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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-ザクリケル-
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書斎での会話



 ほんの体感一分ほどで軍隊とアリナが再起動し始めた。

 それでも、アリナは錆びついたロボットのように、ギギギギと震えながら首を動かして俺を見るし、オジサマの後ろの軍隊、ではなくお兄さんお姉さんが化け物をみるような目でこちらを見ている。


 そして、今更ながらにさっき散っていった騎士たちが戻ってきて、オジサマに耳打ちをする。

「ミリエトラルくん、君が言ったことは本当のようだ。我が屋敷へ来て欲しい」

「悪いが、断る」

 と、聞こえるように応える。


「……何故……かね」

 当主が誘っているのにこれを拒否する。

 普通なら戦争になる。

 だが、断る理由は当然決まっている、それは。


「先程まで明らかな殺意が見て取れた。そんな中にのこのこ入ってみろ。毒とか盛ってくるんだろ」

 オジサマが身動(みじろ)ぐ。


「俺には毒は効かない。だが、奴隷には効くんでね。おっと、おっさん。アンタが盛らないと約束しても無意味だからな

俺の奴隷はたったひとりのかけがえの無い奴隷だ。

アンタの安い約束で、かけがえの無い奴隷を失うのは困る」


 だから。

「断る」

「……どうしても、かね」

「……くどい。エルリネ、「ザクリケルニア」の先に何がある?」


「えっと。たしか「カーレーヌ」だったかと。だいぶ先ですけど」

「すまんな、エルリネ。安全のために、こうするしかない。

熊と鹿と猫以外の肉の食事と寝台でのゴロゴロは「カーレーヌ」でやろう」

「はい、ちょっと残念ですけど、仕方がありません。

――お供します」


 ちっとも残念そうな声音ではない、エルリネ。

 という訳でおぶっているクソ邪魔な荷物を下ろそうと、首に回っている腕を引き離そうとしても。


「嫌です!」

「なんでだよ」

「食事が怖いというのであれば、わたくしが一口齧ったものをお渡しします。

ですから、お願い致します」


「いやいやいやいや、意味分からん。なんで、そこまで必死なんだよ」

「お願いです。この通りです」

「いや、極まっているからね。極まっているからね。だいぶ苦しいから! 助けてぇ!」


 殺せば外せるが、それでは意味が無い。

 オジサマいや、おっさんが生暖かい目でこちらを見る。

 なに目頭抑えてるんだ、おっさん助けろよ。娘の危機だぞ。


 荷物が俺の腰に両足を絡めて離さない。

 且つ両腕は、首を極めている。

 諦めた。


「ごめん、エルリネ。指示を出したけど、やっぱり食べよう。そのあと出ていこう」

「はい、そうしましょう」とエルリネはいつもの微笑った顔を見せた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 屋敷の中はだいぶ豪奢だったが、成金趣味の馬車のようなギンギラギンな装飾ではなく、いわゆる程度のよさが見える装飾だった。

 ぶっちゃけ、好きな種類の装飾である。

 おっさんはいわゆるロングスカートメイドの姉ちゃんに、何か指示を出していた。

 好意的に見れば食事のことだろう。

 敵意的に考えると食事に毒入れろとか、指示出しているのだろう。


 ロンスカメイドさんは部外者たる俺に、一礼を去っていった。

 その姿を見てから、おっさんを見ると手招きしていた。

 こっちに来いということだろう。


 屋敷に入れば逆らう理由もないので、ホイホイ付いていき、部屋に入る。

 どうやら、おっさんの書斎のようだ。


「おい、いい加減降りろや荷物。重いんだよ」

 色々あり過ぎて、背中の令嬢様に対する扱いがぞんざいだ。

 また「嫌」とか言われるかと思ったが、素直に降りた。


 半日の間休みなく、背負っていた。

 普通なら音を上げる。

 それも七歳だ。

 チートあっても普通に無理だ。

 だが、やり遂げた俺凄い。


 ということで、座り込んでストレッチする。

 身体から嫌な音、主にバキバキという音が関節から鳴る。

 ストレッチをしてから『最終騎士(クラウン・シュヴァリエ)』が漸く解除出来た。

 殆ど、魔力がすっからかんだ。

『天竜、雷風の咆哮』も最低駆動以下の片鱗を見せている。

「天空から墜つ焼灼の槍」を二十本撃ったらぶっ倒れるだろう。

 

