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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-ザクリケル-
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脅迫 ★


 屋敷の門もこれまた大きかった。

 自分の語彙(ごい)能力のなさに辟易(へきえき)とするが、マジで大きいとしかいいようがない。

 でっかいといえばいいのか。

 門に連なる石壁に柵がついており、先端には尖った返しがある。

 中々に鋭い。


 インターホンの類がないので、どうしたものかと思えばアリナが笛を吹いた。

 すると閉じられていた門が開く。

 開き方は観音開き。


 アリナが屋敷の敷地内に入ったため、続けて俺とエルリネが入る。

 エルリネはすっぽり忘れているようだが、エルリネの『精神の願望(マインドデザイア)』に魔力を通し、「奴隷です」と暗に言わせる。


 そのまま敷地内に入り、屋敷の中に入るものかと思えば何故か庭へ出た。

 庭と言っても優雅なガーデニングが出来そうな庭ではなく、殺風景な庭。

 具体的に言えば、生前の中高学校にあったような運動場だ。

 これまた、でかいというか広い。


 広さを具体的にいうと、三百メートルトラックと野球練習場に五十メートルプールがすっぽり入るぐらい広い。

 その中に騎士の大群と、リンカニック髭を生やした四十歳ぐらいのおっさんもといオジサマに、十代ぐらいのお兄さんお姉さんがいた。

 どれも当然ながら俺より歳上だ。

 生前よりは年下のお兄さんお姉さんだが。

 

 オジサマの格好は、そういったモノに関して学がないのでよく分からんが、いわゆるフロックコートというやつだろうか?


 うむ、そんなことよりもなんだろうな、この状況。

 全然歓迎されていないな。

 騎士の大群というか、これも軍隊じゃん。

 このおっさん王族か?

 俺の父さんがうっかり働いているんじゃなかろうか。


 疲れてはいるが、エルリネと共に逃げながら辺りを滅ぼす算段をつける。

天空から墜つ焼灼の槍(ツァーリ・ボンバ)』を三十本ぐらい落とせば、この都市(ザクリケルニア)も墜ちるだろう。


 右腕に『十全の理』を仮顕現させておく。


 アリナが直立し声を荒げる。

「アリナ・フォーケル、ただいま戻りました!」

 アリナの報告にオジサマが頷き、そして。

「アリナ・フォーケル! ほかの騎士二名と、我が息子アクレートがいないようだがどこへ行った!」


 うわぁ、この場で弾劾(きく)か。

 どう返すんだ。

 少なからずオジサマの後ろに控えてる軍隊に、殺気が篭もり始めるのを感じる。

 

 騎士はともかくアクレートとやらは俺が焼殺した。

 これは、俺が答えるべきか?

 咄嗟に魔王系魔法を使えるように、身構えると背中の令嬢サマが俺にぼそっと「大丈夫ですよ」と呟く。


 信用していないわけではないが、もしもがある。

電磁衝撃(エレクトリックショッカー)」の準備をする。

 雷球のようなものが、俺の周りを回り始める。

 空間がバチバチッと帯電し、壊れたラジオのようなジジジといった音もする。

 

 大きな音は出ていないので、離れているアリナとオジサマにはこの帯電の音は聞こえないだろう。

 背中にいる、令嬢サマには非常に五月蝿いだろうが。

 

 令嬢サマがパンパンと肩を叩いている。

 きっと不満をぶつけているのだろうが、こちらも戦闘になるなら先手必勝が必要だ。

 空間を帯電させたまま、ことの成り行きを見守る。


 俺の心配をよそに、アリナはきっちりと事実を述べていた。

 曰く、盗賊が襲ってきたため、応戦したが騎士二名は殉職したということだ。


 その事実に対して、軍隊の殺意が一気に膨れ上がる。

 それに呼応し、こちらの雷球の数も増える。

 現状、連鎖数がヤバくなっている。

 この状態で、「電磁衝撃」を起動すれば全員に四、五回は確実に連鎖する。

 つまり四、五回殺す。

 多く当たれば……、二十回は殺すだろう。

 当たれば、電磁レンジでチン状態な訳だから、まあ"普通"は一連鎖で十分なんだけども。


 令嬢サマの俺の肩を叩く力が弱まっていき、パンパンからぽすぽすになった。

 諦めたのだろう。

 まあ、強く殴るとうっかり起動するかもれないからね。

 それだけは避けて欲しいところ。


「二名も殉職したか。

では何故、貴様が生きている。貴様はあの二名よりも実力が無いはずだが!?」


「…………、」

「何故、答えぬ!」


「……そ、それは。アクレートさまが、私に凶刃を振り下ろし、そのあとは……」

「まさか、貴様。職務中に気絶したのか!

