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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-ザクリケル-
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『砂鉄の剣』 I


 そのとき、エルリネが俺を抱いた。

 いつもの胸の中に入れるような抱き方ではなく、俺の肩に頭を載せて肩を組むように。


「……ご主人様は、人の都合を考えない『魔王』様なのですよね。

それなら、人の都合を考えずに助けに戦いに行って、助けた民のこと考えずに我が道を進んで下さい」

「…………、」


「……ご主人様が人であると知っている私が、民を観ます。

だから、ご主人様がなさりたいことをしてください」


「……俺は見ての通り、化け物だ。

強いんだぞ。国を軽く滅ぼせる人間なんだぞ。

それ相手に『なさりたい』こととか、封じている気持ちを抑えなくなったら――、」


「それでもです。私も強くなります。

ですから、ご主人様がやりたいことをやってください。守りたい、助けたいと思うことがあれば力を振るって下さい。

それに伴う、不安や不満も私が共に悩みます。


……ご主人様は私に契約をくれませんでした。

ですが、あの岩山でも考えたのです。

ご主人様が『魔王』ならば共に悩む者がいれば、運命共同体ではないかなって。


陳腐ですが、一緒に行きましょう。ご主人様」



 そして俺は、立ち上がった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そして俺は飛んでいる。

 別に「飛行(フライ)」とかそういう系の魔法がある訳ではない。

 黒歴史ノートにこんな使い方は考えていなかったものを、今使っている。


 どんなのか。

吸襲風吼(フロギストン・エアー)』の吸引力をハシゴしているだけである。

 先日、「天空から墜つ焦灼の槍(ツァーリ・ボンバ)」使用時に精製した魔力があり、低級駆動程度であれば、連打出来るほどの魔力は溜まっている。


 それを設置点もとい吸引点を瞬間的に作り、吸い込まれたらその先にまた吸引点を作りを繰り返して、一キロメートルほどの距離の空の旅を楽しむ。

 なんて、ことを思った時期がありました。


 楽しめない。

 本当に。

 ドキドキものである。

 そして瞬間的に移動するから、とんとんと階段を登るような吸われ方ではなく、掃除機に吸い込まれたと思ったら、また掃除機に吸い込まれるという空の旅だ。


吸襲風吼(フロギストン・エアー)』には「間違っても、俺を圧縮するなよ?」と言い聞かせた。

 応えは当然返ってこなかったが、多分分かってくれただろう。


 そして喜び勇んで「とぅ!」と樹木から飛び降りて、吸引点を作ればこれである。

 リンクする場所は両足とは、設定したがこれは酷い。


 投げられた槍投げのように足から吸引点に呑まれ、放物線を描く俺。

 ……俺、ちょうかっこわるい。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 盗賊三十人超vs女の子と昏倒した騎士一人の戦場の真上。

 というよりも、成金趣味の馬車の真上に到達。

 降りたいことを『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』に伝えると、吸引点を直下に作りやがった。


 足から急降下する俺。


 生前苦手だった、ジェットコースターより酷い、直角の落ち方である。

 あまりの高度と、手に力を入れ握る掴み棒が無い状態だ。


 更に加速度的に墜ちる速度が早くなる。

 怖すぎて涙がちょちょ切れる。

 気絶したくなる。


 悲鳴を上げる元気も最早無い。

 ……父さん、母さん、姉さん。先立つ不幸をお許し下さい。

 とガチで祈る。


 そして。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 寸分違わず、馬車の上に落ちた。

 勿論足から。


 足が折れたかと思ったが、『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』がご丁寧に、『竜風衝墜(フィアード・テンペズム)』に掛けあって、「衝撃吸収(エアクッション)」を起動してくれたようだ。

 だったら、最初からこんな無茶苦茶なことやるなと言いたいところだが、それを望んだのは間違いなく俺なので黙っておく。


 俺が落ちた衝撃と『竜風衝墜(フィアード・テンペズム)』の射出した風の衝撃によって、馬車が完全に壊れた。

 というよりも粉砕された。

 ……趣味の悪い馬車など存在しなかった! そう、俺は見ていない!

