ICBM
――警告です。
――『戦熾天使の祝福』から承認されていないシステムを検知致しました。
俺の八本の羽翼を全て分解され、再構築されていくのは得体のしれない何か。
「な、何をしている! ウェリエ!」
「あ? 見て分からない?」
――「遠隔操作」の起動を確認致しました。
――承認を確認致しました。
まったく、これを分からないとか、ロボ好きの風上にも置けない。
なんて考えたけど、よくよく思えばここ異世界で動く鎧系はいてもロボはいなかった。
そんなしょうもない話を脳内に浮かべ、俺は天へと高く指を差す。
ここからザクリケルまで方角にして、大体……南。
――『戦熾天使の祝福』より『一殺の沈黙者』の上級駆動を確認致しました。
――内部に『天界の天象儀』の通常駆動を接続致しました。
目の前には白亜と金縁の物体、陶器と金属で出来た建築物が俺の身長から、一階建ての家屋の高さまでとカタチを成していく。
だが、確かに分からないだろう。
縁がなければ、想像も付かない。
本当ならば、サイアに教える義理はない。
だが、クオセリスが物凄く聞きたそうに見ている。
それはワクワクという感情ではなく、恐ろしいモノを見るような目だ。
だから、少しでもネタばらしをして、恐れを取り除いてやりたいと思うのは当然だろう。
よって、言った。
「誘導爆弾発射台と、それを構築ってるんだよ」
――属性『大陸間弾道ミサイル』の作成に成功しました。
俺の言葉に重ねて発言される『世界』の声。
――命名をどうぞ、『管理者』。
命名権があるらしい。
確かに前世の世界ではミサイル一発一発に固有名詞がついている。
『ピースメーカー』だったかな、そんな感じなものが色々。
エクスカリバーとかそういうのも名前としてはいいだろう。
だが、アイタタタな黒歴史ノートで名付けた名前はそんな既存のもので満足するものではない。
前世の世界の『神話』にあるような名前では、ありきたりで凄さとか想像が頭打ちだ。
俺が作ったというこの世界で、『エクスカリバー』、『レーヴァンテイン』と言った使い古された武具は極力使いたくない。
魔法ならまた別で、例えば稲妻のような速さで駆け抜け、逃さずに確実に命中し、防具を貫通し、内部で枝分かれして云々とか武器というよりも魔法に近い。
なお、その武器の名前はゲイボルグという槍の名前だった筈だ。
魔法の武器というより、明らかに魔法。
そんな、イメージし易いそれを魔法として運用するのではなく、こんな異世界で『ゲイボルグ』なんて名称の武器を作って、それを使う輩が『クーフーリン』、または『フェルディア』ならまだしも、俺もしくはエルリネたち現地の異世界人が使うのだ。
イメージが崩れるってレベルじゃない。
ちなみに『内部で枝分かれ』という単語を聞くと、『拷問の供犠台』の「血茨」を思い出す。
やっぱり、武器というより魔法だな。
――命名を確認致しました。
――『戦熾天使の祝福』、どうぞ『管理者』の願いを宜しくお願い致します。
カリカリとハードディスクを書き込むかのような音。と、共に聞こえるのは、
――聖剣:セフィリエントを確認。
という、『戦熾天使の祝福』の特徴である女性の声。
『世界』も女性だが、『戦熾天使の祝福』もかなり女性だ。
目の前の発射台から魔力の燃焼するときの爆光が輝き出して、とても目に悪い色だ。
それ以上に皮膚を灼く感覚。
これは酷い。
もう二重、三重の意味で目立つ。
だからやれやれだ。
もう、本当に酷い。
――VLS式で射出します。衝撃に備えてください。
とかの『VLS式』とか俺しか分からないワードだ。
『精神の願望』が張り付いている連中からすれば、意味が間違いなく分からない。
はぁ、本当に嫌だ嫌だ。
――三、
このカウントダウンも嫌だ。
本当にやれやれだぜ。
――二、
ぶっちゃけた話、さっさと射出しろって
――……一。
思うわけです。
――射出を確認。
その声と共に、爆風と爆炎と爆音が綯い交ぜになった暴力が俺の周辺を苛み、飛んでいった。
爆光と爆音と爆煙が一緒くたに天へと向かって。
初速がちょっと遅いが、なぁに。
五分程度で着弾するだろう。
「たーまやー」
大陸間弾道ミサイルと言えど、ちょっとした距離しかない。
間違っても、一時間も二時間も掛かるような距離なんかじゃない。




