『属性回復魔法』
とりあえずおっさんを促せば、出るわ出るわ下種ネタ。
曰く、そこで気絶している女の子がとにかく邪魔なんなのかで、消えて欲しいからおっさんと契約したようだ。
その際の契約書を改めさせて貰った。
ガキの名前が分からんし読めないので嘘か誠か判断付かないが、アリナという騎士がその名前を見て泣き始めたから、多分事実だろう。
契約書類に書いてあったお金の額もよく分からんが、普通に高額らしい。
――よくわからん。
で、当然ながらこの契約書類を盾に更に強請るつもりだったようだ。
アリナが更に泣いた。
二人で出かける日があるからと、事前に通告されそして襲い、今に至るという。
アリナは大泣きしていた。
そりゃそうだろう。
保護対象だと思っていたら、裏切られて職場の友人やらが殺されたのだ。
これには怒りを覚える。
アリナには最早、立ち上がる気力も無いようで大泣きしていた。
「おい、立てよ。殺すぞあのガキを」と、言っても泣くだけで話が進まない。
ガキの『世界』を解除し、ワクワクしながら言い分を聞こうとしたところ、脱兎のごとく走り、気絶していた女の子の首元に短剣を当てた。
予測はある程度していたが、まさか本当にやるとは。
で、口から出てきた言葉は、お国柄的な話だった。
要は、一夫多妻制の正当化だった。
実力主義の国であるが故に、力があれば男は女を何人も囲っていい。
囲えるなら、十人でも百人でもいい。
対して女は子を為すのが本能ならば、何人も囲われている女の内の一人になれば自身の繁栄に繋がるから、囲われることを推奨しているという。
自立する女などはこの国には要らないということらしい。
よく分からんが、何故これをこの場で言うのかと聞けば、自分が刃を圧し当てている女の子、いや妹は穢らわしい魔族で且つ腹違いだという。
最初は彼女を守るために、一夫多妻の正室に迎えようとしたようだが、尽く拒絶され、最終的には自分のものにならないなら「殺してやる」と考えたようだった。
うん、中々に下種い。
しかも、最近になって隣国「カルタロセ」が編み出したという封印処置を妹にかければ、恐れを為して自分に靡いてくれると甘く考えたようだった。
下種すぎて吐き気がする。
っていうか、封印魔法って最近の話かよ。
エルリネをちらっと見ると、超真顔で普通に怖い。
まぁ魔族だし、封印魔法について軽く考えてる輩を見ると怒り狂いたくなるんだろうな。
――まてよ? 封印魔法は『カルタロセ』の技術。それでカルタロセから魔族がいなくなった。
では、今まで『ザクリケル』にその技術は元々無かったが、このガキがその技術を知ったってことはこの国に、その技術が入ってきたということだ。
これの意味することは、たった一つ。
「この国も魔族徴収に汚染される危険がある、ということか」
俺の発言に目の前のガキからは、胡散臭そうな目で見られる。
自分が軽く言った技術の危険性をこいつは知らないのか。
「なにを意味が分からないことを言っているんだ! 早く跪けよぉお!」
うざったく喚き散らしている。
とりあえず、殺すことは確定している。
だが、どうするか。
ドでかい魔法を使ったら、間違いなく妹のほうを巻き込む。
だが、ドでかい魔法以外持っていない。
『 吸襲風吼 ( フロギストン・エアー ) 』先生に頼むか?
