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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-森-
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『天空から墜つ焦灼の槍』と『天雷、裁終の神剣』

 目が覚めた。

 隣には相変わらず近いエルリネの顔があった。

 昨日に比べてツヤツヤしているのは……、きっと気のせいだろう。

 俺の身体に薄荷の匂いが付いているのも、きっと気のせい。


 彼女の拘束から、スルッと抜け出して洞窟の入口脇から外を見る。

 どうやら、快晴のようだ。


 乾かせていた服に着替える。

 意外と乾いていた。

 お尻の辺りがまだ冷たいが、我慢出来ないほどではない。

 いつものストレッチをして、朝食狩りに出かける。

 この国の森は、今日で最後だ。

 なにせ、例の岩山の麓が五百メートルぐらい先に見えるのだ。

 今日で森の旅は終わりを告げる。


 ならば、お祝いとして珍しいものを食卓に上げるのはありだろう。

 周辺を散策する。

 この森では、木登りライオンもレッドベアーもいない。

 ドドメ色の蛇もいない。

 いるのは熊と鹿だ。

 それも、生前の"日本"にいたツキノワグマみたいなものと、奈良の鹿みたいな生き物。

 生前では両方とも食ったことがないから、具体的な味比べは出来ないが、きっと多分、排気ガスとかがなく、完全に自然ってところの森にいる、こちらの方が美味しいのではないだろうか。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そして、森にいた俺は完全に油断していた。

 この森にいるのは、自分たちと熊と鹿しかいないと。


 水の槍が俺の脇腹に突き刺さる。

 殺意がある槍だ。

 でなければ、二発も三発も撃たれない。

 

 下手人が見つからないが、『魔力撹乱(カウンタースペル)』で水の槍を破壊する。

 水の槍が飛んできた方向に振り向いたところ、ザザザザザと森を高速で駆け抜ける音と詠唱が聞こえる。

 と、同時に十一時と、九時、五時、二時方向から、風と火の槍がほぼ同時に飛んできた。

 野生動物とは思えない。

 野生動物が魔法なんか使わないし、ぎりぎり詠唱だと分かるような言語は使わない。


 エルリネが巻き込まれて死なれると困る。

 エルリネに小型の『世界(ワールドスフィア)』を作り、世界を閉じらせる。

 閉じたところで、安堵し、俺は久しぶりに全力を出す。

「"来い"、『十全の理(グレイテストマジック)』!」

 そして顕現するのは、燦然玲瓏と輝く魔力線で描かれた魔法陣が俺の背後に表示される。


 空間を震わせる『ゴッ』という音を出す。

『十全の理』が魔力精製を開始したのだ。

 その『十全の理』の魔力を使い、早速攻性魔法を行使する。


 使用するのは、「獄炎(ヘルファイア)」。

 広範囲を焦熱地獄で更地にする魔法だ。

 魔法ながら『奪熱凍結の言霊(ニブルヘイム)』という魔法陣と対を為す魔法。

 範囲をしっかり指定すれば、対象範囲内は焼き尽くすが、対象範囲外には延焼させないという特徴がある。

 森の中なのにこの火属性の魔法(ヘルファイア)を行使したのは、こういう理由があった。


 そして目に見えて、喧嘩を売った相手が超危険だというのも分からせる目的でもあった。

――自分の安全性を使った実験はやはりキツいな。


 そう、エルリネには『前衛要塞(フォートレス・ヴァンガード)』を使用しておき、彼女から遠く離れた場合でも反応するか試していた。

 結果は反応しなかった。

 そのお陰で水の槍が、脇腹に刺さった。

 

 この場の魔法対策は『自動起動(オートスペル)』に『魔力撹乱(カウンタースペル)』を登録し、魔法対策を万全にする。

 あとは弓などで攻撃されるか、接近されなければ勝てる。


 事実、属性槍は全て『魔力撹乱(カウンタースペル)』で全て自動で破壊された。

 俺の相手が人族か魔族かが分からない。

 だが、敵対するのであれば容赦はしない。

 エルリネといった、ギャラリーは今はいない。

 

――これから先は、久しぶりにやり過ぎてやろうか。


 そう考えて、発生させるのは「天空から墜つ焦灼の槍(ツァーリ・ボンバ)」。

 意味は水爆。


 擬似太陽は別格にしても雷槌(ミョルニル)乱気流(タービュランス)と同列の魔法。

 威力はピカイチ。

 純粋な火力だけで、イメージのための名称のため、生前の世界にあった放射能汚染はない。

 超クリーンな魔法である。

 但し、それによって起きる魔力汚染は発生するが、この際忘れることにする。


 とにかく、「天空から墜つ焦灼の槍(ツァーリ・ボンバ)」を発生させる。

天雷(ディヴァイン)裁終の神剣(オーバーシューティング)」が剣であれば、これは槍だ。

 最初は擬似太陽のように球状の光が天空から複数降ってくる。

 そして、一定の高さになったとき、球状の光が奇妙な文字配列が描かれた赤白い槍となり、地に墜ちる。

 威力が強大すぎるので、今回は2本だけ発生させて、地に()とした。

 本来のものは10本単位である。

 