 まぁ普通の一般人なら余裕で一日分だろうが、俺の場合どれもこれも燃費が悪すぎる。

 燃費がいいチートが欲しい。

 いや、黒歴史ノートのチートで十分なんだけどな。


 そんな様子を心配そうに見ているエルリネと令嬢。

 ストレッチ中に無言はつまらないので、一応聞いてみる。


「で、書斎に呼んだ理由はなんでしょうか」

「敬語は要らないぞカルスの子、ミルくん」

「失礼ながら、目上の方にはこのように話すように父から伺っているもので」

 というのは、真っ赤な嘘だ。

 ただの生前の癖である。


 エルリネは歳上だが、奴隷で云々って言われているので普通にタメ口。

 それ以外の歳上は大抵敵だったので、そいつらもタメ口。

「カルスは敬語を使わない人だったが、変わったのか」

「……その言い方からすると、父を知っているようですね」


「ああ、そうだとも。カルスは学園の同級生でな。

正義感の塊だった。困っている人を助け、悪を挫く。

そんな人だった」

「……だった?」

「そう、「だった」のだ。

実力主義である、この国に来れば女性に事欠かなかった。実際に「この(ザクリケル)に行って一旗あげるぜ」と私と二人で夢見て鼻息を荒くしたものだ。

なのに学校で会った、たった一人の女性に奴は一目惚れしてね。

「俺の愛はカルタロセにある!」とか言って卒業と同時に、その女性と共にカルタロセに行った。

非常に面倒だった。

私に会う度に、彼女と目が会ったとかなんとかと惚気ばかりで辟易していた」


「…………、」

「そのあとは、あのザクリケルとカルタロセの隣にある「ズミューレーリ」との戦争のときに会ったきりだな」

「…………、」


「ミルくん、カルスは元気かな」

「今は分かりませんが、宮廷騎士団に所属していると聞いています」

「そうか。よかった、カルスの実力を分かってくれる者がいたか。

よかった。本当に良かった」


 おっさんは目頭を抑えた。


 このおっさんに母さんの現状を言ったら、どう思うだろうか。

 そしてその母さんを壊した野郎が、カルタロセの騎士だと知ったら。


 教えるわけがない。


「ところで、ミルくん。君は幾つだね」

「僕はそろそろ七歳ですね」

「七歳だと……?

どこの道を通ってここへ?」


「アリナにも教えましたが、あの岩山です」

「森人系魔族を連れてかね」


「ええ」

「……いや、カルスの子だ。彼の子なら破天荒なことも頷ける」


 頷けるほど、父は何をやったんだろうか。

 気になるばかり。

 そして。


「何故、旅を」

 思わず、おっさんの顔を睨む。

「…………、」


「……言えないことか」

「…………村を、追い出されただけだ」

「……何故、追い出された」


「……………………僕が、…………『魔王』だから……だ」

「ミルくん、……君の母は止めなかったのか。君が出ることを」


 今、このおっさんの頭の中の母さんの像は、子どもを捨てる悪人という像になっていると思われる。

 それは、俺にとっても父さんにとっても悪いことだ。

 少なくとも母さんと姉さんの為にも、俺は出ていかなければいけなかった。


 姉さんには言ってある。

 母さんはあんな状態だった。

 俺が直接言っても逆効果だ。


「勘違いしないで欲しい。僕が出て行ったのは、母さんと姉さんに迷惑が掛かるから自主的に出た。

それ以上でもそれ以下でもない。だから、母さんに失礼な想像は止めて貰いたい」


「そうだな、済まなかった。奴が愛した女性だ。

そんな間違いなどあるわけがない」


 で、おっさんに「他に聞きたいことは?」と聞いてみたところ、「『魔王』であれば盗賊は瞬殺出来るであろう。だが、その道の本職である我が私設騎士団相手にミルくんは、何秒保つかね」と真面目に答えていいのか悩む質問をぶつけられた。


 まじめに答えれば五秒未満だ。

 通常起動の『神剣』か『焼灼の槍』、『太陽』辺りをぶつければ一瞬で熔ける。

 攻性魔法陣でもぶつければそれ以下だ。

 簡易起動でも十分に全滅させることが出来る。


「……真面目に答えていいのですか?

それともふざけて答えたほうがいいですか?」

「…………、」


 若干半キレしているようだ。

 だから、真面目に答える。


「……魔法の種類、いえ系統によりますね。

まあ、烏合の衆相手なら十秒未満で決着付けます」


「……ほぅ、大きく出たね。

嘘をつくならば、もう少――」


「いいえ、嘘ではないですよ。

試しにお見せしましょうか。罪人とかいらっしゃれば、そいつ相手に軍隊を滅ぼす魔法を一発撃って上げます。

ただ、出来れば今日以外でお願い致します」

「何故だね」


「疲れているが故に。敵地でぶっ倒れたくは――ぐえっ」

 俺が喋っている間に、荷物が俺の首を腕と胸できゅっと締める。

「大丈夫です、ミルさま。わたくしがミルさまを見ておりますので、襲ったりしませんしさせません!」


「我が娘に好かれているな。ミルくん」と、嫉妬された目で見られても困る。

 膨らみかけの胸ってつまり芯は硬いのよね……。

 嬉しいとかそういうのをすっ飛ばして、ただただ痛いわ。




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