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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第1章-準備-
45/503

聞きたいこと ★

 俺は寝台(ベッド)の上で起きた。

 最後の記憶が確かであれば床にぶっ倒れた筈だったが、どうやらあの村長さんが運んでくれたようだ。

 寝台に寝かせてくれたお陰で、身体の節々が痛くて不愉快になることもなく、スッキリとは言わないにしても疲れは飛んだようだ。


 砕けた左手の方は、魔力が枯渇しても生命力の方が仕事をしていたようで、治りかけとまではいかないが、かなり痛みは引いており、左手を下にして寝てても違和感がない。

 昨日のぶっ倒れる前までは、床に倒れたとき「痛っ」と思いつつ、眠気が勝って寝たが、寝ている間に自然治癒されたようで痛みを得ない。

 ただ、余りの痛みに脳が痛覚を遮断しているだけかもしれないので、属性回復魔法(ヒール)を掛ける必要があるようだ。

 その属性回復魔法を使う魔力の方も素の魔力容量まで回復したようなので、属性回復魔法を使う。


 ――今のうちに回復しておかないと、変な癖つきそうだしな。


 優しい無色の光が左腕全体を包み込む。

 痛みがなく自然治癒されていると思われている左腕なので、傍目治っているような気配は見えない。

 分かり易い傷があればいいのだが、如何せん鬱血しているような部分ばかりなので、本当に属性回復魔法の効果が出ているのか分からないので、いつもなら数秒程度で終わらせる、属性回復魔法も数分掛けた。


――こういうときに、自身の耐久力とかMaxHP(さいだいたいりょく)とかわかるステータスというものが欲しくなるから困る。


 属性回復魔法を使ってから、左腕を振る。

 少なくとも痛くはない。

 壁を殴れば、本当に治ったかわかるかもしれないが、他人の家なので自重をする。

 自宅ならやっていた。


 試しに左腕に『魔力装填(エンチャントマジックス)』だけを使う。

 エンチャントさせる魔法はなし。

 ピリピリとした痛痒感は感じるが、それ以上の痛みなどは感じない。

――咄嗟の魔法は大丈夫かな。


 もし、村長が俺と姉とメティアに対して害意ある存在であれば『殺して』逃げる必要がある。

 まず無いとは思うが、念のため『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』と呼ばれる魔法陣を展開する準備はしておく。

 なぜ、『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』なのかと、問われれば、


――それ以外は過剰火力すぎる。


 一番イメージし易い、黒歴史ノートの花型である『十全の理(グレイテストマジック)』内に格納されており、語呂がいいからと名前を付けて、その後に効果を設定した黒歴史ノートの中で最古の魔法の一つ。

 効果は設置点を決め、そこを中心に周りの空気を吸い込むのが元々の効果。

 転じて、真空の刃を手指に装着、または真空の刃を飛ばすといった事もできる。


 ひと度、人間程度の近くに設置点を作り起動すれば、周りの空気を吸い込み真空を作る。

 肉体を切り裂きながら切り裂いた傷を歪みの場所とし、そこを更に吸い込む。

 結果は分からない、分からないが きっと手術をする技術があって、その医者が傷を見たら治せないと匙を投げるぐらいにギザギザに千切られるだろう。

 ぶちんと引き千切られる。


 そして最古の魔法陣であるがゆえに効果も全て知っている。

 だからある程度加減も出来る。

 それ故の屋内用魔法陣。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 寝台から起き上がり見回す。

 この部屋には俺しかいないようだった。

 当然か。


 太陽が現れた学校方面から、えっちらおっちらと母親とはいえ気絶している大人を、傍目からみて簡単におんぶしている、左腕が砕けていて男の子がいて、沈痛な面持ちで歩いている女の子が2人いたら、"何か"があってその"何か"をやった少年と少女。

