人生の挿絵
セシルに上がることを伝えて、脱衣場に入る。
さっきは「風呂キター!」と考えてたから気にしなかったが、この脱衣場が非常に"日本"っぽい。
まず"すのこ"がある。
そして脱いだ服を入れるカゴまである。
更に入り口に、のれんではないが「おとこ」と書いてある。
更々にいえば、「女人禁制」とある。
「女人禁制」なのに、入ってるセシルさんがいるんだが、まぁこれはいいや。
突っ込むのが最早億劫だ。
と、服を投げ入れたカゴを見ると、俺の一張羅は無くなっており、代わりに畳まれた真新しい上下の下着と服が入っていた。
その畳まれた服の上にちょこんと例のアルマジロトカゲ、いや長いからトカゲにしよう。
そのトカゲくんが鎮座していた。
もちろん丸まってだ。
カゴの傍には室内用上履きらしい、いわゆるグラディエイターサンダルがあった。
……これを履けと。
一年以上酷使した靴が見当たらないので、これしかないのだろうが。
しっかりとしたところのお家で裸足晒していいのだろうか。
というか生前の世界だと、グラディエイターサンダルって女性用のイメージでしかないんだが……。
この世界だと割りと一般的なのだろうか。
とりあえず、トカゲくんを両手で掬うように持って移動させる。
乾いた布巾で身体を拭いて、上下の下着を着る。
そして、服だが。
これはなんだろうか。
生前は服に無頓着だった。
無頓着だったからモテなかったんだろうが、それはいいとして、例えるような服が思いつかない。
マリンルックというべきなのか。
膝丈ぐらいのズボンに、さっぱりとした色合いのシャツといえばいいのか。
そんな感じのものだ。
……というか、これから飯だよな。こんなラフでいいのか?
と、いざ着替えてから悩んでいると、湯船から出たセシルが「あら、既に着替えてらっしゃるのですね」と心なしか残念そうな声音で、言われた。
セシルは見せつけるように色っぽく、いちいち優雅に着ようとしているが、悪いな全然反応しないわ。
興味ないし。
あと八年後に頑張ってくれ。
ツッコミたいことは山ほどあるが、とりあえず聞きたいことを優先する。
「こんな、形式張っていない格好で飯なのか?」
と、セシルに聞いてみると「反応しないなんて、鉄壁ですね」と言われた。
悪いがロリに興味はない。
いや、この年齢だとペドの領域だ。
とにかく、興味ない。
「それに対する答えですが、それで食べるわけではありません。
このあと、その格好でミルさまが今後逗留されるために用意された寝室に向かって頂き、そこで礼服に着替え、食事になります」
ツッコミたいことが、二つ出来た。
「なあ、ツッコんでいいか?
……なんで、滞在すると既に確定されてるんだよ!
俺が嫌だって言ってたらどうすん――、そこもじもじしない!」
「ツッコんで頂けるんですよね。
有り難うございます。精一杯家族になります」
「そこに反応するな!
