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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-常識-
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女神

説明回が続きます。


 さてエルリネが落ち着いたところで、朝食にする。

 携行食はささみのジャーキーだった。

 というのも鶏のささみのような味がするジャーキーというべきか。

 ガリガリと噛む。

 硬いジャーキーだ。

 出汁用じゃないか? と思うぐらい硬い。

 人の食い物じゃない。


 エルリネの顎だとどうなのかと、ちらっと見ればしゃぶってた。


――ふむ。噛むものではなく、しゃぶるものか。


 ただ、しゃぶると負けた気分になるので、噛むことにする。


 エルリネに話を聞いてもらったときに、知ったことだが、彼女は生活魔法を使えるらしい。

 これで漸く人並みの生活が出来るってことだ。

 とくに火を作るのが出来なかった俺だ。

 煮るとか蒸すとかその辺りが出来るようになるだけで、だいぶ食生活が変わる。

 エルリネが女神に見える。


「なんでしょうか、私を見て」と照れているのか頬が赤いエルリネ。

「いや、女神だなーと思って」

「……えっ」


 食事をして一息着いたところで、今後の旅について話し合う。

 彼女は奴隷だとしても、いまのところフリーだ。

 この状態で街に入ったら、間違いなく捕まる。

 となるならば、この国から出ていくことにする。

 街道を通れば、今回のように面倒なことになるかもしれない。

 エルリネのように助けていくのもありかなとは思ったが、人が多すぎると国を出るのも一苦労だ。


 だから涙を飲んで街道を使わずに、森から森へと抜ける方針で行く。

 エルリネも平原や街道を通るより、森の方がいいらしい。

 流石、森人系と言うべきか。

 早速、エルリネの手を引きながら森へ向かう。


 森に入るまでに狼が数匹じゃれに来たが、黒曜石(ナイフ)をエルリネに貸したところ、足技などの体術を駆使して黒曜石であっさり三匹殺した。

 三匹殺されたその事実に狼たちは逃げていった。


 身体を動かしていない奴隷にしてはアクティブ過ぎる。

 足技が的確で、飛びかかってきた狼の横っ面をハイキックで叩き落とし、黒曜石(ナイフ)で首を一閃。

 怒って更に襲いかかってきた狼に向かって走り、狼の口の端に黒曜石当ててそのまま切り裂いたり、足に向って噛み付きにきた狼を蹴りあげて、腹を割いたりと中々出来ないことである。