 一瞬の静けさのあと、発生するのは破壊の音。

 木々が倒れるような、陳腐な音はさせない。

 するのは、火柱が発生した際の爆発音。

 周辺が焼灼(しょうめつ)される。

 爆風が辺りをなぎ払う。

 木々は倒さない。

 爆発で灰にするだけだ。

 

 着弾地点を相当離したつもりだったが、爆風がこっちまで来た。


 爆風に全身が灼かれることなく、衝撃波で飛んできた下手人が近くに落ちて来た。

 血を流している姿から、どうやら人族のようだ。

 同じ人族が、人族の子どもに喧嘩を売ってくるとは。

 そして得た結果が全滅とは世話ないね。

 自分が人族とは思えないような、桁違いな存在だと言うのには自覚はあるけども。

 どうせ殺す前に、一応顔は見ておこうか。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 下手人の顔を見ると、若い女性だった。

 漫画の中だけかと思ったが、いるんだな。

 縦ロールのお嬢様然とした女性って。


 歳は成人したばかりの女性だろうか。

 爆風によって右腕が焼き千切られており、「これでは箸がもてなさそう」と場違いなことを思う。


 漫然と女性を見ていたら、立ち上がった女性に「化け物め」と評価された。

 いきなり、攻撃を仕掛けてきた奴に言われたくはない。

 その女性は、中々男好きのする肢体をしていた。


 俺が成人していれば殺す前に、一回愉しんだかもしれないが少なくとも現状興味はない。

 とりあえず、面倒なので『赤熱の刃(レッドブレイド)』を『魔力装填(エンチャント・マジックス)』させる。

『赤熱の刃』とは、そのままの意味の魔法で、火属性の赤熱した刃を発現させる。

 これを、『魔力装填』すると伸縮自在(しんしゅくじざい)で形状もある程度変えられる上に、鍔迫り合いも出来る程度の硬度もある刃に変わる。

 もちろん、射出すれば元の魔法のように、近場を切り裂く魔法になる。

 が、ほぼ『魔力装填』用の魔法といえるだろう。

 それを、女性の目の前で見せつける。


 躊躇いなく魔法を行使しようとするその姿に焦ったのか、女性が喚く。

 ぶっちゃけ言葉が早くて、六歳の耳では聞き取りづらい。

「何言ってるんだ、クソアマ。聞かせたいならゆっくり喋れ」

「なんで、私を殺そうとするんだ!」


 呆れてモノが言えない。

 攻撃してきたのはこいつらだ。

 それなのに、なぜ殺そうとするんだと聞いてくるのは何なんだこいつは。


「…………はぁ……、」思わずため息が漏れる。

 エルリネを拾う前の、あのオネーサマパーティーのときもそう思ったが、自分たちは大丈夫という風に考えているのだろうか。

 甘すぎる。

 やられた側はどう思うかなんて、この世界の人族は考えないのだろうか。


 とりあえず甘いことを考えている阿呆に、手心を加える必要はない。

 こちとら、その甘さで殺されかけているのだ。

『赤熱の刃』を刀剣状態にする。

 形状は刺突剣(レイピア)

 せめて、即死をさせるのは俺なりの優しさである。


 女性が喋る。

 遺言など許可していないが、まあいいだろう。

 喋るだけ喋らせよう。


「おい、お前。私と組まないか。

ほら、私なら変態行為も喜んで受け入れるしさ!

な、だからここは頼むよ。

私を殺さないでよ、さっきの連中とは金で繋がっただけの仲なんだよ」

「…………、」

「それにあの山を通って国境の街行くんだろ、あんた一人じゃ無理だよ」

「…………、」


「私たちの目的は、魔族を捕まえることなんだよ、さっきの洞窟でも……ヒッ」

『赤熱の刃』を着剣した右手を女性の首筋に当てる。

 とはいっても、ギリギリ当たっていなさそうだが、熱で少々熱いようで赤くなっている。


「さっきの洞窟で……なに? 早く言えよ。

……ああ、そうそう。

今のお前、運が良いな。内容によっては助かるぞ。

……それで、洞窟でなに?」


「森人種を見つけたから……」

「で、どうしたって?」


「捕まえて」

「で? いや、率直に言うわ。そいつさ、俺の大事な旅の相方だからさ、捕まえずに俺の許に戻せよ?」

「無……理だ……と言ったら…………?」


 代わりに応えるのは『十全の理』。

 そして発生するのは「雷槌(ミョルニル)」。

 いや、簡易起動の「雷槌」ではない。

天雷(ディヴァイン)裁終の神剣(オーバーシューティング)」が発生する。

 それが発生したことにより晴れていた空に、強引に黒く炭色の雷雲が発生する。

 雲が渦を巻く。

 渦をまいた中心から、紫電を纏う神剣が顔を覗かせる。


 更に発生するのは、「天空から墜つ焦灼の槍(ツァーリ・ボンバ)」五十本分の光球。

 この辺りを更地にするだけでは過剰過ぎる火力。

 国どころか大陸を落としかねない。


 先ほどまで快晴な朝だったのが、夜のように暗くなる。

 この事実に、顔が青くなる女性。

 上空から明らかに、バチバチィッと帯電しているような音がする。


「もう一度聞こうか。

洞窟の中にいた森人種をどうしたって……?」

「捕まえて」

「捕まえてどうした?

