魔石
明日はこのトンネルを通る予定だ。
なので、俺の知らない知識を持つ彼女にこのトンネルの概要を聞く。
彼女いわく洞窟というよりトンネルのようで、昔はこの岩山で『魔石』という鉱石が採れたという。
だが、その魔石も出土する量が非常に少なく、一月に王都が消費する分しかギリギリ取れないところでしかなかったらしい。
だが、魔族の魔石化させる技術により、鉱山で奴隷を買って無理に採掘させるよりも、非常用燃料として魔族を、人族、獣人族の奴隷は自身の世話係として手元に置くようになった。
一般人も生活するだけなら、生活魔法だけでいいため、無理して採掘する必要もない。
それにより、ここでの採掘は廃れた。
もっとも、この岩山は隣の国に近く、両脇に森が広がっているため、アクセスしにくいという意味でも廃れる理由になっているようだった。
魔石というものが見たことがないが、彼女いわく魔石化した魔族と採掘される魔石とは純度が違うようで、採掘された魔石が家ほどの大きさを持っていても、魔石化させた魔族一人分以下だそうだ。
――そんなに差があれば、そら廃れるわ。
魔石が鉱石であれば削れるし、少しずつ削って使用すれば年単位で使えるだろう。
魔石っていう名前だ。
魔法を使うのに魔石を使うことでなんらかの効果があって、そういった燃料があればあるだけ、国の強さになるのだろう。
戦争とかがあれば、その魔石を使うことを前提にし、魔族に先払いで「お国のために死ね」っていう概念を強要しているわけだ。
削ってちょこちょこ使えばいいものを、探せば俺みたいな高火力・高出力持ちはたくさんいるだろうに。
一人の王様が思っていても、国なんてものは何百人単位で貴族っていう生き物がいる。
その何割かが、私腹を肥やそうと考えれば弱者は増えて全滅するものだ。
そこから国が傾き、貴族は王を口撃する。
ま、俺はそんな国に対して特別なにかをやろうとか、蹴落とすとか国づくりするとか考えない。
一般的な一般人だ。
"作者"というチートは持っているけど、高火力・高出力の魔法に関連するチート程度だ。
それ以上もそれ以下もない。
内政とか研究出来るような知識もない。
当然、醤油や味噌とかを作る技術もない。
あるのは、小説と漫画とゲームで培った魔法だけ。
それ以外は一般人だ。
俺みたいな奴は一般兵士でいい。
間違っても国の運営には携わらない。
とにかくそういったことを考えながら、一般的な概要を聞く。
概要を聞きながら食事をし、彼女の顔がトロンとしてきた。
殆ど夢現のようで、舟を漕いでいる。
無理して喋らせるのも悪い。
一緒に抱き合って、つり寝床の布を毛布代わりにし寝た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
太陽が昇り、程よく暖かくなってきたので起きた。
また例のごとくストレッチして、往復持久走をして身体を温める。
彼女の顔色を見ると相変わらず褐色肌で、どうやら高山病に罹ってはいなかった。
割りとねぼすけなへっぽ娘を起こし、朝食を摂りながら今度はトンネルを抜ける計画を話したところ、このトンネルはそこまで長くは無いらしく、ちょっと軽く歩くだけで通り抜けられるという。
ということであれば、今日中に下山も兼ねるという形に落ち着いた。
トンネル内を歩いた距離はほんの三キロメートル程度だった。
直ぐに岩山の反対側へ出て、国境線が見えた。
といっても国境線と思われるところに柵や、関所があるわけではなく森がまた眼下に広がっており森の境目から先が国境なのだという。
そして、その国境から先の城壁のような壁に守られている街が見えた。
あそこが隣の国『ザクリケル』の第二級都市『ザクリケルニア』という街らしい。
らしいというのも、『ザクリケルニア』より更に向こう側にエルリネの前々回のご主人様がいたという。
そのご主人様に自分が物々交換される際、交換された先の国周辺の知識を教えられたからだという。
この国は一言でいえば、実力主義だという。
実力主義であれば、魔族である「エルリネ」を受け入れてくれるだろう。
俺みたいな高火力・高出力チート持ちにも、嬉しいお国柄だ。
逸る気持ちを抑えながら、この日も彼女の手を繋ぎながら、景色を楽しみながら下山した。
――明日にはきっと森のなかに入れるだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結局下山し始めてから、森の入り口に着いたのは太陽が傾き始めたころだった。
大体3日ぶりの森である。
岩山登る前の平原を歩いていたりしてから、森に入ったりはしたときはそれほど思ったりはしなかったが、この岩山を登ってからの森に入ると、物凄く懐かしく感じた。
エルリネが俺に「森人種だといいのに」とか言ってたが、俺は知らぬ間に「森人種」に開発されていたのかもしれない。
森にいるほうが物凄く安心するのだ。
きっと今なら故郷の村に帰っても、そわそわするかもしれない。
とりあえず、就寝用につり寝床の設営に耐えれる樹木を探しつつ、襲ってきた木登りライオンを仕留めて、夕食にする。
三日ぶりの新鮮な焼き肉である。
美味い。
そういえば、結局山で跳ねていた山羊は食べなかったねと彼女と談笑しながら、この日の夜は更けていった。




