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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-ザクリケル-
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勃発



 いざ、目と鼻の先にあるザクリケルニアの城門を目指そうかと、エルリネと息巻いたところで、気づいた。

 金などもっていないと。


 web小説にとかによくある「門を通りたいなら金を出しな、銀貨一枚な」なんてことを言われる可能性がある。

 そうでなくても、成人している魔族奴隷と七歳の子どもが「旅してきました! 通して下さい!」なんて言ってみても衛兵からすれば、胡散臭さから警戒値が振り切るだろう。


 入り口はあそこだけでは無いはずだ。

「もっと自然に入れるような、入り口に向かおう」

 そういって俺は、エルリネと共に左側から回って行くことにする。


 やはりこの国にも森はあるようだ。

――いや、当然か。

 生前プレイしていたロールプレイングゲームでは、国や地域が変わるとモンスターの種類もガラリと変わった。

 この世界でも変わるのだろうか。

 ……物凄く森に入りたい。

 だが、俺の気持ちを知ってか、そわそわしている俺の両肩をエルリネが掴んで離してくれない。

「ご主人様、とにかく入りましょう」

 と苦言を呈された。


 確かに森なんていつでも入れる。

 とにかく今は拠点を作ることが優先だ。

 そういって、気持ちを切り替えた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 中々デカい街だ。

 かれこれ、体感五キロメートルぐらい歩いているが、まだ城壁が続いている。

 城壁が続く先を目を細めて見るが、まだまだあるようだ。

 本当にデカい。


 生前の実家の街は東西南北の平均が十キロメートルだった。

 この街はそれ並にあるようだ。

 下手したらそれ以上にデカいかもしれない。

 こういう街であれば大抵、東西南北に門があって、それに衛兵兼入門審査官がいるもんだとイメージしていたが、この街に国境の森側にしか今のところないようで見当たらない。


 戻るか? と、思うもまた戻るのも、無駄骨だったという意味合いで精神的にキツい。

 肉体的にもだいぶ少々疲れてきたので、休憩にしようと思いエルリネを方を向いてみると、笑顔だった。

 疲れなんか感じてないよ! って言うほどの笑顔だった。


 初めて彼女に負けた気分になった。


 休憩用に森の中に入る。

 高低差がある森で、山の中に森があるような立地のようだ。

 その中で、二人共樹木によじ登り、休憩する。

 今日のご飯は、やっぱりあのライオンの焼いた後ろ足。

 エルリネの大好物のものである。

 

 休憩をして一段落をしたところで目の前―といっても大体の体感一キロメートルぐらい先―で馬車が走っていた。

 馬車は走るものだが、そうではなく逃げているような雰囲気だった。


「……何から――」

「ご主人様、追い剥ぎです」と、エルリネに被せされる。

 ……要は盗賊か。

 異世界系には必ずいる職業だが、ここにもいるんだな、こういう人種。


 遠くて殆ど見えないがたしかに馬車が豪奢っぽい。

 太陽の光に照らされてピカピカ光っている。

 ……どちらかというと、成金特有の趣味悪い馬車だわー……。

 そんなもので外へ出歩いたら、そら襲われるわ。


 なんて漫然と見ていたところで、盗賊がわらわらとその馬車に群がる。

 ……数が多い。いや、多すぎる。

 三十人近くいるが、まだ増えるようだ。

 なにをそう駆り立てているのか。


 成金をとっ捕まえて、殺したり奴隷にしたりしてもたかが知れてるし、王族のお忍び馬車だとしても、あの馬車は趣味が悪い。


 襲ってくれと言っているようなレベルだ。

 なんてことを考えているうちに、馬車の御者が盗賊が持っていた槍に貫かれた。

 即死はしていないようだが、十分致命傷だ。


 中から馬車の中から騎士っぽいのが三人ほど出てきたが、多勢に無勢だ。

 ああいう場面だったら、俺なら嬉々として殲滅魔法をぼんぼこ撃つが、一般人には無理だろう。

 剣で一人で十人強は殺る必要がある。

 更に囲まれているし、守るべき対象もいるだろう。

 まぁいなくても、囲まれているのがデカい。

 槍で囲まれて、魔法をチクチク撃たれれば消耗する。


 消耗したところで、斧か鈍器で簡単に殴殺出来る。

 それを嫌がって斬りかかろうとしても、槍衾(やりぶすま)の中に突っ込みたいと思う奴はいない。

 大抵は尻込みをする。


 その間にチクチクと魔法を以下略。

 想像している内にその通りになった。

 槍衾の中で風と火の矢で、消耗させていく戦法を取られている。


 さっさと出て行って殺しに行けばよかったものを。

 もはやジリ貧で、騎士は終了か。


 ……お、早速一人が鈍器で頭を潰されたか。

 しかし、ソードメイスか。

 あそこまで行けば、普通に斧でいいとおもう。


 残った騎士の内一人がソードメイスを持った巨漢を殺して、槍衾の盗賊を切り払っていくが、損傷は少なくないようで段々足が遅くなり、最後には槍で刺し貫かれて死んだ。

 残りは一人だ。


 趣味が悪いと言われそうだが、こういった異世界に来てからああいう人間の生き死にを見るのが割りと好きになった。

 殆ど、盗賊といった悪人が死んでいく姿が楽しみなだけなんだが。

 ということで「視認(トゥルーサイト)」を使う。

 一キロメートル先の馬車へ向かってピントが合っていく。

 くっきりと成金趣味の馬車が見える。

 ……ゴテゴテしてるな……これ……。


 そんな馬車の中から更に二人ほど出てきた。

 男の子と女の子だ。

 両方とも、俺と同い年ぐらいか。

 女の子の方は半泣きだ。

 そりゃそうだ。

 こういった場面で女性に待っている未来は、犯されてポイだ。

 

 男の子は不思議と微笑っていた。

 この笑い方は、この場では不自然だ。

 恐怖のあまり笑っているとかではなく、自然な笑い方だ。

 いかにも「自分が撒いた種」だと思っているような。


 そしてその予想を裏付けるかのように、残った一人の騎士に隠し持っていたであろう凶刃を振り下ろした。

 肩を斬ったようだが、その騎士は倒れた。

 魔法が込められた剣だろうか。

 ……肩を斬られた程度で、人を昏倒させるとか危険だな。


 そしてあろうことか、男の子は盗賊の群れに近づき、殺されるかと思えば握手などしている。

 理由はしらんが、この件はその男の子が仕組んでやったことだろう。


 俺は「視認(トゥルーサイト)」を解除した。


 これ以上盗み見ても盗賊は全滅しない。

 余計な揉め事に十分巻き込まれているが、これ以上関わったら夢見が悪い。

 無視しようかと思った。

 

 だが、半泣きの姿が、どうしても。

――姉さんと重なる。 


 ……卑怯だ。

 この先、姉さんと面影が被ったら、どんなのでも助けなければいけなくなってしまう。

 だから、嫌だ。

 ここは無視したい。

 見なかったことにしたい。


 でも、いつも口うるさい天使(りせい)悪魔(かんじょう)も今は何も言わない。

――助けに行け。

 というのか。


 これ以上助けに行ったら、都合のいい『勇者』になってしまう。

 俺は「メティア・フォロット」と「シス・フロリア」と「エルリネ・ティーア」の三人だけで十分なんだ。


 いや、俺の腕は有限なんだ。

 これ以上増えても、彼女たちに掛ける気持ちに偏りが出てしまう。

 それだけは駄目だ。




――だから、今回は助けに行かない。



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