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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-旅立-
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エルリネとトカゲくん

 処刑を実施してからはや翌々々日。

 特に私設騎士の連中やセシルの兄姉(きょうだい)から、何か言われることもなくなった。

 熱烈なラブコールも特になく、中々平和であった。

 食事というものはやはりこうでないと。


 毒が混ざっているかもしれないということで、俺の食事と交換したり『蠱毒街都(ヴェナムガーデン)』を仮譲渡したりしたが、特に懸念することは起きなかった。

 とりあえず、おっさんの前報酬が支払われない限りは、こちらとしては暇ということで勉強したいところだ。

 だが、セシルは村で言う学校なんてものは既に卒業している。

 なので学園に入るまで非常に暇だから、ロンスカの家政婦(メイド)さんとずっと話しをしていた毎日だったらしい。


 うーん、それはとっても暇だ。

 とりあえず、暇なら身体を動かそう!

 ということで、エルリネとセシル(とトカゲくん)を連れ立って、庭に出る。

 やることは、エルリネとの実戦だ。

 使い物にならないというか、エルリネがいざ実戦で縮こまってしまっては今後困る場面があるかもしれない。


 それに今のところは特に起きていないが、今後俺がエルリネの意見に沿わないことをやった時とかで、自分の意見を引っ込めて俺の意見に沿うようなことは出来る限りやって欲しくない。

『奴隷』だからといって考え方まで『奴隷』、もしくは『人形』になって欲しくないのだ。

 そういうことで、ぶん殴ってでも意見を言えるように、エルリネの前にいる俺は『ご主人様』ではなく、一人の人間だということを示さなければいけない。

 

 前までの『奴隷人生』では逆らってはいけないとかあったかもしれないが、少なくとも俺にそんなルールを押し付けるつもりはない。

 寧ろ、俺に『魔王化』という爆弾を抱えている現状、ぶん殴ってでも止めて欲しい所存。

 いやエルリネだけではない。

 セシルにも出来ることならやって欲しい。


 と、崇高な理由はあれど口には出さない。

 口に出せばきっと変に心配される。


 そんなこんなで、エルリネと実戦訓練をしだしたのが、一昨日。

 つまり、処刑の日から翌日。

 最初はおっかなびっくりで、ぽこぽこエルリネに殴られる程度だった。

 だが、生前にちょろっとやっていた空手と、幼少から高校生までガッツリやっていた少林寺拳法を覚えている限りというか、好きだった技だった攻めの「指小手」、守りの「逆小手」だけで攻めまくった。

 もちろん、身体が覚えているけども技名忘れたようなものでもやったが、それでも「小手」シリーズで攻めまくる。

 もちろん、最後はじわじわ回復の回復魔法(ヒール)を使ったので、特に筋肉は痛めていない筈だ。


 その次の日、つまり昨日は痛いことはされたくないとばかりに、身構えると「プイッ」と顔を背けるようになったが、それでは意味が無いとばかりに説教する。

 内容は「自分の身は自分で守ろう」である。

 俺だって無敵ではない。

 今のところ赤い色の某配管工が五芒星でつぶらな瞳持つ星を取ったような状態だが、常に続いているものではない。

 逝くときはあっさり逝くものだ。

「俺が死んだとき、どうすんだ」とエルリネに聞けば「一緒に死にます」と言ってくれる。


 愛されているが故の後追いだろうが、それではいけない。

「エルリネが戦力外で、助けるために向かって俺が死んだらどうすんの」と聞いてみれば、漸く納得してくれた。


 それ以降からずっと庭で実戦だ。

 エルリネが戦いがらないことに理由が実はあった。

 実戦してからそんなに経たずにわかったことだが、この(エルリネ)が普通に強かったということだ。

 納得してくれたのがお昼の大体日が一番高い頃合いだったが、それ以降の夕食まで凄い猛攻で濃密な時間を過ごしたと思う。


 足手まといだとか言ったが、全然足手まといじゃない。

 接近戦だと間違いなく俺より強くて、寧ろ俺が足手まとい。

 彼女の戦い方のスタイルとしては、短剣一刀流で死角からの一閃だ。

 お前はどこの直○の魔眼持ちの人間だ。

 冗談抜きで凄い強い。

 手加減で生活魔法と頑張って威力を下げた自衛魔法を駆使していたが、「凍結の棺」で足を狙って凍結させようとしても、追いつかないばかりか俺の首に黒曜石の短剣迫ってくる。


