表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-プロローグ-
54/503

奴隷紋

※警告※

殺人描写あります。

人によっては胸糞なので、嫌いな方はブラウザバックをお願い致します。



 御者に馬の血をぶっかけてから、『世界(ワールドスフィア)』と『奪熱凍結の言霊(ニブルヘイム)』を閉じた。

 ハゲデブタ(ハゲ+デブ+ブタ)の手には(フットマンズソード)が握られていたが、格上ということを見せつけたからであろう、剣先が震えており、剣を振りかぶれないようだ。

世界(ワールドスフィア)』を閉じたことにより、壁に付着していた馬の血糊と後身が地面に落ちる。


 それを見て至って普通の声音で、御者とハゲデブタに「ほうら、世界は閉じたぞ。さっさと行けよ」とこの場の逃亡を促した。

 別に"不殺(ころさず)"に目覚めたわけではない。

 この辺りは非常に狼が多い。

 でかい猫(ライオン)が、群れでなくともひっきりなしに襲いかかってくるのが森であれば、この辺りの平原は、最低でも2ダース(24匹)単位で群れる狼が脅威だ。


 その狼の大群をあの成り行きで殺戮したオネーサマらに当てるのは些か恐怖が過ぎる。

 だから、俺に喧嘩を先に売ってきた、ハゲデブタにその責を負わせる。

 本来なら、ハゲデブタに馬の血をぶっかけていれば、そハゲデブタが実力を以って狼を殺し尽くすだけで済んだ。

 だが、こちらとしては封印したいぐらいに、思い出したくない三ヶ月前の出来事を思い出させた。

 それは非常に面白くない出来事だ。


 だから、六歳らしくちょっと遊び心を加えた。

 戦闘で使い物にならない奴を寄せ餌にし、寄せ餌が恐怖に泣き叫んで一応騎士っぽいハゲデブタしがみつかせて、どんな反応をするか。

 蹴りだして逃げるか

 はたまた、騎士のプライド(笑)で頑張る方向か。

 予想では蹴りだして逃げるに十割だ。


 ということを考えて、ワクワクしながら実践してみれば、実に俺の予想通りの展開になった。

 ハゲデブタの脚を掴んで、助けてと言っている御者を蹴り飛ばして、逃げ出したのだ。

 御者の愕然とした顔が、中々スナッフ系ホラー映画の犠牲者のような顔だった。

 嫌いな人には嫌いだろう。


 実際、生前ではスナッフ系ホラー映画は嫌いだった。

 だが、三ヶ月前のあのブタ共が見せた「俺だけは大丈夫。狩る側の人間だ」と自信満々の姿が御者とハゲデブタが重なり、思わずこういう処刑方法を思いついたのだ。

 御者の顔が愕然から絶望に変わり……、そして狼に脚を噛まれた。

 御者がそれに気付いて、涙混じりに振り解きを試みるが野生の狼がそれを許す筈がない。

 狼が一匹、二匹、三匹と御者に(たか)る。

 

 御者が一瞬、俺を見たがニッコリ微笑んでおいた。

 その顔を見て更に絶望に染まったとき、俺と御者との間に狼の身体が遮り断末魔が響く。

 そしてその場から必死に逃げる、ハゲデブタ。


――慕ってくれていた民を捨てて逃げるなど、この世界(いせかい)の騎士はこういうものなのかね。腐ってんなー。


 などと、人事(ひとごと)に思う。


 命知らずな狼、数匹が俺に襲いかからんばかりに、包囲網を敷く。


 ……ふむ。


 対する魔法は「爆縮(インパクトエクスプロージョン)」。

 発生した衝撃波で狼数匹をまとめて吹き飛ばす。

 その出来事に(おのの)いた狼達はすぐに獲物の対象をハゲデブタに変え、十数匹の狼が、ハゲデブタに迫る。


 ハゲデブタは腐っても騎士のようで、爪と牙が刀剣並みに鋭い狼らと切り結ぶ。

 ハゲデブタが切り結んでいる間に、俺は女性の様子を見に行く。


 まあ人の上に立つ実力があるのであれば、この場面は普通に切り抜けられるだろう。

 俺であれば、『自動魔法(オートスペル)』の「凍結の棺」で狼肉の冷凍肉が出来るし、「爆縮」で爆音響かせながら殺戮するのもよし。

 あのオネーサマらだって、パーティーであれば難なく街まで行けるだろう。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 女性がいる檻まで大体二分ほどの距離だ。

 その間、俺は少しばかりこの先の展開を妄想した。

 丁重とは少々言いがたいが、檻の中に女性がいた。

 つまり奴隷だ。

 やんごとなき女性であれば、馬車の中にいるだろう。


 で、屋外の檻の中にいるので、ほぼ奴隷で間違いない。

 その奴隷を運んでいた奴隷商を、図らずとも全滅させた。

 全滅させたのは本当に成り行きだ。

 奴隷に関して何か思ったからではない。


 とはいえ、図らずとも助けた奴隷の女性に「助けて頂いて有り難うございます」とか、「素敵、抱いて!」とか、「私めはあなたの奴隷です、夜のことでもなんなり」とか、「ご主人様すごいです!」とか言われちゃって、鼻の下伸ばした上で「まてまて、俺には婚約者(メティア)がいるんだ。キミのことは愛せない」とか言っちゃうような、所謂ハーレムを期待した。

