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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-プロローグ-
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対人戦 II


 漸く再起動したハゲデブタが、逃げ出した。

 しかしまわりをかこまれてしまったなんてことはなく、そのまま御者へ向かっていった。

 代わりにわらわらと、革の鎧や、鉄の胸当てを当てているおっさんとかオネーサンとかが、俺の周りを囲ってくる。

 それぞれ、各々の武器を持ち、殺意と敵意と害意を当ててくる。


――殺していいのかな、これ。


 この状況仕方ないよね、と天使(りせい)悪魔(かんじょう)に聞く。

 理性と感情が満場一致で「殺せ」と結論出した。

 得物を出して人を殺すほどの殺意と敵意と害意を当ててくる訳だ。

 生前にやっていたゲームで「殺しているんだ。殺されもするさ」とは、ゲームで特に印象に残った台詞だ。

 

 殺す気でいるんだ。殺される覚悟も出来ている筈だし、出来ていなくてもこちらは普通に殺す気である。

 不殺なんて器用なことは俺には出来ない。

 誰もが笑っていられる物語を書ける作者との違いは、やはり不殺を貫けることだと思う。

 俺には無理だ。


――無理だから、この世界に来るまで形に出来なくて死ぬ間際であんな後悔をした訳だが。


 殺意と敵意と害意に囲まれている中で、リーダーと思われるオネーサマが一歩前に出て、俺に向かって話しかけてくる。


「やあ、少年。さっきの騎士サマを()った手際は凄いね! どうやったらあんなのが出来るんだい?」

 この手の輩はまともにやりあっても仕方がない。

「…………、」

「あららら、だんまりかい」とオネーサマは肩を竦める。


 対する俺は、魔力を高める。

 久しぶりの対人戦である。

 魔力汚染がない比較的クリーンな魔法陣で決着を付けることを考える。

 更に、婚約した身とはいえ一応俺は男だ。女性の身体には興味がある。

 なので、野郎はともかく女性をひき肉(ミンチ)にするのは気が引ける。


 よって風属性は却下。

 同理由で地属性も却下。

 火属性で一気に燃やし尽くせば、ひき(ミンチ)は見なくても済むが、延焼する危険性があるし、爆縮(インパクトエクスプロージョン)とかだと、木端微塵に失敗したら焼けたひき肉になる。

 出来ることなら喧嘩売ってきたことを、後悔させながらやりたいところ。


 そして選んだ属性は水。

 それも氷属性。

「…………、」

「でも、まぁアタシは少年みたいな子は好きだよ」


「……言うことを利かない子どもに折檻(せっかん)する意味でですかね」

「おおう、難しい言葉を知っているね、少年。そのつもりはないさ。

アタシと寝台の上でおねんねして、極上の空間を味わうだけさ」

「……へえ」


 自分で自分のことを極上と言うか。

 面白いオネーサマだな、この女。

「で、アタシ達に騎士サマを殺った方法を教えて欲しいね!」

「殺意と敵意と害意が満々な中で教えることなんて出来ないだろ……バカじゃねーのオバサン」


「……少年、中々失礼だね。アタシはまだ二十五歳だよ」

 賞味期限g……いや、これ以上はいけない。

「俺より年上はオバサンだな」

「……少年は、いくつ?」

「六歳」


 妙な沈黙が降りる。

 当然だろう。

 どこの村からも離れており、少なくともこの地に付くには二日は掛かる。

 そんなところに六歳がいるのだ。

 普通はあり得ないだろう。


 殺意と敵意と害意を醸し出しているオニーサンやおっさん、オネーサンが狼狽(うろた)えている。

 こちらは知ったことではないので、話を続けようとしたところで、ハゲデブタを思い出して探してみれば、三百メートル先に御者の馬車が先行していた。


 人に殺意をぶつけておいて、旗色が悪くなると尻尾を巻いてそそくさと逃げることは許さない。

 戦略的撤退?

