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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第1章-人生の分岐点- I
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悲哀溢れる村


 時は星が瞬き、心なしかうそ寒い夜。

 そのなかを少年と、少女たちは道を歩む。

 身なりがよく、綻びがない格好の少女が前を先導し、自身の身長よりも大きい白い布で包まれたものをおんぶしている少年がゆらゆらと歩む。

 その姿を遠くからみれば、白いものが中空に浮いており幽霊と見間違えられる可能性がありそうであった。


 しかし、その心配は不要であった。

 この日、この村で起きたことは異常であった。

 何人ものの子供が安全である筈の学校で複数人死んだのだ。

 下手人は不明。

 そのため、規模も不明。


 誰もが殺人鬼に恐怖し、外出する者がいなかった。

 夕方に魅せられた、強大な魔法の存在。

 あれは、誰が使用したのか。

 そして子どもたちは、ほぼみな死んだと希望(のぞみ)を打ち砕く事実を植え付けられた。


 理由は明白だ。

 誰もが身に受けた、あの明確な殺意をイメージさせる魔力。

 あの魔力を身に受けた、年老いた馬はもちろん、幼い馬も死んだ。

 草木も死に、大収穫の時期は既に過ぎていたものの、畑の栽培物も枯れ果てた。

 建物の中に入れば、影響を受けなかったようだが、夕方どきでも畑仕事をしていた者も多い。


 そのため、あの魔力に長時間当てられ、意識を失ったものは数十名にも上る。

 不幸中の幸いか、死亡した者がいないようだったが、これはあくまで大人だから影響が致命的ではなかった。


 しかし、子どもではどうだろうか。

 明確な殺意をぶつける邪なる魔力に身体を蝕まれ、それだけで死ぬ可能性があった。

 更に極めつけは、あの"神"が降臨したと思わせる、神々しくもとても寒い色をした、白い無垢なる光。

 人族・獣人族・魔族ともに問答無用で焼滅させる、あの光。

 魔力で気絶した者も、異常に気がついて家人によって介抱されたお陰で人死にがなかった。


 だが、子どもたちは……。

 放課後になれば、外へ出て遊ぶ子が大半だ。

 何かがあった。

 あの神の"剣"と"神"を降臨させるような、何かが。

 しかし、子を喪った親は想う。

「その"神"が無ければ我が子は死ななかった。と」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そしてその『何か』が、現状分からない。

 だから、誰も外へ出たがらない。

 その『何か』が家の門を叩くかもしれないからだ。


――こんこん、と。

 それは、既にこの大陸では滅んだと伝えられている夜泣魂(バンシー)か。

 はたまた、食魂鬼(レイス)か。

 それとも、ただの人間か。


 子を喪った親は、その悲しみに浸ることも出来ずにただ朝がくるのを待つ。

 明るくなったら、子を探しに行くために。

 子がいて明るかったいくつかの家庭が、この一日のお陰で暗く沈んだ。

 漸く出来た子だった。

 いつもいたずらする子だった。

 果ては学者か、と期待出来る子だった。

 兄弟を大事にする子だった。

 そういった子たちが、夜になっても帰ってこなかった。


 もしかしたら迷子になっているのかもしれない、といくつかの家庭の親は思った。

 そうであって欲しいと。

 例え四年も通っている学校であっても、ふと迷うことだってあるかもしれない。

 そう信じたかった。

 言葉も少なかった。


 灯りは点ける事ができない。

 点けてしまったら、相手の涙の跡をみてしまう可能性がある。

 もしかしたら、机に置いてしまった子ども用のお皿を見てしまうかもしれない。

 食器を持って、母が作る食事を心待ちにする子どもの笑顔。


 それを今日は見ることが出来ない。

 瞼を閉じれば、あの忌々しい神の"剣"が瞼の裏に映る。


 あの神の"剣"は学校に突き刺さった。

 もしかしたら、家の子どもを狙った剣なのかもしれない。

 それを疑うとあとは簡単であった。

 神の"剣"ではなく、あれは(かたき)だと。

 子どもを殺した敵だと。


 子どもを返して欲しい。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ある家庭では自身の一族が代々遺してきた畑が、死んだ日であった。

 大収穫の時期はとうに過ぎた。

 それでも、大収穫の時期のため仕込むものがあった。


 その仕込みが死んだ。

 大収穫の時期までに、この家は死ぬかもしれない。

 娘を娼館に売ることになるかもしれない。

 一家離散する必要があるかもしれない。

 もしかしたら、奴隷落ちするかもしれない。

 畑が死んだ上に、家畜も死んだ。

 あと少しで隣の家の者と揃って隠居するつもりだったが、そんな余裕などなくなった。


 畑を! 家畜を! 娘の未来を返せ!


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 悲哀が満ちる村を学校から一直線に、村長の家へ向かう。

 もし、誰かが見ていれば石を投げていただろう。

「お前が無事なのは、あの魔法の術者だからだろう!」と。

 事実であるが、もし違っていても石を投げられ、いや直接暴力を働かれていたかもしれない。

 しかし、幸せなことに誰も出てこなかった。


 そして、更に幸せなことに白い布の塊をゆらゆらとおんぶしている少年は、先導する少女以外とはあまり仲良くなかった。

 そのため、他家に赴き助けを求めることがなかった。

 少年がおんぶしている白い布の塊を支える少女は、少年の決定には何も言わずに付いていった。

 そのお陰で、特に異なことは起きずに支えて村長の家へ着くことが出来た。


 少年が村長の家の一際大きな扉の前に立ち、扉をこんこんと叩く。


 十数秒ほどを待ったところ、扉が開き、中から体毛が抜けた、ただの体格のよい風体のお爺さんがのっそり現れる。


「ぬう、貴様は……。

……そうか、貴様がフロリア家の……」


 お爺さんが誰何(すいか)後、一人で納得する。


「うむ、待っておった。

さ、入るがよい。

フォロット家の娘も入りなさい」


 家主であるお爺さんに促され、少年と少女たちは村長の家に入った。


作者名とアカウントネームが違うため、私の活動報告に直接飛べません。目次の下部にある「作者マイページ」から、私のアカウントの活動報告の閲覧出来ます。

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