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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-プロローグ-
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対人戦 I

※警告※

殺人描写あります。


作者名とアカウントネームが違うため、私の活動報告に直接飛べません。目次の下部にある「作者マイページ」から、私のアカウントの活動報告の閲覧出来ます。


 馬が脇を通り、御者が俺を睨む。

 まあ、当然だろう。

 なにせ今の俺は、森で襲いかかってきたあの冷凍食品(ライオン)のでかい後ろ足をミディアムレアで焼かれた肉を、齧りながら歩いている子どもなのだ。


 後ろ足のデカさが四十センチメートル程と、普通にデカい。

 そして、そんなものを齧っている六歳児。

 どうみても異常である。

 普通、この歳であれば餌にされる側の筈なのに、返り討ちにしているのだ。

 思わず見てしまうのも、頷ける。


 睨まれても、気にせず頬張る。

 デカい生き物の肉なので筋張っていると思いきや、火属性の攻性魔法寄りの自衛魔法で炙ると、物凄く柔らかくなって、六歳児の顎で十分噛み千切れるようになるのだ。

 流石異世界、訳が分からない。


 炙るだけで柔らかくなるなんて、生前の世界でそんなお肉があるとは思えない。

 あるかもしれないけど。


 もっちゃもっちゃと咀嚼しながら、馬車の通過を待つ。

 すると、積み荷の幌が無いただの荷車の上に檻が載っているものがあった。


 どうやら、奴隷を入れる檻のようだ。

 それを冷めた目で見る、俺。


 web小説とかラノベだと『奴隷にする奴は悪』とか『奴隷を開放!』とかそういう系統の話があるが、俺個人としては、『奴隷』という存在は国を動かすには必要なモノで、それを扱う商人は必要悪であると思う。


 借金をかたに迫る奴はクソだとは思うが、返せない奴が借金を(こさ)えるのも悪い。

 そいつらに貸した金をどうやって回収するか、臓器売買とか犯罪に手を染めさせる、娘がいたら沈めるとか色々あるだろうが、この世界は異世界だ。


 臓器売買なんて売れるとは思えないし、そもそも手術なんて技術あるとは思えない。

 では、犯罪かと思えばド素人に殺人技術突っ込ませる時間と金が勿体無い。

 生前の世界であれば、銃を渡して鉄砲玉行ってこーいとか、携帯電話獲得のために複数件ハシゴさせるとか、オレオレ詐欺の片棒とか、教育も犯罪も片手間で出来ることがあった。