なんという愚図。しかも気絶した理由を、我が息子の所為にするとは!

見果てた愚図だな」

 

 あらららら。

 他人がいる中で、弾劾するのは拙い手だな。

 恥のメーターが振り切って、アリナ自殺するんじゃね。

 

 そんな中「待ってください」と後ろの令嬢サマが声を上げる。

「お嬢様、これは――」

「いいのです。お父様、このような姿で失礼致します。

……アリナが言っていることは事実(ほんとう)です。

アリナが、兄上いえアクレートが肩を切りつけただけで、気絶したところを見ました。

そのあとは、申し訳ございません……。わたくしも気絶しましたので、わかりません……」


 まあ事実だわな。

 そして漸くオジサマが俺に気づく。

「貴様。何故、我が娘を背負(せお)っている」

「ええ、なんででしょうね。

本当に降りて頂きたいのですが、ねえ降りてください」


 いやいやと首を振る令嬢サマ。

 いやいや、じゃねぇよ。いい加減降りろや。

 試しに両腕を離すが、俺の首にしっかり捕まっており極まっているので、諦めておんぶする。

「……こういう状態なんです。助けてください」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「貴様、部外者である筈だが何故いる」

「ああ、一応部外者ではないですよ」

「……何?」


「背中の彼女がとっ捕まって、ヤられそうだったのを助けたのは僕ですし」

 一応目上の人が相手なので"僕"と言っておく。

「ほう、嘘も大概にしたまえよ少年。騎士が二名とおまけが一名でどうにもならなかった、盗賊の集団を貴様が全滅させたのか?

分かり易い嘘をつくな貴様!」


「申し訳ございません。事実なもので。事実を曲げることは出来ません」

「……言ったな貴様。ほかにも嘘を言っているだろう。

ほら、続けたまえ」


 いちいち(しゃく)に触るが、まあ息子の所為で娘が捕まえられそうになり、その息子が死んだと言われれば、そらこうなるわ。


「ええ、では続けさせて頂きます。僕が、盗賊の親玉とその取り巻きと貴殿(きでん)の息子様以外を殺戮しました。

その後、アリナが目覚めたので親玉をお尋問(たずねし)たところ、貴殿の息子様が背中の彼女を襲い、アリナを斬った短剣で彼女の首が掻き切られました。

咄嗟だったので、貴殿の息子様は僕が焼殺させ、彼女に回復魔法を使い、一先ず傷を直しております。

一応、失った血は少なくは無かったので、このように背負っております」


「……無実の罪で我が息子を殺したのではないのかね」

「いいえ、それはないですね」

「なぜ、そう言い切れる。貴様とアリナが口裏を――」

「ああ、根拠はこれですね」


 と、例の契約書類を見せる。

 遠くからでは、まず見えないだろうが察しはつくだろう。

 この場面で出た書類。

「……まさか…………」

「ええ、そのまさかですね。どのまさか……かは存じませんが」


 それに。

「そう聞かれると思いまして、親玉のほうは生かしておきました。ただ、アリナが城門兵に引き渡しておりましたので、それ以降は知りません。

今頃、死んでいるかもしれませんね」

 

