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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-旅立-
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トカゲくんとお風呂


 トカゲくんが目覚めて、エルリネが実は凄い人だということが分かってからの本日。

 漸く、おっさんから例の報酬について進捗があった。

 ツペェアへ向かう馬車の手配と、家を借りるための資金。

 それに加えて、有り難いことに生活資金までくれるようだ。

 涙が出るほど有り難い。


 これで最終手段の宮廷魔術師へ入る門を叩かないで済む。

 俺の場合、多分叩くと称して破壊する可能性がある。

 エルリネ辺りを巻き込んだら、はた迷惑なことに『魔王化』する自信もある。

 良かった良かった。


 おっさんからの依頼とはまた別の依頼を受けた。

 内容は、非常に簡単なものでおっさんの実家に挨拶して欲しいということだった。

 実家、つまりおっさんの親御さんがいる家だ。

 セシルという魔族混じりであっても孫は孫だ。

 可愛く見えるだろう、ということらしい。


 親が子に対して"魔族混じり"って言ってはいけないセリフではないだろうか。

 こういうところを見て、子どもは勘違いするんだがなぁ、なんて思っても口に出さない。

 しかしまあ、あの時のセシルのお母さんを娶ったときの、あの話が胡散臭く感じるようになってきた。

 本人は大事だと言っているんだ。

 それを信じようか。


 おっさんから馬車を乗せてくれる人を紹介してくれた。

 挨拶も程々にこなし、早速馬車に乗せてくれる人と話し合った結果、出発は明後日になった。

 ちなみに馬車は荷馬車だという。

 お尻と腰が痛くなりそうだが、徒歩で行くより何十倍もいい。

 異世界系のweb小説によくある、クエストのようにツペェアまでの道のりで荷馬車を守れ! とか言うものかと思ったが、別にそういうものでも無いらしく、いわば客として乗っていいらしい。


 ただ乗っているだけでは悪いので、クエストばりに頑張る所存であることを伝えたが、本気として取られずに、「はいはい、期待しているよ」とにっこりと品のいい笑顔でそう言われた。


 本気なんだが、まあいいや。


 明後日の旅に向けて、軽く用意をする。

 といっても、俺とエルリネは対して変わらない。

 動物の血とドロなどでガビガビになった、母さんが作ってくれた一張羅が、洗濯されてすっかり綺麗になっていた。

 以前より身体が大きくなったため、ちょっと小さいが、まだ着れない、履けない訳ではない。

 だが、間違いなくツペェアでお別れだろう。

 今までありがとう、俺の一張羅。

 次もトカゲくんを入れる、胸ポケットがある服を選ぶ必要がある。

 

 それについては無事にツペェアについてから考えることにしようと思う。

 あと、エルリネについてだが、グラディエーターサンダルが非常に似合うので貰えば? と聞いてみるも、今までどおりの靴がいいということで、俺とお揃いのドロで汚れた靴を出して貰おうとしたところ、餞別代わりに代わりのものを用意して貰ってしまった。


 どこにでもありそうな革製のブーツで、糸のほつれなども無いのでそのまま貰うことにする。

 極端なことを言えば、見かけた盗賊を強襲して靴奪うのもありかもしれない。

 いや、その場合は金を奪えばいいのか……。

 ……いかん、考え方が盗賊に似てきた。


 新しい服と靴の状態で軽く往復持久走を行ったところ、新しい靴でも瞬発力は対して変わらないようで、ひとまず実用には耐えるようだ。


 さてエルリネの話に戻るが、例の民族衣装を意識したような服が戻ってきた。

 洗濯されたお陰で褐色肌の彼女と赤と黄色が中心色だった民族衣装が白くなってて、違和感バリバリで普通に目立つ。

 エルリネも困惑気味に眉が八の字になっていた。


 