 だが、この世界では携帯電話という万能な犯罪御用達アイテムなどない。


 娘がいれば沈めるというのも娼館にブチ込む程度ならあるだろうが、これ自体は食い扶持を稼げなくなった家庭、または女性がやることで、改めてやることでもない。

 となると、人身売買しかない。

 つまり、奴隷だ。


 なので、少なくとも異世界の範疇内でいえば容認派である。

 ただ、攫って奴隷にするようなカスは無理だ。

 あと最低限の人権はあるべき。

 丸一日炭鉱掘りとか、槍とか矢の弾除け用肉壁とか殺意沸く。

 それらを含めての奴隷なんだろうが、それでもそこら辺は見過ごせない。



 なんてことを考えつつ、後ろ足の肉を咀嚼しながらぼんやりと檻を見つめていると、一人だけ入っていた。

 よく見なくても女性だった。

 肌は浅黒いため、太陽を浴びて生活していた家庭なのだろう。


 沈ませられる女性なのかなと思っていたところ、三ヶ月前にみたあのブタみたいな騎士の格好をしたナマモノ三人が下卑た嗤いを浮かべながら、馬に乗って談話していた。

 言っていることはよくわからないが、あの檻に入っている女性は魔族なのだという。

 村長は、『魔族が必要である』と言っていた。


 つまり、あの女性は借金をかたに沈められるのではなく、必要なことをされるのであろう。

 可哀想だなーとは思うが、代わりに俺が借金を持つなんてことは出来ない。


 メティアと婚約した身だ。

 結婚費用だって必要だし、メティアではない別の女性のために頑張ったら、きっとメティアの心に嫉妬の炎が灯るだろう。

 生前は草食系男子で通っていた身だ。

 嫉妬されてみたいとは思うが、そんなので刃傷沙汰(にんじょうざた)になったらたまったものではない。

 だから、ここは敢えてスルー。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


――スルーしていたのに、なんで俺はこのブタ共に絡まれているんだろうな。


 理由として思いつくのはこの肉か。

 街から離れていうのに何故か6歳児の子どもがいるからか。

 はたまた、檻の中の女性を見ていたからか。

 もしくは、その三つの合わせ技か。


 努めてテンパった具合で、声を出す。

「なんの……ごようです……か?」と涙混じりの声音だ。

 これできっとブタ共は、羊を狩る狼と勘違いするチワワになるだろう。


「おい、ガキ。……その肉、よこしな」


――子どもに寄ってたかった台詞が肉かいな……。


 というか、食いかけを所望かよ、というツッコミと、お前らブタよりも数十倍強い冷凍食品(ライオン)を殺している子どもに、脅しを掛けるというのは、いい度胸だな。


 喧嘩を売る相手を間違えすぎていてドン引きする。

「え、嫌ですよ。何言っているんですか」と、思わず大まじめに拒否する。

 俺の返答が気に入らないのか、ハゲデブタ(ハゲ+デブ+ブタ)が眉がピクリと動く。


「黙って、肉を寄越せば良かったのになクソガキ」とハゲデブタが精一杯の虚勢を張る。


――キャンキャン喧しく吼えるところが、まさにチワワだなー。などと、懐かしむように目を細めてハゲデブタを見る。


「人が下手(したて)に出ても、渡さないのかね。全く田舎のガキというものは」と肩を竦めるハゲデブタ。


――下手ってどこら辺が?

 と、思わず内心ツッコミを入れる俺。

「もういい、その田舎者は殺せ」とハゲデブタに付いていたヒョロいのと、体格がよくいい感じに日に焼けてるハゲがこれ見よがしに(フットマンズソード)を抜く。


 思わぬところで、戦闘の火蓋が切って落とされた……訳はなく、最低駆動の『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』で、あっさりとヒョロいのの首を千切り飛ばす。

 首をポーンと効果音が鳴っちゃうぐらいの呆気なさを感じさせる。

 ハゲデブタと日焼けハゲが素っ頓狂に「「は?」」と声を漏らす。

 こちらはあくまで、ちょっと左手を捻っただけである。


――三ヶ月前のあの事件ではそこまで気にしなかったが、最低駆動でも『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』は過剰火力過ぎるな。


 特級駆動させてみたいところだが、そんな場面あるのか。

 少なくともこの世界では使えない気がする。

 などと考えていると、奇声を上げ日焼けハゲが突っ込んできた。

最終騎士(クラウン・シュヴァリエ)』を使わずに軽く避ける。


 代わりに日焼けハゲに当たるのは『魔力装填(エンチャント・マジックス)乱気流(タービュランス)』を纏った左手。

 日焼けハゲに発生する魔法はその名の通り「乱気流」。

 但しこの魔法の乱気流はどちらかというと、「ダウンバースト」に近い。

 つまり要約すれば叩きつける風だ。

 それを人間の身体に当てる。

 当てた場所は額。


 それにより額のみに凶悪な風圧をぶつけられ、(くび)の骨を折り額から脳に風の衝撃が通り、脳が風圧によるミキサーに掛けられながら、後頭部から砕けた頭蓋骨とピンク色のグチャグチャにした脳漿(のうしょう)が飛び散る。

 黒曜石っぽいナイフに装填させた風槍(ピアシングス)と同程度の威力だが、タービュランスの方が単体の魔法としてはえげつない存在である。


 なにせ『竜風衝墜(フィアード・テンペズム)』の下の魔法が「タービュランス」。

 俺が持っている魔法陣系を除いた風魔法の中で最高に位置する魔法だ。

 それをわざわざ魔力装填させてまで使う。

 何故使うか。

 ただの気分である。


 生前は地属性魔法が好きだったが、この異世界に来てから風属性の使いやすさに涙が出る。

 森では木に成っている実を取るのに木登りするにも時間が掛かるし、それ以上にライオンに襲われる。

 なので、木の実が成っている枝を最低駆動させた『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』で切って木の実を得ていた。


吸襲風吼(フロギストン・エアー)』先生の使いやすさに本当に涙がちょちょ切れる。

 生活魔法の風であれば枝を切る、所謂「ウィンドカッター」なるものが使えるようだが、以前より生活魔法が使えない俺は、『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』先生に頼っていた。

 もし魔法陣に習熟度があったら、『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』の習熟度は相当高いと思われる。

 もちろん、ステータスなるものが見えない異世界なので、習熟度などは知らない。


 まあそんな風魔法を、たかが人間相手に使う。

 耐えられなくて当然である。

 事実、即死している。


 日焼けハゲの脳漿はハゲデブタがまともに食らったようで、ハゲデブタの呆然とした顔にピンク色のモノがへばりついている。

 下手人は俺だが、ぶっちゃけグモくて気持ち悪い。

 吐きたくなってきた。



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