いや、母さんのときの牛とは身体のサイズが違う。
そこで、閃いた。
いいものがあった。
『闇夜の影渡』で近づいて直近から『魔力装填:乱気流』を叩き込む。
――これだ。これしかない。
ということで、『闇夜の影渡』で風景に溶け込もうとした瞬間。
妹さんが気絶から起きた。
そして首元に置かれた短剣を見て、一瞬で恐慌状態に陥った。
そして暴れた結果、首から血の珠が現れ、数瞬後血が噴き出る。
その一瞬の隙を突き、彼女に向かって走る。
魔力装填したものは、乱気流ではなく、「瞬炎」と「赤熱の刃」の二つ。
瞬炎はその名の通り、一瞬で体内入り内部から炎を吹きあげ灰にする魔法だ。
魔力装填で「瞬炎」をセットすると、指などが死神の指のようになり、触れば相手を確実に焼殺する。
その焼殺する指をガキの左肩に触れさせる。
その数瞬後、内部から炎が吹き荒れる……。
かとおもいきや、一瞬にして焼殺した。
断末魔などあげさせない。
声を上げるための声帯を一瞬で焼ききったついでに体内も焼ききる。
最後は、水分の塊である、目がパンと弾けた。
……インシネレートがここまで極悪とは。
余りの凶悪さにぶるっと身震いするが、固まっている暇は無い。
「赤熱の刃」を纏った手で妹さんの首を抑える。
火傷が生じるが、傷口を焼くだけだ。
白磁のような首元が、噴き上げた血と火傷で赤く染まる。
顔が青ざめている妹さん。
「おい、脳筋騎士。この娘の潜在属性はなんだ!?」
「な、なぜそんなことを今聞くんだ?!」
「必要じゃなければ、聞かねえよこのタコ! 早く言え!」
「こ、この方は――」
「わたくしは、その『地属性』です」と、白磁の首筋の妹さんが消え入りそうな声音で、俺に教えてくれた。
青白い顔で、何故か諦めた顔で俺を見ている。
死を覚悟しているような顔だ。
やはり姉さんと面影がダブる。
「……『地属性』か。分かったありがとう」
そういって属性回復魔法を使う。
俺の腕から、彼女の首筋をへと緑色の優しい光が覆う。
地属性らしく、彼女の首の傷口に泥が覆われ始める。
――魔族混じりに、潜在属性に合った属性回復魔法を使ったことがなかったが、こんな現象が起きるのか。
少々感動である。
アリナは、この子の首に起きている現象に心と目を奪われているようだ。
そして泥が彼女の首筋だけではなく、首全体を覆い乾いていった。
乾いた泥が、手を触れるまでもなくパキパキパラパラと剥がれ落ち、そこにあったのは切る前よりも綺麗になった、首筋だった。
――泥パックかよ。
などと益体もないことを考える。
妹さんに「そんな覚悟を決めた顔しなくていいから」と言って、起き上がるように言うも、起き上がらなかった。
何故かと問えば、腰が抜けたとのことだった。
傷を塞いだとはいえ、血がびゅわーと出ていたのだ。
血が足りなくて目眩もしているだろう。
仕方がないということで、アリナに頼んで妹さんを背負うように言えば、妹さんのほうから、俺に背負われたいと言ってきた。
俺より、大人が背負うべきだと思うと苦言を呈せば、見れば俺とエルリネはいかにもな旅人だ。
旅人が街に入るには色々面倒な審査があるという。
例え、貴族でも王族でも街の外から来た者であれば審査をパスせねばならない。
だが、彼女たちはそれを素通りすることが出来るという。
確かにくそ面倒な審査に時間を取られるのはキツい。
正直、寝たい。
素通りは非常に魅力的だが、そんなものをしたら審査官に大変失礼だろう、っていうことを言ってみれば、「わたくしたち、一族はみな素通りです」とのこと。
俺が背負わなくてもいいじゃん? と聞いてみれば、「馬車で行ったのに壊されました。壊されました」と大事なことなので二回言いましたとばかりに強調された。
更には、「貴方に背負われていれば壊れたという理由付けになります。あと素通りの理由にもなります」と返される。
エルリネに背負わせようかと言えば「男の人の甲斐性で奴隷さんがいるということはよく聞いております。その奴隷に、貴族の女性を背負わせるのはどうかなと思います」とまた返される。
というかエルリネさん、"奴隷"って言葉に反応して嬉しそうに耳をピコピコしないでください。
これ以上、押し問答をしていても仕方がない。
彼女の前に背中を差し出す。
腰が抜けて立てないはずなのに、彼女はその背中に抱きつく。
深くは考えないで俺は立ち上がり、彼女の両足をそれぞれ脇に抱える。
首に腕を回してくれた。
これでまあ安定するだろう。
そして後ろに振り向いたときには、既に盗賊の親玉とその側近は逃げ出していた。
死地から抜けだして今頃は多分幸せを噛み締めているんだろう。
――そうはさせるか、馬鹿め。
「視認」を使用し、盗賊の親玉と側近にピントを合わせると、同時に『蠱毒街都』を最低駆動で起動する。
足元に奇妙な文字配列と魔力線で描かれた幾何学模様の紫色の魔法陣が現れる。
その異常さに、背負われている彼女から息が漏れるような音がした。
右腕を駆けて行くおっさんへ向け、「麻痺の腕」を起動する。
おっさんの足元から、黄色い煙が勢いよく噴射される。
致死性のない麻痺いや、致死性のない筋弛緩毒というべきか。
半日ほど、身体の手足が動かなくなる程度の毒だ。
十分劇毒だが、致死性はない。
おっさんとその側近が直ぐにぶっ倒れた。
その姿に満足したところで、アリナに盗賊逃げたから連れ戻してこいと伝える。
アリナはぶつくさ文句を言っていたが、こっちは背負っているし相方は勘違いさせているとはいえ一応奴隷の枠組みだ。
どうみても、アリナ以外適任がいない。
アリナを行かせる前に、馬車のようなものだったものを分解して、運び一輪車を作る。
そこにおっさんらを投げ入れるように言って、向かわせる。
あとは入り口へ向かうだけだ。