 オジサマの後ろの軍隊にどよめきが生じていた。

「治安班! 今直ぐに城門兵の元へ行け! 事実かどうか確かめよ!」とオジサマが号令を出し、軍隊の内数十名が蜘蛛の子を散らすように即座に散った。

 城門兵の元へ行ったのだろう。

 ご苦労なことだ。


「して、貴様はその盗賊の大群を殺戮し壊滅させたと言ったが、それは事実か」

「事実でなければ、この場にいないはずですが」

「貴様も共謀者(きょうぼうしゃ)という可能性もある。山分けが気に食わなくて、仲間を売ったとかな」

「…………、喧嘩売ってるのであれば、買いますよ」

 と、喧嘩を買うことを前面に出す。


 普通なら、こんな得体のしれない奴に喧嘩は……、

「ほう、……全員突撃準備!」

 売るバカでした。

 軍隊の全員が盾と槍を構える。


 対して、俺は背中の荷物を抱えながら構える。

 使う魔法は「電磁衝撃」と「天空から墜つ焼灼の槍」。

 首が極まっており非常に苦しい。

 だが、これを使って脅迫しないと普通に畳み掛けられる。


「天空から墜つ焼灼の槍」を待機させる。

 意思を以って、拳を握れば起動する。

 右手に火属性特有の赤いオーラが現れ纏いつく。

 雷球の方も今か今かと待ちくたびれているようだ。


 明らかな異様な光景なんだろうか。

 突撃準備と言い出してから、動きがない。

 今の俺は多分、全体的に炎の朱と紫電の紫のオーラを纏っている筈だ。

 

 これに突っ込むのは、本格的にバカしかいない。

……「電磁衝撃」じゃなくて脅しとしては一級品の「神剣」にしようかな。


 一応、煽っておくかとばかりに。

「突撃準備と言ってから、動きがないが殺る気あんの? こっちは準備出来ているんだけど」


 それに対してオジサマは、微かに笑った。

「……済まない。我々の負けだ。気を悪くしたのであれば謝罪しよう。

……総員、武装解除!」


 そうは言っているが、まだこちらの構えは解かない。

 一旦壊滅させたほうが良さそうだ。

 第一謝罪云々より、お前のその態度がムカつく。


「……「電磁衝撃」"解除"」

 俺の周りを回っていた雷球が消えていく。

 代わりに現れたのは、「神剣」が発生する際の雷雲。

 墨を零したかのような、黒い雲。

 雨が降りだした。

 大粒の雨だ。


 オジサマと後ろの騎士たちが、先ほどとは違った意味のどよめきが起きた。

 おおかた、この異常現象についてだろう。

 雷鳴が轟く。

 別に「神剣」は詠唱していないし、使うつもりもない。

 もちろん、「神剣」の簡易起動である「雷槌」も使っていない。

 使ったのは。


「舞え、空よ。雨よ、降れ。この地に汝の恵みを。『天竜、雷風の咆哮(スーパーマルチセルクラスター)』」

 素撃ちするとその名の通り、強く叩き付ける竜巻のような風と、雨と雹に雷が常に落ち続ける。

 漢字名称的に『天雷、裁終の神剣』のような語呂だが、れっきとした魔法陣だ。

 系統は風……ではなく、水。

 ただ、水というよりも雷のほうが近い。


 こいつの階級としては『天地動の言霊(サテライトオービット)』よりは低くとも、同じ特級クラスに位置する。

 効果自体は、既存の『竜風衝墜(フィアード・テンペズム)』の複合だが範囲が非常に広い。

 具体的に言えば、もし通常駆動ができればこの都市(ザクリケルニア)を覆う。


 最低駆動ですら、使うにも体力と出力が必要だが、旅することで体力がついて特級クラスの最低駆動且つ片鱗を見せることぐらいは出来るようになった。

 この調子でいけば、きっと自分の中の最強に位置する魔法陣五つを、成人した頃にお目見え出来そうで、ちょっとワクワクする。


 とにかくそんな危険極まりないものを、あくまで超常現象を起こす力があるという脅しとして使う。


「……少年、貴様何者だ」

「……衆目あるところで、言う阿呆がいると思うか」


「……少年、貴様の名は」

「…………ミリエトラル。ミリエトラル・フロリア」


 その名を伝えたとき、オジサマの目が驚愕のためか見開かれた。

――見開いた目ってこんなにキモいのか。

 などと、益体もないことを漫然と考える。

 

「貴様……貴様の母の名前は……」

「……なんで母さんが出てくんだ」


「……まさかだが、貴様の母はアリア……か?」

 なんで、知ってんだコイツ。

「……、」

「父はカルス……か?」


「……そうだけど?」

「…………そうか。大変失礼した」

 と、頭を下げられた。


 この光景に俺は当然のこと、アリナと後ろの軍隊が固まった。

 きっと俺の背中の荷物も固まっただろう。

 一家の当主が、得体も知れない根無し草、それも七歳相手に頭を下げるとか普通にあり得ない。


 俺の黒歴史ノートによって作られた父親の設定は、非常にチートのようだった。

 そんな設定作った覚えはないんだけどな、という注釈はつくが。


 アリナに「どうしよう?」と視線を送るが気付いてくれなかった。



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