魔石にした?」

「いや、そこまで……は」

「…………、"墜ち――"」

「ホントだよ、何もしていない!

黒いナイフが思いの外、凄い切れ味で私たちの仲間が死にかかっただけで、特には」


――人族っていうのは本当にクソだ。

 

 メティアといいエルリネといい、大事な人は魔族だ。

――魔族に生まれ直したい。

 と、何度も思った。思ったが、姉さんと母さんに会えなかったと思うと、やっぱり人族でよかったと思う。


 エルリネを中心に展開させた『世界(ワールドスフィア)』の反応はあるが、『前衛要塞(フォートレス・ヴァンガード)』の反応はない。

 離れすぎてしまったのが原因か。

 未だに展開されていて、膠着状態に陥っていることを祈るしかない。


 目の前の女性は後腐れないように殺しておくことに限る。

『赤熱の刃』を刺突剣から広両刃剣にし、着剣した右手を横一文字に振るい、首から上下に断っておいた。

 女性の「え?」って呆けている顔を飛ばしながら見てきたので、切り飛ばした理由を聞かせる。

「『助けてくれる』って言ったじゃん。って言いたそうな顔してるけど、内容が拙かったな。

お前を助ける選択枝はねーよ。そのまま死んで、この辺りの熊の餌になれ」


 血は噴き出ない。

 文字通り、赤熱の刃で傷口を焼いたからだ。


 首を断ち、首が転がったのを見届けてから寝床の洞窟まで一気に走る。

最終騎士(クラウン・シュヴァリエ)』で足腰を強化し、「爆縮(インパクトエクスプロージョン)」を『魔力装填(エンチャント・マジックス)』で足に付与させ、踏む毎に爆縮の衝撃波で走り抜ける。

 走っている間は「天空から墜つ焦灼の槍(ツァーリ・ボンバ)」と、「天雷(ディヴァイン)裁終の神剣(オーバーシューティング)」は解除しない。

 脅迫するのに使う。

 

 走り抜けた甲斐あってか、洞窟入り口に人族が数名いた。

 そいつらの頭に「貫く鉄岩(ピアシング・アイアンス)」を1人につき一つをお見舞いする。

 洞窟入り口にいた人族を全滅させたあと、洞窟のなかにいたのはエルリネと、獣人族が2名。


前衛要塞(フォートレス・ヴァンガード)』がしっかり仕事をしていたようだ。

 彼女(エルリネ)の身体に傷ひとつついていない。

 それに比べて獣人族は身体がボロボロだった。

 先ほどの女性が言っていたことを、真と取れば呪いの武器になったかと思われる、黒曜石製っぽいナイフが頑張ったようだ。


 俺が誰かを誰何させる前に、傷が浅そうな獣人族を『魔力装填:乱気流』を纏わせた右手で腹部を殴る。

 拳による物理攻撃のダメージは零だろう。

 なにせ六歳だ。

 六歳の力でダメージを与えるほうが凄い。

 だから、乱気流を纏わせて殴った。

 結果、筋肉の鎧で覆われていた獣人族を「乱気流」で吹き飛ばし壁に激突させる。

 殴った獣人族の口から空気が漏れる。


 左手に『魔力装填:重力』を百五十Gで纏わせ、ひたすら腹部を殴り、最後は右手の乱気流で獣人族の右半身を消し飛ばした。

 怪我でボロボロな獣人族は、『蠱毒街都(ヴェナムガーデン)』の通常駆動で、嬲り殺した。

 具体的に言えば麻痺毒と衰弱毒、神経毒、壊死毒を即致死しない程度に織り交ぜて程度である。

 その間に一思いに殺してくれと頼まれたが、手足の腱を切って壊死毒を注入させ、そのボロボロの獣人族を立たせて、洞窟の外へ蹴りだした。

 運が良ければ助かるだろう。

 運が普通であれば……?

 ……ここらへん野生動物しかいないからなあ。

 まあ、一思いに殺してくれるだろう。

 それを期待するのも一興だ。


 しばらくすると、断末魔が聞こえてきた。

 軍隊アリっぽいのが、先ほどの獣人族を捨てた方角へ向けて列を成していたが、きっと殺してくれたのだろう。

 軍隊アリに感謝する必要があるな。



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