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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第4章-歴史の分岐点- 恐怖の怪物(Nightmare Horror)
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三日目 朝 -I-

 久しぶりに夢を見た。


――ああ、この夢か。


 そう感じる夢。


――ああ、久しぶりだ。


 これは姉さんと一緒に寝たころの夢。

 俺が今生の母さんと姉さんとで川の字になって寝ていたころ。

 俺が『十全の理』を目覚めさせる前のころの話。


 姉弟でありながら忌避を与える臭いを感じさせず、あったのは心地よさを感じるぬくもり。

 それと――。


――ああ、でも。


 姉さんの匂いを「これでもか」と()けられた。

 それはもう覚えていない。

 けれど。

 鼻が覚えていなくとも、身体は覚えていて、


――ああ、懐かしいな。


 そう、懐かしみを覚えて、とても。


――安心する。


 ずうっと一緒に寝ていたくなる。

「だいすきだよ」とずうっと甘えていたい。


――ああ、でも。


 そう少しでも、考えると。

 あのときのことが、世界が、すべてが切り替わる。

 あたたかいにおいと、朝の日差しのよう明るさから。


――ああ、


 ビキリという硝子細工にがクモの巣状にヒビが、朝の日差し空間に、


 メリメリと、無理やり革袋の口を引き千切るかのような音と、


――ああ、()えた匂い。


 姉さんのことば。


――ああ、わすれるはずがない。


 いやだ、この先は。


 決まってこの先は。


――あ、あああああアアアアアア、


 あかいのが。あおいのが。しろいのが。


 たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて


――ああ、ねえさ、



聖域方陣(せいいきほうじん)』の発生音がきこえる。


――ああ、だめだ。

 それはだめだ。

 それは人智を超えたしろもの。


 設定上では全ての世界を塗り潰し、上書きする『禁忌の世界』。

 どんな魔法がなんでも。

 すべての魔法、俺が覚えている魔法の中で、それだけは使ってはいけない魔法。


――ああ、でも、


 姉さんがもうあんなことを言わなくて、済むのなら。


 金属製のジグソーパズルがカチカチと嵌っていくかのように、

『聖域方陣』が夢のなかで魔力素が形作った、ジグソーパズルのような破片が集い、同じく緻密な魔法が作られていく。

 集う度に、それは。

 生命の鼓動のように明滅と、輝きを増して。


 形作る魔法の意味は。


『世界』だ。

 この世界の文字と地図と、前世の世界の文字と地図が、

 ルーン文字が、ラテン語が、梵字が、英語が、日本語が、空間をドーム状に形作り、その空間を踊り続ける。

 その姿は前世の世界の土星の輪を持つ星の地上から、空を見上げたかのように、巨大な文字とその配列を組まれた紋様が。

『世界』の空に。


――ああ、完成してしま


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ふっと、意識が前を向いたとき、

 目の前には誰かの顔があった。


 鼻息が俺の鼻頭に掛かる。

 姉さんの顔のよう……には、見えなかった。


「イニネス……か」


 夢のなかの家族(あね)のようにぬくもりを感じさせる子だ。

 といっても、彼女(イニネス)の場合、娘という感情だが。

 くーくーと可愛らしい寝息だ。


 いつもならほぼ枕になっていた、黒柴の毛皮の感触は頭にはなく、どういうことかと上半身だけ起こしてみれば……、

 下半身、いや下腹部にごま大福と白大福が乗っかっていた。

 そりゃあ熱くなる。

 暑いもそうだが、それよりも熱く感じる。


 といっても、下着(パンツ)が濡れている感じは一切しない。

 ので、非常に臭いことにはなってはいないようだ。

 それでも大福とはいえ、彼女たちは人型化すると……そう言い難いがソソる。

 妹という白柴ですらソソる。


 そんなのが乗っかっているのだ。

 反応してしまう……筈だが、一切来ず、代わりにあるのはイニネスが寒天時代に使ってたころのような……。

 スッキリ感。

 長らく感じていなかった、それ。


 出したのだろうか。

 いや、そうであれば臭う筈である。

 それが無いのだから……、今までのムラムラ感はただの心因性のイライラだったのかもしれない。

 姉さんの夢を見てスッキリしたのだろう。


 イライラして心身の安定化に『姉さん』が出てくるとか、どれだけ姉好きなのだろう。

 エルリネとかクオセリス、セシルが出てこないのは、些か変態だ。

 エルリネなんかは姉さんよりも付き合いが長い。

 姉さんのような安心するようなあたたかみは、匂いはなくとも、エルリネにはエルリネのあたたかみと、薄荷臭の甘い匂いを教えてくれる。


 二人とも当然違っていて、それでも二人とも俺の心の支えになってくれる人だ。


――起きるか。


 そう考えて『十全の理』の時計機能から時間を見れば……、マラソンの時間はとうに過ぎていた。


 基本的に自主的訓練の一環だ。

 女子寮組(あっち)も遅刻、もしくはお休みも何度かある。

 俺は遅刻はせずとも、お休みは何度かしている。

 今日もそういうことにしようということで、クオセリスとのデートまでまだ時間はある。


 具体的に言えば、着替える時間も考慮してもあと二時間は寝られる。

 二時間の時間つぶしのために、貴重な惰眠を貪らずに起きるのは少々勿体無い。

 なので、大福たちをどかし、大福たちによって蹴りだされた掛け布団でイニネスが寒くないように、一緒に丸まって寝ることにした。


 もちろん、二時間後に起きれるように『十全の理』にタイマーをセットして、だ。



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