なんで、風呂入った時点で滞在確定の話になってるんだよ!」
「わたくしのミルさまへの反応を、父が気づかれまして。
丁度、学校の護衛の話もあるし「色仕掛けしてこい。成功するまで風呂から出すな」と言伝を伺っておりました」
「…………、」
あの野郎に目掛けて、簡易起動の「焼灼の槍」で串刺しにしてやろうかしら。
と、黒いことを考えたところ、セシルに人差し指で鼻をちょんと小突かれた。
「父に何か報復しようと、考えているようですけど手加減してくださいね」
とにっこりと釘を刺された。
そうだよ。こういうところから、手加減を学ぶべきなんだよな。
「はぁー。わかったよ、セシルに免じて生活魔法の火球をぶつけるだけにするよ……」
「はい、有り難うございます」
とセシルは微笑うが、俺の生活魔法の火球は直径10cm弱のモノなんだよなーこれが。
もちろん、敢えて言わない。
トカゲくんをシャツのポケットに入れ脱衣場から出ると、既に風呂から出てスッキリした顔のエルリネが待っていた。
◇◆◇◆◇◆
エルリネも、俺と似たような格好でマリンルックにグラディエイターサンダルを履いている。
……俺の勝手なイメージだけど、エルフ系にグラディエイターサンダルって凄い似合うわ。
俺がエルリネに見惚れていると、エルリネが耳をピコピコと上下に揺らしながら首を傾げる。
いやあ、わんこですねえ。
「ご主人様、私の格好……変ですか?」
「いや、凄い似合うなー。と思ってね」
「……えっ」
「やっぱりエルリネには、そういった格好が似合って可愛いよ」
「…………、」
目に見えてエルリネは照れ照れしていた。
いやあ可愛い。
癒される。
「ご主人様も格好いいですよ。
身体も引き締まっていますから」
「まあ、そりゃ一年も歩いて旅していれば、余計な贅肉とか付かないよ。
猫とか熊とかを相手に動きまわってたし……。
そういうエルリネだって、引き締まってて個人的に女性的魅力が非常に高くて困る」
「いえ、私はこんなに引き締まっていて抱き心地が悪そうで、嫌だったのですが……」
「世間一般的な男性はどうおもうか分からないけど、俺は好きだよ」
「そうですか?」
「うん、そうそう」
「では、もっと頑張ります」
「うん、頑張れ頑張れ」
俺の脇にいるセシルを盗み見たところ、頬を膨らませて妬いているようだった。
こういう嫉妬があるから、ハーレムは受け付けねーんだよ。
分かったのなら、妻とか言わないで欲しい。
セシルを先頭に在留する寝室に向かって歩く俺と、エルリネ。
先ほどのツッコミたい内容で、聞きそびれたことがあったので、今のうちに聞いておく。
「セシル」
「なんでしょう?」
「今、向かっている俺達が滞在する寝室だけど、俺とエルリネは別室?」
「いえ、同室になります。
それとも別室のほうが……?」
「いや、一応得体のしれないよそ者だからな。
父の子と言うのも、他人からすればあくまで自称だし。
そんなよそ者のために、二部屋空けるのは気が引けるなーと思って」
「ああ、意外とまともな回答ですね」
「…………?」
「子作りするから一緒に――」
「んな訳あるかァ!
……エルリネも照れ照れしない!」
エルリネの褐色の耳が下に下がって、頬と耳は赤く、顔を隠している。
いや、止めろ想像するな。
というか七歳とヤりたいのかエルリネよ。
「冗談ですよ。
わたくしの護衛ですし、もしわたくしが襲われたときに直ぐに動いて頂くために同室にさせて頂きました。なのでそこそこ大きい部屋になります。
……なお、防音性はありますよ」
「要らんわ!」
「冗談ですって。
ささ、ここになります」
とセシルは部屋の扉を開け、俺達に入るように促す。
うん、広い。
というかまさに生前でいう、ホテルの一室だ。
居間があって、寝室があってバルコニーまである。
いや、これ普通に護衛以上の存在に対する部屋じゃね?
それともこれがデフォルトで搭載?
エルリネが「ほえ~」と気が抜けたような声を漏らす。
貴族に買われていたとはいえ、奴隷生活が長い彼女だ。
貴族から客人以上の扱いを受けるなど、今まで無かったかもしれない。
エルリネをちらりと見ると、目のところが濡れている。
……しばらく、そっとしておくか。
セシルに連れられ、バルコニーへ移動する。
夕陽が既に沈み暗い夜空のなか、バルコニーから見た景色は凄かった。
この都市の景色が一望出来るのだ。
それも貴族街だけではなく、一般街もだ。
末子である彼女が、なぜこの一等席の部屋を出せたのか。
それもこんな得体のしれない子どもに。
セシルに聞いてみるが、分からないと答えられた。
なんでも「父上が場所を決めたので」とのことだ。
あの岩山で見た、あの満天の星と仲良く並ぶ双子の月の光がここ、ザクリケルニアでも同様に照らしていた。
きっとこの光景は、俺が死ぬまで覚えているだろう。
とても幻想的で、忘れられない俺の歴史の挿絵だ。