 戦略的撤退をするなら殿(しんがり)が必要だな。

 ああ、こいつらが生贄(いけにえ)か。

 俺相手の殿とはこいつらも可哀想に。


「あのクソハゲデブタを殺すから、あんたらが道を空けてくれると助かるんだが」

「少年、それは出来ない相談だ。あんなのでも雇い主だからね」

 可哀想に雇い主は選べないのか。


「俺相手にあんたらを殿にしているようだが……、つまりここがあんたらの死地か」

「死地? この人数差で? 皆笑っていいよ! この少年がアタシ達を殺すんだとさ!」

 と、リーダー格のオネーサマとその愉快な仲間たちが爆笑する。


――高々十二人程度の集団(パーティー)で、どこからこの自信が出るんだろうか。


 タービュランスの時点でドン引きするほどの火力差なのにだぞ……?


 面倒だから、とりあえずハゲデブタを逃さないように内外遮断の『世界(ワールドスフィア)』を使う。


――世界が急速な勢いで閉じる。


 設置点をミスって、ハゲデブタの馬を前後に遮断し分断する。

 勢い良く走っていたため、馬の前身と後身が赤い臓物と黄白い脂肪が糸を引くように分離させた。

 馬の断末魔は聞こえない。


 内側と外側で遮断したためだ。

 外側で嘶く断末魔は内側には聞こえない。

 分断した『世界(ワールドスフィア)』の壁にはべったりとした血糊が付着する。

 遠いため、実際に起きている姿は見えないが『世界(ワールドスフィア)』の術者であるため、大体の感覚は感じる。


――勿体無い。


 外側の馬がまき散らした血肉で、狼が寄ってくるだろう。

 ぶっちゃけ食べたい。


――この世界に来てからだいぶ肉食系男子になったと思う。


 感覚的に飯テロされた傍ら、目の前で笑い転げているバカ共に冷たい目を向ける。

「…………、はぁ」と、思わずため息を漏らす。

 剣を抜いた時点で戦闘中なのに、本人達はやる気が無いとかこの世界(いせかい)は舐めプで出来ているのだろうか。

 どうせ舐めプなら三ヶ月前の出来事も舐め舐めべろりんちょ状態だったら良かったのになと思う。


 もし、そうであれば今頃姉さんとメティアとで王国立の学校へ行ってたかもしれない。

 いや、入学できる年齢は八歳からか。

 どちらにせよ、楽しい楽しい学園生活だったのにと思う。

 

 なんて詮無きことを考えながら無理矢理、戦闘を再開させる。

 彼らに使う魔法陣は『奪熱凍結の言霊(ニブルヘイム)』。

 最低駆動であれば、対象の熱を奪う程度で、いるかは不明だがリザードマンとかああいう変温動物を強制冬眠させる程度の魔法陣だ。

 低級駆動だと、周辺からも熱を奪い代わりに寒波をまき散らす。

 通常駆動では、低級駆動の発展系として対象の熱を奪い即凍死させ、周辺の熱も奪い寒波を何重にも発生させ、そして自律式なので動き回る。

 特級駆動は知らない。


 そんな魔法陣を通常駆動で起動。

 明日の朝まで自動魔法(オートスペル)と凍結の棺を使う程度の魔力は残して、全魔力をこれの維持に使う。

 そして発生するのは、奇妙な文字配列と魔力線で描かれた幾何学模様の魔法陣。

 それが、何重にも重なり球体状になる。


 それ自体が持つ異様な魔力の重圧(プレッシャー)に目の前のパーティー共の顔色が変わる。

 それらは一様に「なんだ、あれは」という顔である。

 それを気丈にあのオネーサマが問う。


「それ、なに……?」

「……聞きたいの? あんなに聞きたがってたのに」と嫌味な笑顔と共に笑いかける。

 対する立体魔法陣の方は、大型業務用エアコンのような唸り声を上げて、使用する魔力を構築していく。

 ビリビリと皮膚を灼くような魔力の奔流。

 通常駆動に掛ける魔力が少なかったため、拳骨大ぐらいの大きさの球体が生まれる。


 球体の直下が凍結し始める。

 直下にはやはり魔法陣。

 色は蒼白。魔法陣に描かれている紋章は雪の結晶をイメージしたもの。

 見るだけで雪だと分かるようなもの。


 その魔法陣が現れたのは一瞬。

 一瞬後には、魔法陣から上に向かって伸びる氷柱(つらら)が現れる。


――夢にまで見た、『奪熱凍結の言霊(ニブルヘイム)』の現象(エフェクト)だが改めて見ると中々凄い。


 具体的に言えば、妄想万歳。

 形になって最高。

 見た目の派手さが中々素晴らしい。

 何故なら、ダイヤモンドダストが見れるようになるから。


 周辺の温度が下がり、口から吐く息が白くなる。

 俺は術者なので、『奪熱凍結の言霊(ニブルヘイム)』による温度変化の影響は受けないが、彼らは違う。

 身体が震えている。

 

