『砂鉄の剣』 II
砂鉄で作られた蛇は凄かった。
まず、槍で突かれようが実体が無いものなので刺されても死なない。
そもそも砂鉄が高速で流動しているため、刺した瞬間に穂先が砂鉄で削り折る。
剣で切り裂こうとしても同様で、削り折れなくても直ぐ様、所持者に向かって身体を振るため、高速流動された砂鉄によって身体を削ぎ落とされる。
剣であれば綺麗な断面をするのだろうが、こちらは電動ノコギリで斬ったような傷だ。
ギザギザで回復魔法などでは、綺麗にくっつけることが出来ない。
更に傷口に砂鉄という不純物が混じるため、衛生面にもダメージを与える。
更に効果音もエグい。
剣であれば、スパッとヒュンとか音がするもんだが、こっちの"砂鉄の剣"は金属、皮鎧別け隔てなく、ズパンッと切断する音がする。
血飛沫と血煙が舞う。
逃げ惑う有象無象の盗賊たち。
悲鳴と怒号。
神に祈る声。
祈るような目で、親玉らしきおっさんに「助けてくれ、謝るから『魔王』様」と言いたそうな目で見つめられる。
俺はおっさんに見つめられて喜ぶような、究極的な生命体じゃない。
俺はお姉さん系に見つめられたい。
そう、村にいる肉食系クーデレの姉さんみたいな人に!
だが、まあやり過ぎただろう。
「俺も鬼じゃない」と呟くと、おっさんと盗賊どもの顔が晴れた。
「だから……、」といって左手を上げる。
"砂鉄の剣"の蛇がさらっと地に崩れ落ちる。
小さいながらも生き残っている盗賊どもに聞こえる声で
「……二匹追加だ」と呟きながら左手の拳を握りながら込める。
先日精製された魔力を。
そして現れたのは、二匹の砂鉄で出来た大蛇。
一匹の砂鉄の蛇を召喚して、嬲り殺しなどやり過ぎだ。
いわゆる、非人道的すぎるのだ。
殺すなら愉しむのではなくて、一思いにぐさっとやる。
……この蛇でけぇ。
デカすぎる。
鎌首の高さが七メートル強。
先ほどの"蛇"の鎌首が三メートルにも満たない程度だったのに、ちょっとだけ精製された魔力を流しこんだらこれである。
この大蛇を暴れさせる。
盗賊どもの絶望した顔が心地よい。
「助けてくれるんじゃなかったのか――」と叫びながら、大蛇に圧し潰され血煙を上げるものが複数人いたが、「別に助けてやる」なんてことは一言も言っていない。
大蛇の腹に圧し潰される度に、ズパンッズパンッという音が、聞こえる。
……うむ、この状況を作ったとはいえ中々酷い、陰惨な現場だわ。
と独りごちる。
この場に残るのは、おろし金で強引に削られたように血肉が地面にこびりつき、内臓なども削りきっている。
骨などの硬いものまで同様だ。
狼とか熊とか野生動物では、絶対にあり得ない現象だ。
辺り一面に血煙が舞っており、非常に血腥い。
吐きそう。
いや、吐きたい。
オエッといきたい。
そんな中、仕組んだと思われる男の子と親玉とその側近っぽいのだけ残して"戻れ"と大蛇に命令する。
すると俺の意思に反せずに大蛇達が、俺の傍に寄ってきた。
まさに「この方は私の主です」と言いたげに大蛇たちが、親玉らに蛇特有の威嚇をする。
顔など無いはずなのに二匹ともに、顔の先端が顎のように上下に開き、内部からジリジリと砂鉄ではなく、鉄などの金属が擦り合わされるような音がする。
「"戻れ"」と言って大蛇たちを砂鉄に戻す。
盗賊と男の子の顔に安堵した顔が広がるが、まだ殺戮は終わっていない。
なあなあで済ますほど、俺は人間が出来ていない。
ご都合主義な主人公になりたいところだが、俺の周りはそんなことさせてくれない。
だから仕方がない。
盗賊の親玉に「で、『魔王』として力振るってみたけど?」と聞いてみた。
返ってきた答えは無言。
無言なので、ちょっと脅しかけてみる。
攻性魔法「隆起する大地」を親玉の顔目掛けて使用する。
ボゴンッと音がし、地面の土で出来た槍が、音速かと見まごうばかりの早さで生成される。
勿論貫きはしない。
あくまで脅しだ。
ちなみに作った槍の形状は、矢の先のような返しがついたものだ。
ビタンっと親玉の鼻頭に、槍が当たったところで停止する。
おっさんの鼻頭から、血が垂れ、失禁した。
女の子の失禁ならまだしも、おっさんのとか非常に汚らわしい。
俺が壊した馬車らしきものの残骸に座る。
座るまでの間、おっさんたちは無言だった。
俺が座ってからなんでこんなことしたの? と彼らに、罪を告白するように促す。
それでも、だんまりであった。
男の子は泣いていた。
虐殺を開始する前までのあの酷薄そうな笑みはどこへやら。
こいつの体格を見ていると紐で縛ったボンレスハムを思い出す。
ドラム缶のような寸胴さに服が紐のように食い込んでいる。
一年ほど野生児していたからなのか、この男の子を見ていると焼いて食したくなる。
食したくなる気持ちを抑えながら、代わりに俺が酷薄そうな笑みを浮かべてあげる。
と、ニッコリ嗤って上げていると、馬車らしきものの残骸の傍で昏倒していた、騎士の目が覚めたようで、身体がピクリと動く。
そして騎士が、持っていた剣を持ち一思いに抜いて、固まった。
そりゃあそうだろう。
