父から娘への想い
さて、だいぶこの家族紹介で時間を食ったが、早速夕食を取ることになった。
いやあ、美味いねえ。
この海老とか美味い。
料理漫画とか余り読まなかったので、ああいう系の感想は出来ないが、もう異世界って感じがする美味さ。
なんかこう、軟骨のようなコリコリ感があるのにマグロッて感じの味とか。
甘酸っぱいメロンの味なんだけど、見た目オレンジで剥くとキウイフルーツの果肉が詰まっている。
「ご主人様、ご主人様。これ美味しいですね!」
と雪が積もって喜ぶわんこのようにはしゃぐ彼女。
今彼女には俺の『奴隷』であることを示す、『精神の願望』の奇妙な文字配列と魔力で描かれた線の紋章がぼんやりと明滅しており、更に毒を盛られないように、彼女に『蠱毒街都』の最低駆動状態で譲渡しておいているため、足元に紫色の魔法陣が発生している。
これで、あの椎茸モドキ程度の毒であれば中和するし、変なのも寄ってこないだろう。
対して、俺はセシルが齧ったものを口に入れている。
「はい、あーん」である。
こっ恥ずかしいが、「齧ったものを食べさせるようにしますから」と、あの場で約束した手前、やっぱり要らないなんては言えない。
セシルは先ほど半泣きさせた手前、黙ってされるがままにしておいた。
◇◆◇◆◇◆
しばらく、されるがままにして気づく。
セシルがべったべたにくっついているからなのか、兄姉たちが寄ってこない。
まあエルリネには寄らないだろう。
明らかに『奴隷』身分の者だ。
高貴な身分の者には、彼女は一種の汚物に見えるかもしれない。
エルリネには悪いことをしているという自覚はあるが、クソ面倒なことをされる前に先手必勝で立場を明らかにしておくしかない。
「話しかけてくるな」っという意味合いの。
そう考えている内に、おっさんがやってきた。
「楽しんでいるかね」と。
さっきの一悶着がなければ、最高だったと文句を言いたいところだったが、さっきの心情は可愛い盛りの娘を攫っていく男の子に対しての対応だろう。
そう思えば悪い気はしない。
漫画とかドラマとかで「娘さんを僕にください!」と言っている場面だ、アレは。
まあ、娘さんが勝手に「お父さん、私この人と結婚するから!」でお父さんと旦那(予定)が「はァ?!」と目を丸くするような展開だったが。
旦那(予定)をその場で置き去りにするのも新しかった。
申し訳程度に「貴様に娘はやらん!」と言ったら返しが「いや、要らないです」というのは中々ないシチュエーションだったとおもう。
そのシチュエーションを体験出来ただけでも、最高だ。
だから「楽しいですよ」と一言だけ答えた。
「そうか、よかった」とおっさんが言うと同時に、何かを感じたのかセシルが離れ、エルリネの元へ行く。
多分これから、俺はおっさんと真面目な話をするんだろう。
女性には話をすることが憚れるようなことだろうか。
おっさんが「ここからは独り言だが聞いて欲しい」と話しかけてきた。
「元々、我が一族は宮廷魔術師を輩出していたのだがな、私が魔法などには弱くて私を最後に宮廷魔術師に入れなくなった。
私の兄弟姉妹も、宮廷魔術師としての実力はなかった。
一般の貴族として生きることを余儀なくされた。
それでも、私の先祖様が稼いできたお金で贅沢は出来ぬが何不自由なく育った。
兄弟姉妹もみな心得ているから、贅沢など考えない。
一般の民草とともに商売をする方法を学びに旅立った者もいる。
だが、私は魔法は出来ぬが剣には兄弟姉妹の誰よりも達者だった。
いや、それしか勝るものが無かった。
だから、学校へ行き、カルスと出会った。
剣と魔法以外の大事なものをあの学校で学び、獲得した」
「…………、」
「カルスが卒業と同時にカルタロセに行ったときには、既に五人ほど娶っていた。
そして、この国へ帰った。
その時に出会ったのだよ。
セシルの母にな。
身体が弱い幼馴染だった。
一緒に遊ぶときも、喉を患っているのかいつも咳をしていてな。
彼女に対していつも、淡い恋心を抱いていた。
だが私には既に五人もいた。
これ以上は抱えられない」
「…………、」
「その矢先に戦争が起きた。
故郷で待っている五人のためではなく、最早彼女のために戦果を挙げ続けた。
貴族になれば、彼女を娶れると信じて。
結果はこの通り娶れた」
おっさんの声が震え始めた。
「だが、私は妻を均等に愛せなかった。
あの子の母だけを愛してしまった。
その所為で、誰かの差金か分からぬが、亡くなってしまった。
悲しんだ。殺してやると思った」
でも。
「相手が誰か分からなかった。
振り上げた拳をどこに振り上げればいいのか。
そのときまだ幼いあの子が、私に甘えてきた。
振り下ろす気力が消えた。
この子を精一杯愛そうと思った。
だが、忘れ形見のあの子を愛してしまったら、今度はあの子を喪うかもしれない。
だから嫌な父だろうと思われてもいい。
あの子にはキツく当たるようにした。
私の心は荒れ狂ったよ。
もっと愛したいと」
「…………、」
「あの子を危険から守るために、私の私設騎士団を数名抜擢し、警護に当たらせた。
もちろん、あの子だけ特別にしないように、私の息子、娘全員に私設騎士団を与えた。
そのつもりでいたのに、あの子の私設騎士団はみな息子、娘に取られてしまった。
あの子の守護の任を最期まで持っていたのは、盗賊どもの犠牲になった二人とアリナだけだ。
そのアリナも、あの場で叱責した。
私が、あの子に辛く当たるために最後の砦であるアリナを崩してしまった」
おっさんは座り、俺の目と合うように見つめる。
「…………ミリエトラルくん。君にこう頼むのは間違っているとおもう。
根無し草の君だ。非常に迷惑だと思う。
婚約者も既にいると言った、その上で頼みたい」
――我が娘、セシル・キュリアを愛して欲しい。