 一緒の部屋に入れておくと何かが起きる可能性がある。


 当然の処置だろう。

 自分に掛かっていた毛布を剥がす。

 別に包帯とか巻かれているわけではなく、血と泥でぐちゃぐちゃな服のまま寝かせてくれていたようだった。

 ただ、血と泥は乾いていたようで毛布には跡はついていなかった。


 身体が「まだ寝足りないよう」と悲鳴を上げているが、属性回復魔法を使ったお陰で頭が覚醒している。

 窓を見ると暗かった。

 ぶっ倒れてから丸一日経っているのか、それとも身体の悲鳴通りにまだ数時間しか寝ていないのか。

 どちらにせよ、頭が覚醒しているので、このままでは寝れないし、正直に言うとお腹が減った。

 もし、何時か分からないが家の人が起きているのであれば、ちょっと恵んで貰おうと寝台から立ち、部屋から出る。


 俺が寝ていた部屋は二階だったようだ。

 二階の通路から身を乗り出して、一階を伺うと灯りが点いており、人の気配がした。

 仮にも村長の家に『泥棒』なんて存在はいないだろう。


 だが、気になったので行ってみることにした。

 何かあれば『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』もある。

 過剰火力ならば、重力(グラビトン)磁力(マグネティックス)もある。

 遅れはまずない。


――危険であれば『十全の理』起動するしな。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 灯りの灯った部屋に付くと、そこには村長さんがおり、椅子に座り長机に肘を乗せ、部屋口から顔を覗かせた、俺をじっと見ていた。


――この顔、熊っぽいな。熊系獣人か?


「そろそろ起きてくる頃合いだと思った」と熊顔の村長さんは言った。

「頃合い?」


「ああ、頃合い。

貴様はまる1日寝ていた。

その間、フォロット家とフロリア家の娘が、中々起きない貴様を心配そうに看病しておった」

「…………、心配を余分に掛けてしまったようで失礼致しました」

「……ところで貴様に魔族の血は混ざっておるのかね」

「……何故です?」


「貴様の受け答え方が、魔族と種族の子に似ているからだよ。

フロリア家の娘はいかにもな人族らしい受け答え方だったから、な」

「…………、俺を"不貞"の子だと?」

 左手に纏わせていた魔力を高め、ついでとばかりに右手の『竜風衝墜(フィアード・テンペズム)』も使えるようにしておく。


竜風衝墜(フィアード・テンペズム)』とは『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』と同じく風系で且つ最古の魔法陣だ。

 違いは『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』では吸引系だが、『竜風衝墜(フィアード・テンペズム)』は射出系となる。

 つまりひとたび起動すれば、竜巻が発生する。

 強大な魔力を使うため、並の竜巻ではない。

 大地を抉り、全てを削り、甚大な被害を(もたら)す魔法陣。


 それらの風系の魔法陣を両手に纏わせる。


 熊顔の村長に敵意は無い、害意も感じられない。

 それでも、気持ちの悪い"作者"を育ててくれた母さんを(おとし)めることは許さない。


「気を悪くしたのなら済まない。

謝罪する。

もちろん、許さないというのであれば儂の命を断ってもよい。

だが、儂の家内や村の民草に怒りを向けないで欲しい」


「一方的にそっちから喧嘩を売ってきたから買ったのに、何故売った側が条件突きつけるのです?

殺ってもいいんですよ。

こちらは、数人殺してきたので、今更1人増えようが500人増えようが、腕に残る気持ち悪いという感覚は変わりません。

村長さん、貴方はそうなることを選んだんです」


『十全の理』の精製された魔力を使用せずに、自身の魔力だけで『竜風衝墜(フィアード・テンペズム)』を最低駆動させる。


――返答次第では、熊型獣人のひき肉(ミンチ)にするか。


 怒りを分かりやすく魔力にして漏らし出す。

「ぼくは怒っているんだぞプンプン」という雰囲気を出し、『竜風衝墜(フィアード・テンペズム)』作った魔力の暴風で部屋を軋ませる。

 部屋が歪む。

 家屋全体には及ばないように、あくまでこの部屋だけを歪ませる。

 ピリピリとした痛痒感ではなく、ビリビリとした明らかに皮膚を削らせるような痛みを与える。


「――申し訳ない。謝らせて欲しい」


「…………、」不機嫌そうに更に魔力を高めて、『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』も最低駆動させる。


