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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-ザクリケル-
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田舎者



 女の子、いや令嬢サマをおんぶしながらも入り口に着く。

 デカい入り口だ。

 まさにファンタジー系の城門だ。

 城門の扉は切り倒した数十本の樹木を棒状にして、板状に組んだようでそれぞれ一本一本の色が違う。

 高さは体感十メートル程度だろうか。


 城壁の煉瓦状の岩も、先ほど歩いていたときは気にしていなかったが、一つ一つが丁寧に切りだされたものらしく、とても素晴らしい出来であった。

 これでよくある魔法や衝撃に強い煉瓦だったら、スゲー金掛かってるなーとか思う。


「うわ、俺の頭よりこの大きい!」

 こんな岩でぶん殴られたら、間違いなく死ぬね。

「私の頭より更に大きいですよ、ご主人様」とエルリネが呟くが、エルリネは比較的小顔だ。

 

 そんな俺達のはしゃぎっぷりに、アリナはこめかみに手を当てて「田舎者どもめ」とか(けな)されたが、事実なので黙っておく。


「いやいや……、なんというか中々見事なものだな。これは」

 アリナの呟きが聞こえないかのように、率直な感想を漏らす。

 すると、背中に令嬢サマが「そうでしょう?」と返してきた。


「俺は田舎者だからね。こういった立派な物は本当に見たことがない。

でも、見事なものを見事と述べる感性ぐらいは持っているつもりだ」


「ごめんなさい、アリナが不躾なことを述べて。わたくしの方から謝らせ――」


「いや、田舎者には違いないから、別にいいよ。

厭味(いやみ)っぽく聞こえたのなら、俺が謝るよ。

ごめん」


「いえ……、ところで田舎者とおっしゃいましたが、どちらから?」


「あぁ……、実は……か、カルタロセから……」

 不法入国している手前、非常に言い難い。


「隣国ですね。……え? どうやってですか!

ここ、『ザクリケルニア』と国境関門まで非常に遠いのですよ?!」


「……あ、そうなの。やっぱり」


 俺が通ってきたルートはあの森ルートだ。

 関門など当然通っていない。

 うーん、ヤバい。


 アリナから剣を抜いたような音がする。

 脂汗が流れる。

前衛要塞(フォートレス・ヴァンガード)』の最低駆動はしているので、ちょっとやそっと程度の剣戟は、普通に耐えるが背中の令嬢が危ない。


 背中の令嬢サマが俺に聞く。

「……どうやって、この都市(まち)へ?」

「あー……、うん。あっちの岩山から森を通ってかな……?」

 そういって、指で岩山の方向を指し示す。


「岩山だと?!」とアリナが叫び、令嬢サマは息を呑む。

「え、えーと。何か」マズいことでも言いました? と背中の令嬢サマに聞くと、代わりにアリナが解説する。


「岩山からということは、我が国の森と貴様の国の深い森を踏破(とうは)したということだ!

それにあの岩山は、周辺から魔素を奪う"魔の山"と恐れられている山だぞ。それを魔族と共に、踏破するなど聞いたことがない!」


「あー……、でも実際にここにいますし」

 というか、"魔素を奪う山"かエルリネの高山病は、酸素欠乏症ではなく魔力欠乏症だったのか。

『魔力で動く人形と揶揄される魔族』であるなら、あの山は危険だったのだろうな。


 人がいる集落というものを、俺はあの村でしか知らないから、"魔の山"なんてことは知らなかったからな。

 あそこの岩山を通らないという、選択枝はなかった。

 まぁ、エルリネはともかく俺はピンピンしてここにいるわけだし、あそこはもう通らないってことで良しとしよう。


「貴様のような、年齢のものが森を抜けれるとは――」

「いやあ、今のところ旅の八割は森の中なので、寧ろ森の中のほうが好きですね」

 うん、やっぱり森の中にいるのが主な奴はいないらしい。

 森人に「森人種になって欲しい」的なことを言われたのは伊達じゃない。


「貴様、……何者だ?」

 その質問はご(もっと)もだとおもう。


「ただの、魔法使いです。大量殺戮(たいりょうさつりく)が出来る……いえ、『しか』出来ない魔法使いです。

森の中も基本的に俺が殺戮してきましたので、エルリネは俺の生活面でお世話になっている者です。

なので彼女を迫害(はくがい)とかなんとかすると……わかりますよね?」


「大量殺戮……、貴様カルタロセでその力を出そうとか思わなかったのか」

「……カルタロセは合わなかった、それだけです」


 俺はアリナと目を合わせる。

 アリナも俺と目を合わせる。

 火花が散っているようだ。


 その姿に背中の令嬢サマが、恐怖を覚えたのか心なしか震える腕でぎゅうっと俺の首にまわしている腕を狭めた。


 そして、俺の耳許で「だから、あの時『魔王』と言ったのですね」と息を吹きかけるように呟かれた。

 エルリネの耳掃除で未だ敏感になっている耳だ。

 ぞわぞわっと鳥肌が立つ。


 その様子にアリナは疑問符を浮かべているような顔をしていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アリナと俺の睨み合いを続けていては、日中も夜半になってしまうと背中の令嬢サマがぶう垂れたので、お互い無言で城門に着く。


 アリナが城門兵に二言三言を話して、書類を書いている。

 何を書いているか分からんが、俺とエルリネにとって毒にならないことを祈る。

 ちなみに、この時に運搬一輪車を城門兵に渡していた。

 まともな裁判があるかどうか分からんが、この『ザクリケルニア』の貴族を襲ったのだ。


 今後、まともな人生は今後歩めないだろう。

 元々、まともじゃないが。


 無事? にノー審査で第二級都市『ザクリケルニア』に入れたので、無理におんぶをしている必要がなくなった。

 なので「そろそろ一人で立てるだろう?」と背中の令嬢サマに聞いてみたが「まだ」と簡潔に答えられた。

 膨らみ始めたであろう彼女の胸が、歩く(ごと)に潰れて中々アブないので、ぶっちゃけ立って欲しい。

 が、そんなことは当然言えないので、『無思無想(むしむそう)』でザクリケルニア内の道を歩む。


――「心頭滅却すれば火もまた涼し」は良い言葉だ。



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