 最後にセシルとはいうと、スカートといった出で立ちではなく、いわゆる長ズボンに長袖のシャツに革製のコートといった旅人っぽい格好だった。

 お嬢様だから「可愛い格好じゃないと嫌だ」なんてこと言うかなーなんて思ってたが、そういったことも言わず、寧ろ駄目出ししていたぐらいだった。

 というか、俺とエルリネが軽装過ぎるのだろうかと心配になった。


「一日だけ」と思ってほしくはないので、一先ず出発は明後日ということで明日一日はそれを来て貰うことにした。

 もちろん、俺もエルリネもこれをずっと着た状態で、今日と明日を過ごす。

 久しぶりの自分の服で、エルリネ相手に実戦を行うが、やはり違うと感じる。

 まず、礼服というものは重かったりする。

 しかし、自分の一張羅は小さいというのがたまにキズだが、それでも身体にフィットし軽いので、魔力の練りが簡単だ。


 だから、この一張羅になって漸く「X,Y,Zの爆弾(キュービックボマー)」でエルリネに一個だけヒット出来た。

 爆発も軽いものだ。

 具体的にいうと駄菓子屋さんで売っているような爆竹みたいな爆発だ。


 それを非常に当てにくい、エルリネの軸足に当てた。

 しかし、「おっしゃあ!」とエルリネに当てたことを喜んだところ、エルリネが直ぐ様学習して、以降掠ってくれさえもしてくれなくなった。

 俺が言うのも難だが、この娘は本当にチートだ。


 ひと通り運動をしてフロリア家組がキュリア家と共に夕食を摂った。

 その後、セシルは執拗に俺と入りたがったが、エルリネと共に入ってもらい、俺はトカゲくんと共にこの(ザクリケルニア)で最後のお風呂に入った。


 やはり幸せだ。

 生前の世界でいうトカゲくんの種族、アルマジロトカゲは砂漠地帯に住む生物だ。

 なので、風呂なんてものは慣れないだろうし、下手したら死ぬ可能性があった。

 だが、脱衣場で胸ポケットから出して待って貰おうとしたところ、いやいやされた。

 うーん、その仕草が可愛いのだが、死ぬかもしれない。

 だから「だーめ、溺れちゃうよ」と言っても、いやいやして手から腕へ、そして肩に登り頭の上に乗った。

 頭の上ならいいか、頭を洗ってからは肩にいて貰うことにする。

 で、早速浴場に入り水を頭からザバーと被る。


 トカゲくんにも水が掛かるか、特に気にしていないようだった。

 逃げも隠れもしていない。

 その後は、湯船に入り身を委ねる。

 ちゃぷんと、トカゲくんも湯船に入った。

 意外と優雅に泳ぐので、溺れることはないようだ。


 幸せだ。

 

 トカゲくんが優雅に泳いでいる中で、ちょっと上がって身体と頭を洗う。

 後ろに誰かがおり、見られているような気配がするが、別にセシルがいるわけではなくあくまでトカゲくんがいるだけであった。


 生前の世界の怪談で頭を洗っているときに云々、という話を思い出してしまったが、流石に異世界にまでお化けなんているはずなんてない。

 幽霊種とか腐死体とかそういうのはいそうだが、日本らしい怪談の幽霊種はいないだろう。


 しかし、一度気になると段々恐怖が襲ってくるのもまた事実。

 後ろを再度ちらりと見ても、トカゲくんがこっちを見ているだけである。


――平常心平常心。


 自分をごまかしても不安感は拭えない。

 わしゃわしゃと頭を四、五撫でしては後ろを見る、気分は『だるまさんがころんだ』状態。


 後ろを見る度にトカゲくんが近づいてくる。

 そして、一定距離を近付いたかと思ったらいなくなった。

 どこへ行ったのか、分からなくなって前を向いて、お湯を被ろうとしたとき、背中にぴとっと人肌のようなものを感じ……る前に俺の意識はブラックアウトした。

 

 ブラックアウトから戻ったとき、俺は寝転がっていた。

 湯あたりだろうか。

 明後日から旅なのに、幸先が悪い。


 いなくなっていたと思われたトカゲくんは、俺の胸の上に鎮座しており、俺と視線が交わる。

 つぶらな瞳でずっと見つめてくるトカゲくん。

 その黒い瞳は何を見つめ、何を言いたいのかは分からない。

 可愛らしい瞳だ。


 思わず「可愛いなお前は」とトカゲくんを撫でると、鱗が逆立った。

 逆鱗に触れてしまったようだ。

 やはり、このトカゲくんはオスでトカゲちゃんじゃないらしい。


 さて、気絶から戻り身体を洗う。

 先ほど感じた視線は感じられず、身体についた泡を湯船のお湯で流す。

 近くにいたトカゲくんを両手で持って、湯船に共に入る。

 トカゲくんも気持ちよさそうな顔になる。

 共通の趣味を持つ男友達が出来た気分だ。


 その後、友達が出来た気分のままお風呂から出て、セシルとエルリネと合流しそのまま就寝した。

 なお、寝る前にも俺の火属性の魔法をシャクシャク食べた。

 気になったので、エルリネの火属性の生活魔法を目の前に出して貰ったが、視線を逸らして「プイッ」とエルリネのような態度を取った姿に、思わずぷっと微笑ってしまった俺は悪くない。


 また、彼の就寝時の定位置は俺の腕の傍らしい。

 腕を枕に寝られた。



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