 というかこの(エルリネ)怖い。

 絶対に逆らわないようにしよう。

 特に息切れせずにエルリネが帰ってくる。

 疲れていないようで、「もっとやりたかったです」と非常に残念そうに、感想を述べていた。

 とりあえず、森のなかに入る。


 例のあの蛇にまた会った。

 そうあのドドメ色の蛇だ。

 エルリネが即反応する――

 前に、「凍結の棺」で即死させる。

 森のなかだと「視認(トゥルーサイト)」が利きにくいが、その分本人の警戒レベルが上がるので、訓練としては中々のものである。

 この森でも相変わらず木登りライオンがたくさんいた。


 エルリネを見ると脂汗を流しながら、黒曜石を握っており震えている。

 やはり、この状況は異常なんだろう。

 だが、一人旅を始めたときから、日常茶飯事(にちじょうさはんじ)の出来事過ぎて欠伸が出る。

 エルリネが「ここは私が殿(しんがり)を努めます! ご主人様は早くお逃げ下さい!」と言うが、気にしないでエルリネを引っ張る。

 急に引っ張られて倒れこみ「……え?」と驚いているエルリネの顔。


「エルリネがそこにいると俺の魔法の範囲内に入るから、こっちに来なさい」と言って抱き上げる。

 といっても、俺のほうが小さいので腕だけが持ち上がるぐらいだ。

 それを油断と取ったのか、木登りライオンが一斉に襲い掛かり、「ひっ」と小さな悲鳴を上げてエルリネが俺を守るようにして、倒れこむ。

 むにゅっとした柔らかい彼女の身体に、悪魔(かんじょう)は「役得役得、ほら揉め揉め」と囁くが、そんなことしたら死亡フラグだ。

『六歳の少年、年上の女性(見た目十七歳の)おっぱいを揉んで死亡』とか笑えない。


――『自動魔法(オートスペル)』は既に起動しているし、使われる魔法も既に設定している。

 その名も「電磁衝撃(エレクトリックショッカー)」というものだ。

 範囲内に入った相手をまとめて、電磁ショックを与える。

 生前に筋肉に電気ショックを与え心臓を動かすとか、その逆の心臓を止めるとかの話を聞いて設定した魔法。

吸襲風吼(フロギストン・エアー)』並に古い魔法だ。

 だから、使い方も効果もブレない。

 

 超高圧電流が一気に流れたときのようなバヂンッといった音が響く。

 これにより、心臓を含めた筋肉が一時的に麻痺する。

 耐えられないものであれば、これで即死する。

 即死しなくとも、筋肉が麻痺するため、死ななければ死なないだけ別の魔法を使って殺す。

 

 魔法抵抗が高い生き物がいる筈もなく、軒並み即死したようだ。

 この魔法は危険な魔法で、巻込倍加(まきこみばいか)まで持っている。

 つまり一匹に当たればそいつを中心に「電磁衝撃」が発生する。

 Aと1に当たれば、Aの周辺にいるB,C,D,E……という対象にどんどん連鎖し、1の周辺にいる2,3,4,5……と、連鎖していく。更に一度当たったら対象にならないわけではなく、BからC連鎖して、Cの近くにAと1が入れば再連鎖する。


 どこまでもゲーム的な動きをする。

 戦争で使ったら酷いことになる魔法である。

 俺なら禁呪(きんじゅ)にする。

 だが、『魔王』になるなら、先に使っておくのも一つの手だ。


 咄嗟に使って自分以外全滅とか、自殺行為以外のなにものでもない。

 とりあえず、イメージ通りの効果が発生したようだ。


 エルリネに効果が及んではいないようだ。

 ぽんぽんと背中を叩く。

「ほら、大丈夫だよ。噛まれていたりとかないでしょ」と、彼女を安心させるように言う。

 エルリネはキツく目を閉じていたが、俺の声に目を(しばた)かせる。

 痛みはないことを確認しているようだ。

 そしてエルリネが周辺をキョロキョロと伺い、「ひっ」と悲鳴を漏らす。

 

 彼女が見たほうへ見やると、なるほどこれは酷い。

 木登りライオンの大群が死に絶えていた。

 どれも舌が飛び出しており、電撃による熱で目が白く濁っていた。


 殺しすぎたが、これで襲い掛かってくる数が減ることを祈る。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ライオンの大群を無駄にしないように、木の弦でライオンの後ろ足を括り引っ張る。

 当然の如く非常に重い。

 エルリネが引っ張ろうと頑張るが普通に無理。

 最低、いや低級駆動させた『最終騎士(クラウン・シュヴァリエ)』を使う。

 奇妙な文字配列と魔力線で描かれた魔法陣が、肩と足腰と膝と足の裏に顕現する。


 ……それでも4,5匹が限度だった。

 

 開けた場所に着いて、ライオンたちを分解体する。

 エルリネから黒曜石を返してもらい、『魔力装填(エンチャント・マジックス)』:風槍(ピアシングス)を黒曜石に付与し、鼻歌交じりで解体していく。


 気になったことがあるので、エルリネに聞いてみる。

「そういえば、エルリネは好き嫌いある?」


「とくには無いですが、何故でしょう?」

「や、森人種への勝手なイメージだけど、草食っていう印象が……」

「ああ、別に人族と変わらず雑食ですよ、森人種は。

私も雑食です」


「そかそか。じゃあとりあえず、火を作っといて欲しい。

ちょっと木の実取って――」

「一緒に行きましょう」

「え、役割分担をしようよ」

「…………、」

 段々半泣きになってきたエルリネ。

 そこで気づく。

 捨てられると思って心配になるのか、この娘。

 それなら、仕方がない。

 俺が折れよう。


「じゃあ、行こっか」と手を差し伸べると、彼女の顔はとても明るく咲いた。



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