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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第4章-世界の分岐点- 侵攻(Invisible Legion)
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前座から本番へ

 人が気持ちよく遊んでいたら、新手が来た。

 どうやら男。

 それも大きな。

 パイソよりも大きい体格。

 これは、

「お出まし、かな?」


 おねえちゃんが遊んでいるんだ。

 あたしだって遊びたい。

 それにあたしだって守られるだけの存在じゃない。

 おねえちゃんだけが墓神様に包まれるのは、だめ。

 あたしもやる。

 あたしの身はあたしが守る。


 おねえちゃんも守る。

 ついでだから、ウェリエも。

 本当についで。

 おねえちゃんが一番大事。

 ついでのウェリエ。


「本隊が来たぞぉおお!」

 人間が狂ったように大声を挙げる辺り、頼みの綱なんだろう。

 そんな綱なんて、あたしの糸の前では金属以下だ。

 ふと前を見れば、おやおや見たことがある。

 確か、

「セイカー……だっけ」

 自分にしか聞こえない声量だけれど、

「む、キミと僕は会ったことあったかな?」

 あたしの喉が潰れた声を聞き取る辺り、セイカーは聴力強化しているのか?


「さあ、どうだろうね。セイカー」

 それも、だいぶ離れているのに、聞き分けているのだ。

「キミのような美しい方に、会っているのに一方的に忘れているとは、いやはや歳は取りたくないものだね」

 あたしが言うのも難だけど、セイカーってエルリネよりちょっと上ぐらいだと思う。


「おやおや、嫌われたかな」

「…………、」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。思い出すから」

 そういってあたしに右掌を見せて、左の人差し指を額に指して、うんうんと唸る辺り本当に悩んでるようだ。

 正直にいってどうでもいい。

 あたしの前に立つなら、等しく敵。


 それに、セイカーなら思ってもいなかった、この巡り合わせ。

 あたしとおねえちゃんを殺そうとした、憎き(にんげん)

