。

 よかった。

 

 妹が吼える声と共にガツンという金属を咬む音が聞こえた。

 きっと妹が殺される前に鍋に噛み付いたのだろう。

 そうだ。

 妹が抵抗しているのだ。

 私も抵抗しなければ。


 目を開けて、立ち上がろうとしたところで、人族がわたしの顔をみた。

 目が合う。

 思わず、首を傾げてしまう。

 なぜ私を凝視するのだろう。

 

 殺して食べようとしたところで、獲物が起きていたからなのか。

 悪いことをした。

 わたしを殺しやすいように、恥ずかしいけどお腹を見せる。

 人族なら持っているであろう、短剣をわたしの脇腹に刺して欲しい。

 今ならもう諦めてるから。


 それなのに人族は。

「起きたあああああああ」と、喜んでいた。

 なぜ、喜ぶの。

 私は食卓のお肉なのに。


 妹はその人族の足に噛み付いている。

 血をダラダラと流しているのに、怒っている素振りなどない。

「痛ぇよ白い方!

いいから、食わないって!」なんて言ってるけど、どうだろう信じられない。


 きっと、寝静まったあとに殺すんだ。

 それでもいい。

 わたしは食卓のお肉だ。

 妹が元気にしている、それならいいや。

 食卓のお肉で。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 結局、その後は食卓のお肉になることはなく。

 わたしはご主人様に敬愛の念を教えて頂き、魔王と自称されるご主人様の強さにわたしは畏敬の念を覚えた。

 わたしと妹の獣の姿はご主人様にとって懐かしい姿になるようで、事ある毎に私の獣の姿を見ては毛皮に顔を埋めて泣いていた。

 臭くて獣の匂いするのに、嫌そうな顔なんかしなくて。

 妹はわたしが襲われていると勘違いして、いつもご主人様に噛み付いたりしているけど、それでもご主人様はわたしを抱いて泣いている。


 最近はご主人様が泣いているときは、空気を読んだのを覚えたのか妹がご主人様にちょっかいを出さなくなった。

 わたしもご主人様の涙に無粋な態度は示さない。


 泣き止むまで待つ。

 最後まで泣いて「ありがとう」とお礼を言われて、幸せな気分になって。

 喉の下をくすぐられて、耳の後ろをカリカリと掻いてくれて。

 それだけで、幸せになって。

 思わず、直ぐに人間の姿になって抱きついてしまう。

 もっと掻いて欲しい。

 

 耳の後ろだけじゃない。

 もっと全体的にもっと。

 エルさんの匂いとか、ティーネの魔力の残り香とかエリーの香水とかべったり付いているけども。

 わたしの匂いも付いて欲しい。

 獣臭くて嫌かもしれないけど、それだけわたしはご主人様が好きだ。

 妹と同じくらい好き。

 

 ご主人様はわたしを庇護するほどにまで圧倒的に強いけども、ときどき見せる涙にわたしは直ぐに同情してしまって。

 ご主人様の言うことを思わず従順に聞くようになって。

 "日本語"とやらを覚えるようになって。

 そしてあのことが起きて。

 ご主人様が悲しみに堕ちて。


 わたしと妹とエルさんたちで、ご主人様を支えようと。

 血は繋がっていなくても、同じ家族なんだと。

 ご主人様だけが人族だけど、わたしたちと同じ魔族なんだと。

 魔族を愛し、魔族が愛する人族なんだと。

 

