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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第1章-人生の分岐点- I
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『十全の理』 ★

 数刹那後、虚空が歪み現れるは、無色の燦然と輝き、見る者の心を奪い恐怖させる呪い。


 この世界にとっては異質。


 全てをも滅ぼす威力を持つ、戦略級兵器。


 単品で国が滅ぶと言われる魔法陣を総括する、支配者。


 各魔法陣の果てしない魔力の消費量を、支配者たる『十全の理(グレイテストマジック)』が精製する。


 普通の人間がこれを創造することですら不可能。


 その魔法陣(せんりゃくきゅうへいき)が『作者』たる"親"に望まれて顕現した。


 顕現した瞬間から魔力を精製する。


 ピリピリとした痛痒感ではない。


 発生するのは、魔力に対して鈍感な獣人族でも『痛い』と感じ得る過剰な魔力の奔流。


 激痛を与え苦し悶えるは哀れな生命。


 奔流が濁流となって職員室から流出する。


 奔流に触れたものは激痛。


 耐えられなければ、死滅する。


 "親"の感情が爆発した。


 "子"たる『十全の理』はそれに応える。


 無垢たる無色の『十全の理』が"親"の感情によって、赤く緋い怒りと黒く昏くい悲しみの色に染められる。


 燦然玲瓏に輝く赤黒い魔法陣。


 過剰に精製した魔力を"子"は"親"に献上する。


 怒りと悲しみに染められた"親"は献上された力を制御出来ず暴発させる。


 暴発させた魔力が発生させる現象は。


 全てを滅する死の旋律と共に。


 漏れなく与える音を止める安らぎの福音と共に。


 精製された魔力素が及ぼすは、生命を磨り潰す悪しき魔力と共に。


 "親"の近くで"子"は発生する。


 平面的に作られた魔法陣ではなく。


 平面的に作られた魔法陣が幾枚にも、幾十枚、幾百枚、幾千枚、幾万枚に重ね合わさり、作られたのは正立方体状の魔法陣。


 立方体の歪む姿は、まるで無理に顕界した精霊のよう。


 きらきらと明滅し赤く黒く光蠢く姿は、この世のモノとは思えない宝石。


 蠢き形作るは、悲哀。


 怒りが形となる。


 魔力素の暴風が世界を覆い尽くし、悲哀の痛みに耐えられない生命は枯死あるのみ。



 宝石が謡う。


 謡う歌は、雷槌と擬似太陽。


 宝石は形作る。


 自らの身体に円状のリングを纏わせる。


 リングにはこの世界のものではない、字が描かれ。


 円状のリングは自転と公転を繰り返し、繰り返す。


 そして、世界は白に包まれた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 私の(ミル)が何か別のものに変わってしまった。

