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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第1章-準備-
46/503

影響 ★


 一日と半日ぶりの飯は美味かった

 間に合わせ? とんでもない、十分完成品だ。

 サンドイッチのようにパンで肉と野菜を挟んでいるものを食っているのだが、美味かった。

 お婆さんの話を聞いてみれば、パンをこのように挟むのは珍しいのだという。


 つまり、生前の世界でよく目にしたサンドイッチは、この世界では珍しい逸品でおいそれと食べることが出来ない。

 こんなところで、異世界と生前の世界の差を見せつけられると、感動する。

 主に「生前の世界に帰りたいな」と思うホームシック的な意味で。


 昔からよくある異世界ものの小説にあるように、サンドイッチとかを一般的にして醤油とか作って食糧事情に革命など起こしてみるか……? などと考えるものの、醤油など作っているところを見たことない。

 生前の俺は関東生まれで小学校に醤油工場行くが、生憎俺は風邪で休んだ。

 つまり生前の記憶も検索できる魔法があっても、それを使っても醤油は作れない。

 大豆を発酵させて……、あとはどうするんだ? って言う部分しか分からない。


――本当に俺って、黒歴史しか分かんねーわ……。

 戦略SLG的な内政とかあの辺りプレイしていないから分からないし、クローバー使った畑作も噂程度に聞いたことはあっても実際はどうするかは分からない。

 こうなるんだったらWikipediaでも、読んで勉強すりゃよかったと思っても後の祭り。


 と、今後のためにもならないようなことを考えながら、サンドイッチを頬張る。


「……食べながらでいい、三について聞いて欲しい」

「…………、」

 俺は頬張りながら目で「早く続きを」と促す。


「怒らないで聞いて欲しい。

……結論から述べる。

貴様は、この村にはいられない。

即刻出ていくか、死ね」


 村長の発言を聞いたとき、俺は頭が真っ白になった。


――村長は今なんて言った?


――死ね、と言った?


 自分の混乱を治すために、理由を求める。

「…………、理由は」


「簡単じゃ。貴様ら以外の子どもが、あの剣と太陽で死んだと思われている。

昨日は酷かった。

あの太陽で死なずに済んだ者がいないかと、村中を(しらみ)潰しに探す者が多くてな。

結局生き残ったのは、貴様とフロリア家の母娘とフォロット家の娘、テト坊とその子分二人の七人のみじゃ」


――そんな……。


「いや…………、やり過ぎたことは認める。だけど、直接やったの――」


「当然、それ以外もある! 貴様のあのときの心情は当然じゃ。母と姉があのようになれば怒るのも当然!

じゃが、その感情の魔力が! 周辺を毒したのを分からないのか!」


「…………、」


「……許して欲しい。六歳の子に『即刻出ていくか』または『死ね』などをいうことは、大人が言う台詞ではない。

儂もその話を民草から聞くまでは、『貴様を殺すことはさせない』と、どうにかして民草を納得させようと思ったのじゃ。

でも、それが出来なくなったのじゃ。下手をすれば、村が滅ぶ事態じゃ」


「…………何が起きたのですか」

 努めて冷静に続きを促す。


「何が起きたじゃと…………? 分からぬか!

その感情の魔力で、森の木々と虫と獣を死滅させたのじゃ!

すなわち、畑が全滅じゃ! そして森の木々と獣が死滅したお陰で森からも狩りが出来ぬ!」

 強い剣幕で怒鳴られる。


「……今年の大収穫の時期は過ぎておるから、今年は大丈夫じゃが、来年からが無理じゃろうな。

狩りも出来ぬから、動物の肉はもう取れぬ。こうなると、もう駄目じゃ。

幸せであったこの村は、来年から死が蔓延する」

 一転してもう諦めたかのような声音になり。


「そうならないためにも、少女たちは娼館に売られるじゃろう。

村の血を絶やさないためにも、娼館で新しい血を受け入れて、新しい地で育むしかない。

フォロット家の子はあの娘しかおらぬから、娼館には売られないじゃろう。

第一、あの子は魔族じゃから娼館に売られれば、即刻連れ攫われるじゃろう」

 ……国にな。と注釈が付き、


「貴様の姉、フロリア家の娘も貴様がいなければあの子しかおらぬから、売れないじゃろう。

もし、売られたとしたら貴様らの父『宮廷騎士団長の娘』として売られ、変態貴族の慰み者になるじゃろうな。

そういった選択枝を貴様が突きつけたのじゃ、この村に」


「…………そう、ですか」

「出来ることなら、この村で骨を埋めて欲しかった。平和であればよかった。

それは儂の本音じゃ。偽りはない。

じゃが、この村の民草の想いは……」

 心底沈痛そうな声音で。


「儂は生まれて六年の子に『死ね』とは言いたくはない。

咎人ではあるが、理由があっての咎人じゃ。儂の想いとしては、貴様側に傾いておる。

それだけは信じて欲しい」

 村長は話を続ける。


「直接、貴様と話しをした。耳障りの悪い言葉じゃから、儂を殺してもよい。

じゃが、儂を殺して無理矢理、住んでいたとしても村人の心証は最悪じゃ。

下手をすれば、母娘が今度は村民に(けが)される可能性もある。

貴様は、死んだことにして出て行け。


――なに、貴様が出て行けば、あとはあの太陽と剣を使えるものはいない。

フォロット家の娘は元より、貴様の姉の潜在属性は火じゃ。

火が擬似太陽を作れたとしても雷は無理じゃ。

娘たちも無事じゃろう」

 一度村長さんは言葉を切り。


「今日はもう遅いし、心配していた貴様の姉とフォロット家の娘に何も言わずに出て行くのは、彼女らに対して不誠実。

だから」


――明日の夜に出て行きなさい。



 と、涙声で村長は俺に言った。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


――どうしてこうなったのか。


 話は簡単だ。

 つまるところ、やり過ぎたのだ。

 "作者(かみさま)"であっても人の身であれば(しがらみ)はある。


 大火力のチートがあって、都市の防衛にとっても最適ですよ! といってもやりすぎて防衛する都市が滅んでは意味が無い。

 もう、俺の中の歴史(じんせい)は滅茶苦茶だ。

 軽傷で回避なんかできなかった。


 軽傷で回避なんて夢のまた夢だった。

 人の身では難しかった。

 俺には『十全の理(チート)』は過ぎたモノだった。


 姉さんもメティアも守護(まも)ると宣言した、俺が結局約束を守れなかった。

 どの口が言うんだ。

 俺が無理してこの村にいれば、姉さんと母さんが危険な目に遭う。

 どうすればいいんだよ。


 約束を守れなかったんだ。


――ああ、畜生。


 寝よう。

 このことは、とにかく姉さんに明日伝えないと。

 

 そして、俺は宛てがわれた部屋の寝台に突っ伏した。


 一時期あんなに邪魔だと思い、最近は愛しかった姉さんの温もりが今はないことに、声をあげずに泣いた。



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