 部屋の中は魔力による暴風が吹き荒れ、そしてその暴風以上の暴風が俺の左腕に収束していく。

 相反する力が発生し、部屋の中はグチャグチャだ。


――一触即発。


 生前の、カラスに荒らされたゴミを見るような目で村長を睨む。

 村長は、何を考えているのか分からないが、ずっと(こうべ)を垂れていた。

 明らかな異常を相手に慌てたり、焦ったりするような素振りは見せない。

 

 その姿を見て、俺は込めていた魔力を霧散させた。

 フッと部屋を荒らしていた魔力が消える。


「村長さん、謝罪は受けませんよ。

謝罪するならば、母さんと父さんにしてください

両人にしない間は、俺は許しません」


「うむ、誓おう」

「『誓おう』ではないんですが。

まぁいいです、話が進みません」


 と、俺は話を強引に変えて、ぶっ倒れる前に言っていた『聞きたいこと』について質問させる。


「で、聞きたいことってなんでしょうか」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「聞きたいこと。

それは、学校であったことじゃ」

「やはりか」


「予測はしておったと」

「まあ当然でしょう。"何か"があった学校から血と泥でボロボロの子どもが、門扉を叩く。

"何か"があったけど、その"何か"があったことを聞かない奴は普通いない」


「…………で、聞かせてくれるのかのう」

「当然。奴らの正体についても聞きたい。黒幕がいるならぶっ殺してくる。

複数拠点を持つような組織が相手なら、街ごと滅ぼしてくる」


 そして、俺は学校であったことを包み隠すことなく話した。

 ・学校が終わり皆で、遊んでいたこと。

 ・母姉に起きたこと。

 ・途中の記憶が吹っ飛んでいること。

 ・母さんを背負ってここまで来たこと。


 昨日やったことはこの四つだけだった。


 それでも肉体・精神的疲労が凄かった。

 もう一回やれと言われたら絶対やりたくないと言い切る。


 自分の設定に突っ込んだ人生という歴史の分岐点。

 設定に仕込んだ『村の外れでのんびりと過ごし、村にある学校でとある事件がある』が、


――あんなに"作者"の心を砕ききる、事件だと普通は思わない。


 もう少し、例えばメティアの下着辺りを盗んで、村にいられなくなって逃げるようにして出て行ったとか、黒歴史(ちゅうにびょう)とは違った黒歴史(じんせいのおてん)になるとか、そんなものかと踏んでいたが、地獄過ぎた。