 頭のなかに声が響く。


――『世界』起動します。


『せかい』というものが何を意味するのかわからないけれど。

 私がとっても大好きな弟がなにかに変わってしまった。


 私が立ち上がって、二、三歩歩けば直ぐに触れることが出来る距離でありながら。

 とても遠くて。

 手を伸ばしたくても届かない距離。


 (とお)くて(とお)くて、手を伸ばせば。

 (ちか)くて(ちか)くて、手がとどく距離。


 ……ごめんなさい。

――私が弱くて。

「ごめんなさい」


 後悔だけは止まなくて。

 誰が「『騎士』として『(あね)』として『(おとうと)』を守りたい」だ。

 守るどころか、私がいたから。

 そう私なんかがいたから。

 愛する(おとうと)はこわれた。


 (おとうと)は声なき声を叫んでいる。

 まるで……そう、まるであのときのように。

 森に遊びに行って、弟が迷子になったときのように。

 私を呼んでいるときのような声が聴こえる。


 そのときのように、私がたった一言、弟が安心できるように。

 たった一言。

 言えばいいのに。

 言うだけなのに。


 あのとき言ったときのように

 たった一言言えばいいだけなのに。

 ……声が掠れて出ない。


 ミルから見たことのない魔力の残り香が立ち昇っている。

 それはとても危険だと、見て分かるような魔力。

 私みたいな脳筋でも、分かるこの危険さ。

 それと一緒に身体がとても痛くて痛くて。


 ピリピリとする痛痒感ではなくて、鋭い爪を持つ狼によって引き裂かれるような痛み。

 それと転んだときに負った怪我のように、じくじくと、そうじくじくと腐っていくような痛み。

 でも、弟はもっと痛いんだ。

 だから、私が。


 太ももが地面に根を張ったように。

――お願い、動いて、立って。


 その矢先に、ミルの隣に目の前の赤くて黒い箱のような半透明なものが、現れた。

 その姿は何となく、長年弟と共に苦楽を共にしたような風格と雰囲気を持つナニカ。

――弟が生まれてから、私はずっと弟といっしょなのに。

 あの変な箱は、私をさておいて(すきなひと)の隣に佇む……!


 (すきなひと)が声なき声を叫ぶ。

 それを心配するかのように、ふよふよと漂う箱。

――そのばしょはわたしのものなの!


 叫びたい。

 叫べない。

 だって私は今、立ち上がれない。


 痛みに身をすくませている私。

 痛みより弟を心配そうに伺う彼女(はこ)

 私には隣に立つ資格なんて。

 それでも。


――私は(すきなひと)と共に生きたい。


――痛くなんかない! だから、動いて私のからだ!


 なんど、叫ぼうとも手を伸ばそうとしても、動かない。動けない。


――やだ、やだ、やだ。


 否定しても、動けない。

 動けなくても――。

――ああ、あたまにまた。


――『十全の理(グレイテストマジック)』改め『聖域方陣:Wrie』起動致しました。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……え?」


 あれほどまでに声を出したかったのに、いざ出せた声は自分でも驚くぐらいに簡単に出た。

 簡単に出て、弟を見るために空を見上げたときには。


「……うそ」

 先ほどまで晴れていて闇が近いはずの夕焼けが、ほんの一瞬で闇に落ちていた。

 空には雷雲のような炭黒の雲が村の空を覆っていた。

 目の前の雲に、大きくて長い、物語で読んだことのある『竜種』のような雷が唸っている。


 見たことがない異常。

 弟がやるわけがない。

 であればやるのは、あの。

――この箱の所為で、こうなるなら。


――ミルは、こいつの所為で化け物になってしまう。


――ミルは化け物なんかじゃない。


――私の(すきなひと)だ。


 だから、あんな箱が立つ場所はない。

 (あね)が立つんだ、その場所は。


 そんな覚悟も途中で中断させられた。


 それもそのはず。


 なぜなら。


 炭色の雲を切り裂くようにして、見たことのない立派な剣が顔を覗かせる。


 魔力の痛痒感とはまた違う種類の感触。


 まるで私の身体の毛をちりちりと焼くような感覚。


『竜種』のような閃光が剣の周りを舞っている、姿に私は。


――あ、あああ。

 うめき声と頬に涙が流すことしかできない。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


――『雷槌(ミョルニル)』改め、『天雷(ディヴァイン)裁終の神剣(オーバーシューティング)』の詠唱を開始致します。


――三、二、一。詠唱完了致しました。起動致します。


――"管理者"の命より、同時に『擬似太陽(ソーラーフレア)』の詠唱を開始致します。


――"管理者"の命により『擬似太陽』の詠唱を棄却されました。


――『変動詠唱魔法』により『擬似太陽』起動。


――『全てを創り滅ぼす無垢なる炎』


――『穢れを()き、罪を()く』


――『神なる怒りを以って、滅びを約束せよ』


――起動致しました。顕界します。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 私の目の前で箱が(くるめ)くほどの光量を発した。

 まともに見ることが出来ずに、思わず腕で影を作り目を逸らす。

 箱から一定周期で響く鐘の音が聞こえる。

 その音は心を蝕む音。

 身体がガタガタと震えるほどにまで痛くて寒い。


 でも、そんなことよりもその音の近くにいるであろう、弟はもっと痛がっている。

――これ以上は、もう。


「ミル、だめええええええええええ」

 漸く待ち望んで出た声は。


 空から落ちてきた剣と、真白く熱く感じさせながらも、心と身体を凍えさせるような白の光の音によって――。


――かき消された。


 目の前で起きるのは直視出来ないほどの光。


 それとなんにも聞こえなくなるように破裂する音。



 (まぶた)の上からも眩き焼く光が失せて、目をあけてみたとき、私は。



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