 苦し紛れに「X,Y,Zの爆弾(キュービックボマー)」という立体設置式認識難の地雷を設置しても、設置位置を華麗に避ける。

 この魔法は認識難をウリにしているだけに発生設置が早く、且つ「視覚」、「嗅覚」、「熱源」探知がしにくい。

 一応、魔法なだけに「魔力検知能力」が並以上にあれば、発生検知出来るという暗殺向けの魔法だ。

 

 だが、

 設置、避ける。

 設置、避ける。

 設置、避ける。

 設置、避ける。

 以下省略。


 この娘、何者だよ!

上述したとおり「凍結の棺」も通りにくい。

 通ったと思えば「フッ、残像だ」状態。

 走る足の早さも緩急がついていて、攻めの予測がしにくい。

 こちらはあくまで実戦練習だ。

 なので、攻性魔法は二、三個使っているが、魔王系魔法は使ってはいない。

 だが、今後マジでやるとしたら魔王系魔法が選択枝に入る可能性がある。


 確かにこれぐらい強ければ、やりたくないとか意見は言えるだろう。

 実際、夕食までの間に「死ぬかと思った」という場面が両手で数えられるぐらいにあった。

 だが、如何せん性格が弱いというか日和見主義というか。

 基本的な性格が優しいので「大人数相手にしたら諦めろ」ということを真に受けている。

 この娘なら何かしらで猫騙しして、その間に逃げるということが出来るようなものだった。

 

 ちなみに、その間のセシルは熱心に俺とエルリネの戦いを見ていた。

 自衛魔法以上の魔法を覚えたかったら、現状俺の実戦を見るしか無いしな。




 で、その翌日である今日も、ひたすらエルリネ相手に実戦だ。

 この世界の自衛魔法以上が分からない以上、俺の黒歴史ノートに書き記された攻性魔法をひたすら使う。

 昨日の時点では使っていなかった、パッシブの「多重起動(マルチタスク)」を初めて使うようにした。

 どう違うかというと、昨日の「X,Y,Zの爆弾(キュービックボマー)」が一個一個ずつの設置だったが、それが息をつかせないほどに大量同時設置が出来るようになる。


 しかし。

 設置完了!

 全避けされました!