自分たちを覆い囲んでいた盗賊が、全滅しているのだ。
そして目の前には盗賊の親玉と、自分を切りつけた男の子がいるのだ。
いつまで経っても、こちらを向かないので声を掛ける。
「やあ、騎士さんおはよう」
すると、騎士は俺の顔を見てまた固まった。
固まり過ぎである。
そんなに全滅させるのが、珍しいことかな。
話が進まないので、俺の方から騎士に聞く。
「守るべき対象から、刺された場合はどうするんだね」
それに対し、騎士は「いや、勿論裏切り行為だから場合によっては殺すが……」
「じゃあ、殺そっか。そいつ」
「…………え?」
「騎士さんを斬りつけたのそいつだよ。
それとも助命する? 個人的には殺したほうが後腐れないけど」
そう、騎士さんに現在の状況を話しながら、あの男の子の処遇についても問うてみたら、「違う! ぼくは騙されたんだ!」と男の子が悲鳴を上げる。
騙された……? という割には結構ノリノリだったと思うんだが、まぁいいや決めるのはこの騎士だ。
ことの成り行きを見守る。
騎士も無言で男の子を見る。
「このおじさんが、アリナを切れば助けてやるって!」
「はぁ?!」と面食らったのは親玉だ。
……俺も正直面を食らう。
なにせ、自分からこのアリナという騎士を斬ったのだ。
唆されたタイミングがない。
あまりの出来事に開いた口が塞がらず、思わず無言。
その無言が信用されかかっていると勘違いしたのか、さらに畳み掛ける。
「助けてよ、アリナ。本当なんだ。
うわあああ、おじさんに殺されちゃうよぉ助けてよアリナあぁ」
アリナとかいう騎士は半分信じている。
どこかのタイミングで唆されたのだとしても、無理矢理すぎる。
「すまない、少年助け――」てほしいと、俺にアリナという騎士が口を開くが、それを手のひらを向けて制す。
「おい、おっさん。
どうせ死ぬんだ。
洗い浚い喋れ。
喋らなきゃ、このガキだけ生き残るぞ」
どうだ? と言葉と視線で促す。
それについてアリナという騎士が激昂したのか「貴様!」と凄むが、今まで気絶していた奴に凄まれても怖くもない。
気絶していたアリナを煽る。
「おやおや今まで気絶していた使えない奴が、キャンキャンと泣き喚いてまぁ。
……悪いが、悪人に人権は無いと考えている者でね」
「…………なに? 人権などないなら、喋らせるなそこの男を!」
「いやあ、客観的にみればね。そこのガキも悪人だよ……?
唆す、タイミングってどこにあるのかね、脳筋騎士さま」
「……貴様ァ」
「いやいや、考えてみようか。盗賊に追いかけられていたアンタら。
囲まれた馬車から出てくるアンタら脳筋騎士さま。
……後ろから出てきたそこのガキとそこで寝ている女の子。
ほぅら、どこで唆される時機がある」
「…………、」
「俺の予測を上げてやろうか、脳筋。
どこかでそのガキは、この汚えおっさんと繋がってたんだよ。
大方、金いや、それ以上の何かかな。
ガキだからなぁ。
母さんの愛情とか自分より年上の兄とかに唆されたか、それともそこで気絶している女の子が消えて欲しいとか、そういう感じかねぇ。
ま、知らないけど、
その上で助命して欲しいのか、ん?」
「ふざけるな! ぼくはそんな下劣な人間じゃ――」
「じゃあ、どこで唆されたの?」
「ぼくは高貴な人族だ。貴様のような下賎な者に応える義理などない!」
「ふぅん。まあ下賎でもなんでもいいけど。少しは下手に出たら?」
「何故ぼくが下賎な者に下手に出ねばならない。貴様こそ我が声を聞くために跪き、靴を舐めたら考えてやろう!」
……面倒くせえ。
ちょっと余裕が出たらこれか。
第一、こっちはアリナと喋ってたのに、なんでこいつはしゃしゃり出てくるのか。
……ぶっ殺すぞこの野郎。
と、ぴくぴくと青筋を立てていると、後ろから息を切らした状態でエルリネがやってきた。
「ご主人様、早すぎます。
……で、なんですか。この状況」
俺はともかく、助けられた側の騎士が割りと殺気立っていて、やたらと居丈高に居直っている盗賊側。
ぱっと見、よく分からない状況である。
遅れてきた、エルリネに軽く現状を説明すると「ああ、では殺しましょう」と即答してきた。
割りと俺より考える頭を持っているが、変なところで過激なエルリネだった。
「いやいや、まてまて。殺すのは構わないんだが、原因を特定させずに「はい、サヨウナラ、お達者で」じゃ夢見が悪いというか、また襲われるだろうし、また助ける羽目になるかもしれない。
だから、そのうんまあ、原因聞こうよ。ね」
殆ど野次馬根性だったが、それを言わずにご尤もな言い訳をしながら、エルリネを抑えて、おっさんとガキに向き直り促す。
「ほら、理由言えよ。あ、おっさんでもいいよ」
すると、おっさんが喋りだした。
それを、聞いたガキが必死になって、おっさんを黙らせようするが、面倒なのでわざわざ『世界』でガキの世界を閉じる。
俺もエルリネも、最早『世界』の存在には慣れたものだが、初めて見るその魔法に驚きを隠せないようで、口を馬鹿みたいにポカンと開けているアリナとおっさんとその側近たちがいた。