 それは恐怖からなのか、その魔法陣の効果か。

 はたまたその両方か。

 彼らの歯の根が合わないのか、カチカチと音もする。


 オネーサマが俺に提案してきた。

「ごめんよ、少年。

ほら、謝るから。これ解除してくれないかしら」


「……ん、なんで?」

「ほ、ほら。寒いから」

「……ん、なんで?」

「え、だって」


「いや、最初に剣を抜いたのはそっちだよ?

なんで、こっちが譲歩しないといけないの?」

 と、六歳の少年らしく理屈を捏ねる。

「わざわざこっちはあのハゲデブタを殺すから、『どいて』と言ったよね。

それなのにどかないで、笑ってたけど殺る気あるの?」


「あ、アタシ達は殺る気なんかないさ。ほら、あのハゲデブを殺ってきてい――」

「いや、それは無いでしょ。

あのハゲデブのことを『あんなのでも雇い主』と言い切った訳だ。

つまりのハゲデブの尻拭いを受けることになったんだ。


……ぐちゃぐちゃ文句言ってるんじゃねえよ、クソアマ。

黙って剣握ってろ。こっちに殺意ぶつけて来たんだ。殺してやるよ」


「……少年、まだ六歳だろ。そんな汚い言葉使うとアタシ達怒るよ?」

「……へえ、このクソ寒い中で怒る余裕あるんだ。

まあ、俺は寒くないけど」

 と一旦声を切る。

 そういや、檻の中にいた女性のことを忘れていた。

 新しく『世界(ワールドスフィア)』を作り遮断する。


――よし、これで巻き込まれることはない。


 そして、オネーサマに喧嘩を売る。

「良かったなオネーサン、こちとらまだ思春期到達してないからさ。

あんたらオネーサンたちを犯すとか、その辺りの欲望ないからさ、生娘のまま死ねるよ」


「…………、」

 オネーサンのこめかみがピクピク動いている。


――そろそろ一人殺しておくか。


 などと思ったところでおっさんが一人飛び出してきた。


――お、来た。


 自律式『奪熱凍結の言霊(ニブルヘイム)』が反応するかと思って見たら、ちゃんと反応した。

 結果は、おっさん本体とその周辺の熱を奪い、凍結。

 一瞬にして氷像が出来る。


「「ひっ」」

 オネーサン達が息を呑む。

 血が流れたりしない、とてもクリーンな殺し方である。

 しかも解凍すれば、非常食になる。

 流石に人間は食わないが。


 これ以上火力差を見せつけても仕方がないので、一思いに殺戮する。

「六歳なのに、どうしてこんな事が出来るの! 鬼! 悪魔!」と叫ばれたが、この世界に鬼と悪魔という概念があるんだなあと、逆に感心した。

 (おとし)められても別にどうも思わなかった。

 あんまり認めたくはないが、三ヶ月前のことで多分俺は狂ったんだろうなと自嘲した。


 ちなみにオネーサンらから必死に命乞いをされたので、最低限の装備以外をひん剥いてポイした。

 運が良ければ助かるだろう。

 運が普通だと……?

 ……この辺りって実は狼とか多いんだよね。


 ハゲデブタと御者はガタガタ震えていたので、御者に馬の血をぶっかけて開放した。

 オネーサンらに掛かる不幸を、この御者に擦ってあげた俺はきっと神様だ。

 称えるが良い、と思ってオネーサンらがいた空間を見やっても、既にいなかった。

 ……全く、信心が足りない。



 

 さて、檻の中の女性の様子でも見てみますか。



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