禁忌
メティアを机の陰に隠しながら、メティアの寝顔(≒気絶顔)を見ると中々保護欲に駆られる。
きっと、多分これは、一時だけでも『好き』って思ったからなんだとおもう。
メティアがどう思っているか分からないけど、いや分からないからこそ気持ちが分かるまでには彼女の心をゲットしたい。
だから上から目線で保護して、「俺はお前だけの王子様なんだ」と見せつけたいと思うのだろう。
彼女がどう思うかは分からない。
まぁ姫様は変なところで気が荒いから、平手打ちで頬にモミジ作ってくるかもしれない。
それでも、なんだろうか。
こう、メティアの顔を見ていると幸せな気分になる。
お互い六歳だし、俺が好意を寄せてもきっと本気と取られないだろう。
くそう、早く大人になりたい。
早く大人になって合法的にメティアに迫りたい。
メティアに迫って結婚して、人族と魔族のハーフの子ども作ってもらって、もしハーフが禁忌だとしても、愛の結晶たる、息子娘を俺がこの手で守ってみせる。
あと成人後の仕事については、この『十全の理』を使える職場に就く予定だ。
戦略兵器ならどこの国も欲しがるだろう。
メティアと平和に過ごせる国なら、どこでもいい。
メティアから「嫌だ」と拒否されたら……、まぁその時はきっと誰か俺の傍にいるだろう。
そいつと結婚するのも有りか。
確か父さんの結婚もそんな感じで、最終的には成人したばかりの貴族の娘を娶ってこの村に来たと聞く。
で、現時点で母さんは二十四歳という、俺の生前より若い。
父さんが羨ましすぎて嫉妬しそうだ。
と、考えている内に思い出した。
このイベントは俺の歴史に仕込んだ事件ではないかと。
つまり、俺の分岐点は殺人という禁忌に触れることか。
ということは、だ。
あとは絶望はない。
あるのは希望だけか。
ならば話は簡単だ。
あとは姉さんを見つけるだけ。
きっと姉さんが、不届き者をばったばたとなぎ倒し。
「遅いぞ、ミル」と言い放つのだろう。
教室の扉を片っ端から開けて探した。
無駄に部屋が多いこの学校の、奥にある掘っ立て小屋。
これは、いわゆる職員室だ。
ここに先生が3名ほど常駐している。
きっとここに姉さんが死体を山にし、上から目線で「遅い」と言うのだろう。
――全く、姉さんという人は……。
と、俺は職員室の扉を開けた。
そこで見えたものは。
「………………、え?」
そこには饐えた臭いと水音と、吐き気を催すほどに……濃縮された血の臭いがあった。




