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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-岩山-
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ポンコツ



 駆けっこは、結局俺の勝ちだった。

 と、言うのもエルリネが迷ったからである。

獄炎(ヘルファイア)」で焼き払って終着点まで一直線なのに、いつのまにかいないエルリネ。

 俺の固有属性を使った「探知(ソナー)」を使って探してみれば、何故か俺が追い越していた。


 迎えに行ってみれば、眉毛を八の字にして「迷いました」としょぼくれていた。

 森人種なのにこの娘は森で迷うのか……と、思わず引く。


――いや、影森人種(ダークエルフ)だから厳密には森人種(エルフ)ではない。

 ではないが、かなりイメージが崩れる。

 

 とりあえず、勝負は勝負ってことで俺の勝ちにした。

 エルリネは更にしょぼくれた。

 もちろん、次回は当然ある。

 そのときに頑張ろうね、と励ましたら彼女の耳がピーンと立った。

 彼女の表情がコロコロ変わると言ったが、それ以上に彼女の耳も変わる。


――ありゃあ、生前に飼っていたラブラドールレトリバーの尻尾だわ。

 そんなことを空目するぐらい耳がピコピコ動く。

 ぶっちゃけ可愛い。

 感情の色を見る魔眼があったとしても、多分きっと彼女だけは耳を見ていれば大体分かるだろう、そう思った。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 さて、日が高い内に岩山に着いた。

 この岩山を二日掛けて登り、一日掛けて中のトンネルを(くぐ)って、更に二日掛けて下れば、国境線だ。

 巨人(ジャイアント)族が作った通り道って言うだけあって、非常に道幅が広い。

 そして勾配が急ではないので、非常に登りやすい。

 その分、道は長いが許容範囲だろう。

 早速登る。

 

 勿論、勾配を登る際にエルリネに教える。

「エルリネ。こういった斜面を登るのは、疲れるってだけじゃないんだよ」

 いきなり話しかけられたエルリネは、疑問符を浮かべた顔をする。

 よくわんこがやる首を傾げる姿が、ラブラドールレトリバーを空目させる。

 生前に飼っていたラブラドールとビーグルは可愛かった。

 天寿を全うして虹の橋に行ったと思うが、生憎俺は天寿を全う出来ずこんなところにいる。

 待っているのであれば、すまないなと思う。


 それはともかく、首を傾げるエルリネに「ちょっと失礼」といって(もも)などを触る。

「山をゆっくり登るとね。(ここ)と、ええっとあと腿の後ろと、足の表の付根とお尻の筋肉が鍛えられます」

「…………、」

「たったの5日間だけでは、思ったほどには鍛えられないだろうけど、やらないよりはマシだからやろっか」

「…………、」

「足腰を鍛えると、近接戦闘においての瞬発力が高まるしね……、ってどうしたの」


 一旦、話を切ってエルリネをみれば、仄かに上気した顔で俺を見ていた。

――こうなったのは何故だろうか。

 自分の行動を省みる。


 足の太ももを触った。

 その後に、彼女のお尻を触った。

 …………

 ……

 ……Oh、無自覚とはいえセクハラしとるがな。

 もわっと匂う彼女の薄荷の匂い。

 ……アカン。


 だが、俺は六歳。そう俺は六歳だ。

 気付かない。気付かないぞう。

 スルーするぞう。

「ええと、でまあそういう訳だからやろう」

「…………、」

 沈黙が痛い。


 千里の道も一歩から。

 とりあえず、俺から出発した。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 この登山道はそこそこな勾配の道で、非常に歩きやすかった。

 殺風景な景色で飽きるかと思ったが、そうでもなく高山植物がいて中々に目を楽しませてくれる。


 今の俺には多大な負荷を掛けている。

 具体的に言えば、対象は俺で重力(グラビトン)を三Gぐらいで負荷を与えてるのだ。

 意味はあるかどうかは分からない。

 ただまあ、やってみて効果があればラッキー。

 なければ、まあいいか程度だ。


 一歩一歩が非常に重い。

 それ以外は特に魔法は使っていない。

 言い出しっぺの法則だ。

 エルリネに「足腰鍛えよっか」って言った手前、自分もやらなければ意味が無い。

 魔法ありきの体力なんてどうかと思う。


 特に俺のスタイルは『魔王系魔法』というドでかい火力で圧殺するタイプだ。

 だが、接近されることもあるだろう。

 その場合、どうするか。

電磁衝撃(エレクトリックショッカー)」で薙ぎ払う?

 簡易起動の「焼灼の槍(ツァーリ・ボンバ)」で撃ち抜くか?

 どれも正解だろう。

 だがそれはあくまでガチンコのときだけだけだ。


 俺の後ろに守るべき存在がいた場合に、これらでは消し飛ばす危険性が非常に高い。

世界(ワールドスフィア)』で守ればいいだろうが、使えない場面があるかもしれない。

 ならば、接近戦用に鍛えるのも損ではない。


 あの村での出来事では、ドでかい火力で押し潰した。

 もしあの場でドでかい火力の押し潰しが利かない場合、どうしていたか分からない。


最終騎士(クラウン・シュヴァリエ)』で強化して、強引に二刀流短剣術でやったか。

 答えは分からない。

 とにかくやったことは、押し潰しだった。

 それを、俺は……。


 と、思考をループさせながら一歩一歩踏みしめていると、先程まですぐ後方にいたエルリネがいなくなっていた。

「すわ、また迷子か?!」

 かと思えば、だいぶ後ろで彼女はへばっていた。

――弱っ。


 彼女は非常に足腰と心肺機能が弱いようだった。


 休憩を取ることにした。

 水は俺の水球作成があるので、水分補給は元より問題なかった。

 食糧事情も以前は問題だったが、今は問題なくなった。

 俺が「赤熱の刃」を使えるようになったので、あの洞窟の焚き火でいくつか鹿と熊肉をウェルダンに焼いたのだ。

 

 結果、燻製とまではいかないが四日ぐらいは持ちそうな携行食になった。

 もし、腐っても『蠱毒街都(ヴェナムガーデン)』があるので、腹痛は起こさない。

 ある程度残すけども、勿体無いのでちゃんと食べる必要はある。

 ということで、エルリネに焼いた熊肉を渡す。


 エルリネの耳がピコピコと上下に動いている。

 可愛い。

 ……触ってみたい。


 食事が終わり、食事後の休憩も終わった。

 歩くためのストレッチをして、また登る。


 その後、結局エルリネが数回へばり、予定していた山の中腹に差し掛かる頃にはとっぷりと夜が訪れているときだった。


 個人的に、ダークエルフのイメージが山寄りの森育ちってものだったが、この娘は森で迷い山でへばるというポンコツダークエルフだった。

 こんなにヘボい娘を捨てるだなんて、とんでもない。

 保護欲が掻き立てられて凄くギュンギュンだ。


 凄いが、そんな彼女は朝のように彼女は項垂れていた。

 理由を聞いてみると、「足手まといでごめんなさい」とブツブツ言っていた。

 この娘はすごく面倒くさい娘だった。


「大丈夫だよ。予定していたところに着いたんだから、気にしない気にしない。

ほらほら、ぎゅー。ほらほらもういっかいぎゅう」

 彼女を後ろから抱いて、そのまま倒れる。

「わわっ」と驚く彼女を拘束する腕を緩めずに、彼女の耳許に口を近づけて

「おやすみ、エルリネ」と、言って俺は寝た。



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