 ウェリエがいなかったら、ウェリエが弱かったら、ウェリエが強かったから、ここまで生きてこれた。

 その点はウェリエに感謝している。

 ウェリエが生かしてくれたから、憎きコイツを殺させてくれる。


 あたしは人間が嫌いだ。

 お母さんを殺した。

 お父さんを殺した。

 あたしを殺そうとした。

 おねえちゃんを壊そうとした。

 だから、嫌いだ。


 ウェリエも嫌い。

 人間で人族だから。

 おねえちゃんは好き。

 人間だけど獣魔族だから。

 ウェリエは嫌いだけど、おねえちゃんはウェリエのことが好きだ。

 見ていれば分かる。

 あたしを大事と言ってくれるけれど、それ以上にウェリエのことを好きだと言ってる。

 何をするにしても一緒。

 厠に行くのだって一緒。


 休養日に公園にいくのも一緒。

 住処の前で水浴びも、ウェリエとなら、とばかりにいつもしてる。

 羨ましい。

 おねえちゃん独り占め。

 代わりがいればいいのだろう。

 けれども、あたしは人間が嫌い。


 エルリネはいいとして、ニルティナもイニネスはまあいい。

 けれども、それ以外は嫌だ。

 特にエレイシアは嫌い。

 大っ嫌い。


 でも、それ以上に人間嫌い。

 そんなおねえちゃん以外の人間なんて探せない。

 おねえちゃんが人間のウェリエを好きになっている。

 だったら、あたしからすれば無害かもしれない。

 そういう意味では好き……かもしれない。


 でもでも、あたしからおねえちゃんを奪った人間だからやっぱり嫌い。

 そんなわけだから、あたしは嫌い。

 セイカー、お前が嫌い。

 あたしから、おねえちゃんとイニネスを奪おうとした。

 あたしから、あたしを奪おうとした。

 そして何より、あたしの大好きなおねえちゃんが好きなウェリエから、おねえちゃんとイニネスとあたしを奪おうとした。

 だから、敵。


「待てよ待てよ、ちょっと待――」

「待たない、セイカー。あたしはアンタを殺す。完膚なまでに、」

「え、ええぇ? あれ、僕なにか気に障ることやったっけ」

 うむむむと悩むセイカー。

 わざとらしいったらありゃしない。


「"白柴"」

 ちょっとだけヒントを与えた。

 本当なら黙っててもいいんだけど、完膚なまでに。

 つまり、文句も言わさずに殺す。

 悩んでいる隙に殺られたなんて言われたくない。

 後腐れのなさでは、今のうちに殺すのがありだとは思う。

 けれども、この殺しの結果がウェリエに行くだろう。

 その際に、不意打ちで殺したとなると、どうでもいいウェリエがどうでもいい迷惑被る。

 それによって、おねえちゃんに迷惑が掛かるのも困る。


「えっ、まさかキミ……あのときの魔獣……?」

 答えは出した。

 その回答に意味などはない。


――キィン。


 と響くおとは喉元から。


 久し振りだ。

 本当にあれ以来、だ。

「久し振り、」と挨拶をした。

 本当は挨拶どころか、それ以上も言わなきゃいけない相手だ。


 けれども、何故だろう。

 どうも、そういうのは言わなくてもいいみたいで。

 ただ、なんとなく。

――久し振りだねえ。

 と、言ってくれてそうな、感触がする。

 喉元から。


――くくくっ、行くよ。


「うん、」何故だろう。

 おねえちゃん以上に、この喉元の声はとても素直になれる。

 どういう訳か嫌いなウェリエっぽいのに、この喉元はそれは好きになれそうなウェリエだ。


「"神結い鎮魂の創神(クルカクルコ)"」

 その喉元の声と共に、手を前に出した。

 光り輝く、ウェリエの『十全の理』のような魔力で出来た線がばらりと垂れ落ちる。

 その数はあたし自身でも数えられないほどの数。

 さっきよりも数十倍に膨れ上がった量の糸線。

 地に落とした瞬間に空高く、舞い踊り始める線たち。


『世界』とやらの声が聞こえた。


――『神結(かみゆ)鎮魂(ちんこん)創神(そうしん)』の顕現を確認致しました。


――『形創(かたづくり)の結い手』の通常駆動を確認致しました。


――『人形機甲師団(にんぎょうきこうしだん)』の通常駆動を確認致しました。


――『人形機甲師団』の特級駆動の許可を致しますか。


 正直に言って『世界』はどうでもいい。


 あたしはもう二度と、おねえちゃんを離さない。

 ウェリエも離さない。

 とっても嫌いだけど、おねえちゃんが悲しむから離さない。

 嫌って言われても嫌だ。

 全てを結び、(ゆわ)く。

 敵の糸は(ほど)く。

 それが出来るのが『形創の結い手』。


 そして『人形機甲師団』は、失ったあたしの左腕と右脚、そして眼の代わりのもの。

『形創の結い手』の糸で使役する人形遊び。

 動きが悪いあたしの腕脚(てあし)


「流石、魔獣だな。あのときに駆除しておけば」


「くすくす、出来なかったのに? ウェリエに邪魔されて、泣きながら帰った雑魚が何をぴーちくぱーちく小鳥のように喚くの?」

「貴様、殿下を愚弄するか」

「あらあら、だあれもサイアとかいう男の話、してないけれど?

セイカー、お前が言っただけだけど?」

「貴様……!」


 嫌だなあ、もう。

 遊び心がないなあ。


――ねえ、ねえ。


「セイカー、遊ぼうよ。お人形遊びしようよ」

 そのあたしのお誘いに、額にシワを寄せるセイカー。

 遊び心が足りない。

『人形機甲師団』の特級駆動に許可を迷わず出した。

 確かこれの特級は駆動までは任意だ。

 だから特級許可を出したからって、別に魔力を食われたりはしない……と、喉元のウェリエから聞いた。


「あたしがお(うち)を守る役、そしてお前が、」

 一旦、言葉を切った。

 当然だ。

 今までは日本語で言えば"前座"。

 次からは本番だ。


 一応、ウェリエからは許可はある。

 この前座に会う前に、ウェックナー騎士団が突っかかってきたことは知っている。

 その上で「潰せ」と言われてる。

 だから殺す。

 ウェリエは嫌いだけど、潰すことは好きだから。

 嫌いな人間を殺せるから。


匪賊(ひぞく)だ」


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