 あんなに妹とわたしから幸せを奪い壊した、人族が目の前で。

 目の前で同じ人族に壊され、奪われた。


 人族は嫌いだ。

 憎くて、滅ぼしてやると想う。

 まだ、悲劇は終わらない。

 壊れかけたご主人様を守るように、わたしたちはがむしゃらに頑張った。

 ご主人様を嫌いだと公言する妹も、わたしたちと共に頑張った。


 人族の身でないと、狩られるからと。

 みんな、人族に変化出来るようになった。

 わたしと妹は獣耳が隠せなかったけど、それも隠せるようになった。


 それでも、いくつかの国を旅した。

 魔族が酷い目に遭っていた。

 助けに行きたい。

 それでも、わたしたちは助けにいけない。

 助けに行っても、そのときは助かってもその後に続かない。


 戦争の道具になった魔族もいた。

 わたしたちを人族の集団だと思って、夜襲を受けたことも何度もある。

 その度に、殺した。

 魔族でありながら、同じ魔族を殺した。

 嫌だった。

 でも、頭に血が昇っている人に交渉など出来ない。


 だからといって、なすがままにされていれば、わたしたち女性は犯される。

 だから殺すしかない。

 殺した結果、その親を持つ子どもから「人殺し」と(ののし)られた。

 魔族の癖に魔族を殺すのかと(そし)られた。


 心が何度も折られた。

 妹は何度も「お姉ちゃん」と慕ってくれた。

 わたしが折れそうになる度に、妹も辛い筈なのにわたしを助けてくれた。

 エルさんもティーネもエリーも、ネスも辛い筈なのに。

 でもご主人様を矢面に立たせると、壊れてしまうから。


 同じ魔族に恨まれ、罵られ誹られ心が折れて壊れそうになりながらも、同じ人族を愛した者達として一緒にいた。

 そしてようやく、わたしたちは地獄から抜けて海を渡り村を作った。


 最後の魔族が住める村として、頑張った。

 ご主人様の名前を冠した村を作り、街になりそして国になった。

 村を作ってから、周辺の村に隠れ住む魔族を誘致(ゆうち)した。

 ご主人様の言う、法整備もした。

 でもご主人様が人族だということに、その他の魔族は(なじ)った。


 ご主人様は何度も「ごめんなさい」と謝った。

 謝る必要なんてないのに、ご主人様は「ごめんなさい」と謝った。

 ご主人様は同じ人族に幸せを奪われたのに「ごめんなさい」と謝り続けた。

 嫌だ。

 これ以上、ご主人様をいじめないで。

 壊さないで。

 わたしたちのお父さんを、好きな人を壊さないで。


 あの事件が起きる前のあの笑顔のご主人様を見せて。

 わたしたちは不安だよ。

 壊れないでお父さん。

 詰った魔族たちは抜けていった。

 そして、この海を越えたこの大陸に移り住んだ魔族たちにも魔の手が伸びた。

 

 何人もの魔族が囚われて海の向こうへと連れ去られた。

 わたしたちの街にも来た。

 エリーの『再活性の円舞曲(リアニメイトワルツ)』で軍隊を殺戮しながら、押し返した。

 ティーネの『前衛要塞(フォートレス・ヴァンガード)』と『最終騎士(クラウン・シュヴァリエ)』で単身軍隊に乗り込み、中心地で『焼灼焔の言霊(ムスペルヘイム)』で風穴開けたりした。

 ネスもお父さん直伝の『擬似太陽(ソーラーフレア)』や『天空から墜つ焼灼の槍(ツァーリ・ボンバ)』を乱れ撃ったりもした。

 

 何度襲われたか分からない。

 人族と獣人族が誇るという『勇者』という存在も来た。

 それらは全部、わたしたちが交替で殺し続けた。

 いつしかわたしたちは、お父さんをそっちのけて『魔王』なんて呼ばれた。

 お父さんに掛かる火の粉を払い落とすためだけに、わたしはいる。


『魔王』がなんだ。

 わたしは独り善がりでもいい。

 お父さんを守る『勇者』なんだ。

 お父さんを壊そうとする人族と獣人族の『勇者』とやらは、敵だ『魔王』だ。


 壊してやる。

 殺してやる。


 あのときのわたしなんかではない。

 あのときに欲しくて止まなかった、障壁すらも貫く牙がある。

 世界を薙ぎ払う爪がある。

 

 逃げるための足ではない。

 追い詰めて確実に命を奪う脚がある。

 お父さんを守る者として、今わたしはここにいる。


 

本編では主人公または別視点で進む場面を書いています。

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