 と自分に対して言い訳をして、盗賊どもを睥睨(へいげい)する。


「誰だ、てめぇ!」と誰何されたが、黙っておく。

 だが、黙っておきたかったが、女の子の顔が恐怖で青ざめる以上にガクガク震えている。

 これ以上、意味が分からない情報を女の子に与えたらいろんな意味で壊れるだろう。

 更に言えば女の子がお漏らししている。


 俺が変態ならウッヒョーと喜ぶだろうが、生憎俺は変態ではない。

 エルリネの薄荷臭の汗にウッヒョーするだけの一般人だ。

 そんなガクガク震えて青ざめている女の子のために、自己紹介。


「俺は『魔王』だ。よろしく」


 俺の発言を聞くや否や、女の子がぶっ倒れた。

 失礼な奴だ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 盗賊の顔が怪訝な顔だ。

 そらそうだろう、出っ端から『魔王』なんて普通は言わない。

 

「『魔王』様がなんのようですかねぇ」と親玉らしきおっさんが、俺に斧を見せながら聞いてくる。


 俺の中の『魔王』像は「魔族の王」とか「魔法王」とかある。

 その異常な立場から考えると……。

 助けに来た『魔王』なんて面白みはと親しみがある。


 だが、もうちょっとドキツいインパクトが欲しいところ。

 あくまで悪役で。

 俺自体はそんなつもりは微塵もないから、言っただけ勝負でいこう。

――よし、理由はこれだ。


「知らないのか?

『魔王』というものは、女が好きだからなァ」と盗賊共にニヤリと嗤う。


 ……いやぁ、俺のキャラじゃない。

 そんな誘拐なんか絶対しないし。

 俺の根性的には一夫一妻制だ。

 まあ現状一夫三妻状態だけど。


 そんな俺の悩みに反して、盗賊たちは刃物を持ち直している。

 当然か、『魔王』らしいところは口で言った程度である。


「おっと、それ以上近付くなよ。死ぬぞ?」

 形だけの警告はしておく。

 これで諦めれてくれればいいんだが。


 それでもお構いなしに近づいてきた盗賊が二匹。

 この力を見せたら、撤退などはさせない。

 殺す。

 その上で一応もう一度言っておく。


「聞こえなかったのか?

死ぬぞ。

言っておくが、この力を見せたら逃さな――」


「へっ、見せてみろやガキ」

「……本当にいいんだな?」

「早くしろよ、ほぅら」

 と、嘲笑う盗賊三十名超。


 エルリネを運んでいたオネーサマパーティでも、そうだったが数が一定以上集まると気持ちも高まって、傲慢になるのはこの世界の特徴なのだろうか。


 手加減する必要もないので、不用意に近づいた盗賊二匹に向け右腕を伸ばし、攻性魔法の「重力(グラビトン)」の五千Gを素出しする。

 一瞬で盗賊二匹の頭頂が地面に潰れ、背骨も一瞬で粉砕される。

 急激な五千Gの負荷により、地面も二十センチメートルほどめり込む。

 噴き出るはずの血も、負荷を掛けられた重力により噴き出ずに下に溜まる。

 砕けた骨も肉から飛び出るが、それすらも重力に粉砕されていく。


――俺の固有属性(ユニーク)に直接関係する地属性魔法が異常に使い易くて逆に困るな。


 そんなことを考えながら、小汚い親玉に向き直る。

「だから、近付くなって言ったのに、残念だねぇ」


 そして使うは「砂鉄の剣(サンドストーム)

 電流の蛇が砂鉄を纏い、切り裂いていくというのがイメージ。

 この世界では転じて、砂鉄が地に這う蛇のような身体を構成し、高速で砂鉄が流動しているため、その姿に触れると電動ノコギリで斬られたような傷を残す。


――自律系魔法の一つだが、この三十人は、これをどう対処するかな。


 黒歴史ノートの中で『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』並に古い魔法だ。

 そのお陰で、とある魔法陣に標準搭載されている魔法でもある。

――エルリネの近接攻撃は見事だし、その魔法陣あげようかな。


 そう考えたものの、どう考えても出力は足りない。

 相当先になりそうだ。

 

 とりあえず、今考えられることは殲滅だ。

「砂鉄の剣」に命令する。


「あの盗賊どもを殲滅しろ。"砂鉄の剣"」


 虐殺が始まった。




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