――それにしても……、母さんも姉さんも死ななくてよかった。


 嬉しくて涙が出る。

 心と身体が穢されたけど、俺が家仕事と畑仕事をすれば母さんと姉さんも生きていけるだろう。

 姉さんは強い人だから、きっと心の整理が付いて父さんのような騎士になりに王都にいくだろう。


 トラウマがあっても、生きているんだ、克服だって出来る筈だ。

 母さんは分からないけど、老いても俺が村仕事してれば食っていける。


 生前の母さんはピンピンしてて、親孝行なんてする前に俺がこの世界に来てしまった。

 今度こそ、母さんに親孝行をするんだ。


 そう考えながら、村長に話し終える。

「以上が、昨日あったことだ」

「そうか。ではやはりあの雷と太陽は貴様の仕業か」


「次はこっちの質問に答えてもらおうか」

「ああ。儂が知り得ているなかで良ければ」

「聞きたいことは四つ。


 一.連中は何者か。


 二.何が目的か。


 三.俺が寝ている間に何があったか


 四.母さんと姉さんはどこだ」


「ふむ、先に四じゃが、貴様の母は寝ており、昨日から起きておらぬ。姉のほうは二階の貴様が寝ていた部屋の隣に充てがっておる。

……で、じゃ。ここから先は、聞くには少々覚悟がいるが、どうする?」


「……?」

 思わず首を傾げる俺。

「何で、覚悟がいるんだよ」


「是と取るのう。

…………、一については、相手が国じゃ。

それもこの村が所属している『カルタロセ』じゃな。

貴様が相手をした者は知らぬが、特徴から鑑みると王国の騎士じゃ。

目的は……、そうじゃな。魔族が必要ということじゃ」

「…………、」


「貴様が滅ぼしてくると言ったが、国を滅ぼせるかのう?」

 と、村長は俺に聞いてきた。

 考えるまでもない。

 無理だ。


竜風衝墜(フィアード・テンペズム)』と『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』に『蠱毒街都(ヴェナムガーデン)』、『奪熱凍結の言霊(ニブルヘイム)』、『戦熾天使の祝福(セラフィックイージス)』、『賢者の石(ラピス・フィロソフォルム)』、『世界を薙ぐ影なる灯火(ワールドアポカリプス)』、『天地動の言霊(サテライトオービット)』、『天界の天象儀(セレスティアルスターダスト)』などの魔法陣を四つぐらい同時に通常駆動で使えば完膚なまでに壊し尽くし、殺し尽くせるだろう。

 いや、後ろ三つだけは特級クラスだから、一つだけでも出せれば終わる。

 だが、それらをやるには流石に、『十全の理(グレイテストマジック)』の出力が足りない。


 更に言えば、出力を出せたとしても俺の身体が持たない。

 身体がしっかりしてきた頃でなければ、特級クラスは無理。

 そしてほかの魔法陣も三つ同時は流石に難しい。

 二つぐらいだったらどうにかなるが。


 一応今『竜風衝墜(フィアード・テンペズム)』と『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』は使っているが、最低駆動であるし。

 こいつらは暴発の危険性もまず無い。

 だから今使える。

 ほかは地形変わったり、家が壊れるし、俺の見た目も変わる。


 他にも『世界(ワールドスフィア)』で都市を丸ごと閉じたとしても、それの維持に精製された魔力に気を取られすぎてしまう。

 だから……無理だ。

 せめて成長してからだ。


 もちろん、『世界』で流入出を防がずに、そのままぶっ放せば即滅する……。

 特に『天界の天象儀』はそれが出来る。

 出来るがそれを使うには出力と魔力足りないし、俺の身体もぶっ壊れる。


 俺が成長するまで待てばいいだろうが、正直そんな暇はない。

 "作者"たる俺の天罰という振り上げた腕を降ろさせる相手が欲しいから復讐をするようなものだ。

 直ぐにやりたい。

 だが、それをやるには身体がどうにもならない。


 それに、もし『世界』がなく、閉じていなければ目撃者が出てくる可能性もある。

 目撃者がもしいれば、俺に対してなにかすることはなくとも、家族に対して復讐されることも考えられる。

 それはたまったものではない。


 俺の復讐は綺麗な復讐。俺にされるのは汚い復讐。と、いうつもりはないが、復讐ループに入るのは非常に困る。


 だから。「ああ、『今は』無理だな」

 敢えて『今は』という部分を強調して言う。


 母さんの世話をしながら、歳を重ねて、魔力の訓練して、その後に王国都市全体に『世界』で世界を閉じて魔法陣を複数撃ち込めばいいだろう。

 特に特級辺りを。

 いや、この辺りを『聖域化』させて国を堕とすのもいい。

 この村は自給自足が出来ている。

『聖域化』して外界と遮断しても問題ないはずだ。


「で、三のことじゃが――」

「あなた、食事のご用意できましたよ」

「もう、出来たのか」


「ええ、とはいっても間に合わせですが。

ほら、フロリア家のご子息さんもどうぞ」

 といって村長さんの奥さんと思われる、お婆さんが俺を食事に誘った。


 確かに俺は昨日の夕方から何も食っていない。

 身体が空腹を訴えていて、キリキリと胃が痛んでいる。

 このままだと、激痛で死にそうだ。

――そういえば寝台から起きたとき、食べるもの恵んで貰おうとして来たんだっけ。

 と、母さんを侮辱された怒りですっぽ抜けたが、確かそういった理由で起きた筈。

 

 俺は促されるまま、部屋から出て食堂へ向かった。




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