 異世界に来たからには一度は言われてみたい。

 生前でいう人権がない拘束は嫌だが、それでもハーレム的拘束はしてみたい。

 異世界に来たら一度は考えるのは、異世界ものを描いた作者としての(さが)か。


 うへへへと妄想していたところで、檻の荷台の傍に着いた。


 六歳の子どもの背丈より高い荷台に、雲梯(うんてい)の要領で上る。

 そして、目に飛び込んできたのは青みがかった白または銀色の髪と、褐色肌の女性だった。

 ぱっと見、どストライクの女性だ。


――奴隷から始まるハーレムがここからはじまる! やったね異世界! ありがとう異世界! 周りから好かれるやれやれ系主人公を目指すぜ!


 などと、気持ち悪く妄想して近づいたところで、女性の容態に気づく。

 

 女性の眼尻が涙に濡れ、口は鯉のようにパクパクと開け閉めして息が絶え絶えとしており、口の端からは涎が垂れ落ち、左胸の心臓があるところに手を当てていた。

 顔は褐色肌ではなく土気色に変化し脂汗を流している。

 そして、極めつけは女性の左側の胸から下腹部にかけて、紋様が光の強弱を以って(うごめ)く。

 ひと目で異常と分かる。

 急いで檻を破壊し近寄って彼女の身体を抱く。

 外部からの衝撃で気づいたのか、虚ろな目で、彼女はたった一言、俺にこう言った。


「……死にたくない」と。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その声を聞いたとき、意味を理解するよりも先に"作者"としての力が鎌首をもたげ、燦然玲瓏と輝く『十全の理』が起動する。

 十全の理の力で彼女を見ると、左半身の紋様から、あの腐れハゲデブタへ向かって魔力パスが伸びていた。


――よく分からないが、これが悪さをしているとみていいだろう。


 意味を理解する前に、彼女が間に合わなくなってしまう可能性がある。

 なので、即彼女を中心に『世界(ワールドスフィア)』を作り、内外を遮断する。

 遮断と同時にハゲデブタと繋いでいた魔力パスも切れる。


 ハゲデブタが溌剌と切り結んでいたが、『世界(ワールドスフィア)』を閉じた瞬間に奴の身体が鈍ったが、多分疲れだろう。

 奴の状況など興味ない。

 狼が来るようであれば殺す。


 その間に、彼女を介抱する。

世界(ワールドスフィア)』で世界を閉じたことにより、多少呼吸が戻るが、激痛なのか変わらず苦痛に顔を歪ませている。


 もし無理に接続された魔力パスが原因であれば、『世界』を閉じた今ならば体調などが安定するだろうが、根本的解決にならないため魔力パスの接続を断ち切る必要がある。

 ただ、この魔力パスの効果が分からない。

 分からないが、やるしかない。


 下衆な言い方をするが、婚約した身とはいえ、好みどストライクの女性だ。

 死なれるのは非常に目覚めが悪い。


 だからまず、彼女本人に『魔法破壊(ディスペル)』を使用する。

 これで魔力パスが切れれば良かったが、相変わらず魔力パスがハゲデブタに向かって伸びていた。

 常在(パッシブ)魔法の『多重起動(マルチタスク)』を使い、『魔力装填(エンチャント・マジックス)』で『魔法破壊(ディスペル)』を宿した右手で彼女の頭を触れ、左手に宿した『魔力撹乱(カウンタースペル)』を左半身の紋様に触れる。

 ガラスが割れたような音が左半身で蠢く紋様から聞こえ、紋様の蠢いていた光が消えかかり、彼女の息遣いも安定し始めたが、魔力パスは未だ繋がっている。


 今度は右手に『魔力支配(マジックスナッチャー)』を纏わせ、紋様があった場所に触れる。

『魔力支配』による魔力の手指が、魔力パスに触れる。

 効能が相変わらず分からないが、『十全の理』による強引な魔力で魔力パスを千切り、『十全の理』に繋げる。

 専用に作られていない魔力パスに過大な負荷を与えて破壊するのが目的。


 具体的に言えば、無尽蔵の精製された魔力を流し込む。

 流し込んだ結果、秒に満たない時間で魔力パスが破損し、霧散した。

 彼女の左半身に蠢いていた光は完全に消え、魔力パスも見当たらなくなった。

 強張っていた彼女の身体もぐにゃりと力が抜け、俺の血塗られた両腕のなかで彼女は気を失っており、安定した息遣いが聞こえた。


 彼女の潜在属性が分からないが、とりあえず自分以外に初めて使う無色の属性回復魔法(ヒール)を使用し、『世界(ワールドスフィア)』を閉じた。


世界(ワールドスフィア)』が閉じても彼女の顔色が悪くなることも無く、すぅすぅと寝息を立てていた。


 なお、あのブタは『世界』を閉じた瞬間に、耳と両手足から血が噴き出していた。

 その瞬間を逃さなかった狼によって、ブタは地面に寝かされ、耳と両手足以外から血を噴き出すことになっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