 っていうぐらいに有効打にならない。

 魔力検知能力が俺並みにあるんじゃなかろうか。

 そんな俺に釣られたのか、この娘も中々のチート持ちだった。

 ちなみに、必死になっているものかと思えば、顔を見れば超クールな顔だった。

 なんとなくだが「はぁ、つまらない。もっと味がある戦いはないかしら」なんて心で思ってそうな顔つきだった。


 もちろん、ただの想像だが。


 そんなこんなしている内に、周りに観客(ギャラリー)が出来ていた。

 客は私設騎士団の面々。

 見られて悪い気はしないが、セシルを(なじ)られた際にいた連中までいるから胸糞悪い。

 離れたところから「お前行けよ」とか言っているのが聴こえるが、お前らが来たら死なない程度の攻性魔法をぶつけてやるからな。

 覚悟しとけよ。


 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ほかにも、あの日から変わったことがある。

 例のトカゲくんが起きたことだ。


 それは処刑した日の夜。

 珍しくセシルがエルリネと共に寝ていたとき、部屋の文机の上で丸まっていたはずのトカゲくんが俺の脇に寄ってきた。

「お、おおぅ」とぼそっと呟いたら、トカゲくんと目があったが特に驚かれずに俺の腕を枕にして寝始めた。


 やたらと人間臭い動きのトカゲくんだ。

 で、その翌日起きてみれば、夢とかではなくちゃんと腕を枕に寝ていた。

 寝ているところを起こすのも悪いとは思うが、起きたからにはちゃんと起きておきたい。

 トカゲくんの身体をゆっくりと持ち上げれば、特に抵抗されずに持ち上げさせてくれた。

 だが、文机の上に置こうとすると嫌がられた。


 嫌がり方が尋常ではない。

 前後の足の爪をしっかりと俺の手の平に食い込ませる。

 更に言えば、がぶっと噛まれている。

 もちろん、血が出るような噛まれ方ではなく、いわゆる甘咬みだがそれでも嫌がっているというのが見て取れる。

 なにが彼にそうさせているのか。

 そう思い、文机に触れてみれば納得なほどに、冷たかった。

 熱で温めるわけにもいかないので、暖かめの寝台の上に置こうとしたが、それも嫌がられた。


 仕方がないので寝間着の胸ポケットに入れようとしたところ、自分から入ってくれた。

 きっと、彼からすれば定位置なのだろう。

 なんとなく、可愛く思えた。




 ここで、気付くことがある。

 それは、(トカゲくん)の餌である。

 トカゲといえば、コオロギなどの虫がメインの筈である。

 しかし、この場では虫などはいない。

 いや、庭ならいるかもしれないがいくらなんでも、セシルを起こして庭に行くなどセシルが許しても、俺が許せない。

 睡眠というのは、かけがえの無いイベントだ。

 他人がどうこうしていいものではない。


 ……旅している間、エルリネを幾数回起こしちゃったことは何度もあるので、声を大にしては言えないが。

 いや、それよりも彼は昨日動き出すようになった。

 つまり、水を今まで飲んでいない筈だ。

 いくら、生前の世界であれば砂漠地帯に住むアルマジロトカゲであっても、水分が無いと死んでしまう。


 というわけで、一度生活魔法の水球を出して彼の目の前に出したところ、「水を飲む」のではなく、「水を食べ」始めた。

 それも、嫌々食べているのではなく、もりもりと食べている。

 しゃくしゃくごくんという咀嚼音が聞こえる。


 俺の生活魔法は以前と変わらず、相変わらず桶に入りきらない水量を持っているが、彼はそんなこと関係ないとばかりに食っていく。

 流石異世界だ。

 魔法を食べるトカゲがいるなんて。


 生活魔法の水球を食べきったとき、彼の顔がちらっとこっちへ向いた。

 その顔がなんとなく「もうないの?」という面構えに見えたため、水球をまた見せれば食べ始めた。

 彼にとって魔法はオヤツなのか主食なのか判断が付かない。

 話しかけても当然返事などないので、セシルとエルリネが起きるまでぼけーっと食べさせていた。


 そこで気になったのが、潜在属性である。

 魔法を食べるということであれば、魔獣とかその辺りだ。

 つまり身体の中に魔素があり、死ねばいわゆる魔石になる。

 その魔素が、潜在属性が決めるものではないだろうか。


 ということで早速、魔獣の彼に違う属性を食わせてみる。

 まず、地属性の石。

 ちらっと見られたが、水を食べる。

 風も同様だった。

 で、火を見せたところで劇的に反応が変わった。

 水そっちのけで火に飛びかかったのだ。


 すわ投身自殺かと見まごうばかりの飛び掛り方で、胸ポケットから俺の手の平に張り付いて、食べ始める。


 俺の生活魔法とは言い難い火属性を、一心不乱に食べるトカゲ。

 彼が食べ終わった頃にエルリネとセシルが起き、彼は胸ポケットで入り寝始めた。

 エルリネとセシルに彼の種族を聞いてみる必要があった。

 

 そして返ってきた答えは、分からないだった。

 そもそもトカゲというものを見たことがないという。

 なので、餌についてはよく分からないとのこと。

 一応魔獣の類でも基本は肉食で、肉から魔素を取り込むのだという。

 よって魔力を食べる魔獣は聞いたことがない、だから『分からない』。


 あと考えられるものとしては、魔族だがその魔族もエルリネやセシルを見る限り、雑食性でも肉や野菜から魔素を取り込んでいるように見受けられる。


 幼少時はダイレクトに魔素を取り込む必要がある種族。

 思い付かない。


 トカゲくんの種族については、この際置いておく。

 ひとまず、彼が目覚めて本当に良かった。

 それだけだ。


 

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