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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第1章-人生の分岐点- I
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初めての殺人



 肩に担がれているメティアが、ピクリと反応する。

――ありゃあ、起きてるわ……。

 と、早くも後悔する。

 聞く人が聞けば、黒歴史(ちゅうにびょう)でアイタタタである。

 黒歴史です、ごめんなさいと謝っても、メティアはきっと本気と取るだろう。


「この人キモーイ。こんな人と進学したくなーい」と言われたら母に遺言残して俺は死ぬ。

 ダメージが! ダメージが! と自分の胸中で笑っていないと、この殺意溢れている空間で俺は潰されそうになる。

 必死に胸中で笑う。

 急速に笑いが引いた。泣きそうになってきた。

 だが、俺は四歳手前のときの夕暮れの教室の頃から気障な台詞を彼女に向かって吐いていたキモい幼馴染(ヤツ)だ。

 このままの気障な台詞を吐くキモルートで俺は行く。


 だからこそ。

 俺は、あやふやだが確実な死へと抗うための一歩を踏み出す。

 怖い。怖い。

 怖いけども、俺の一歩で喜ぶ人がいる。

 その為ならば、俺は喜んで一歩を踏み出す。

 自分の行為は無駄かもしれない。

 それでも抗う気力を新たに持つ人がいるかもしれない。

 それならば、俺の一歩は無駄ではない一歩だ。


 俺は息を吐き、

「今直ぐ、選べ」と敵に伝える。


「俺の姫さまを丁重に下ろすか。強引に降ろさせられて死ぬか」


 対する敵は。

 下卑た嗤顔(えがお)を張り付かせるのみ。


 交渉は決裂。


 残るは実力行使。


 六歳のガキが誇るチートvs自身が狼だと思い込んでいる哀れな醜い豚。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 先手は当然、俺。

 即座に手にするのは、自宅近くの森で拾った鋭利な石。

 黒曜石のようなガラス光沢があり、非常に鋭く軽くそして硬いので、ナイフ代わりにいつもポケットに入れて持ち歩く。


 これを右手で持つ。

 左手はエンチャントマジックスの爆縮(インパクトエクスプロージョン)を付与。

 重力(グラビトン)だと壊れている左手では厳しい。

 だから、魔法威力だけを参照する爆縮を使用する。

 右手の石には風槍(ピアシングス)を付与し、突破力を上げる。


 軽い石だから、手首に負担は掛からない。

 それに持ち手部分はなめした革を巻いているため、スッポ抜けることはない。

 間違いなくこの二人以外に敵がいる。

 ならば暴れてバレないようにするのは当然のこと。

 だから、暴れる前に起動する。


――久しぶりだな、『十全の理』。五年ぶりか。

 燦然と輝く姿は五年前と変わらない。

 自動迎撃能力が発動――する寸前に、その行動を日本語で停止させる。


 敵、友だちともに昏倒させられるのが一番早いだろうが、この場では危険だ。

 千里眼(クレアボヤンス)で見られていないとは断言出来ない。

 もし、そういったものにも自動迎撃能力が発生するのであれば万能だが、そんな設定には少なくとも俺はしていないし、記憶もない。


 五年前に必死こいて解除させようとした自動迎撃能力は、これで発生しなくなった。

 残るは暴れても音が漏れないように、空間を閉じる必要があるから空間を閉じた。


 燦然と輝く『十全の理』が術者の願いを最適な早さで空間に適用させる。

 魔法陣:『世界(ワールドスフィア)


 半円状に作成された魔力の結界が一つの『世界(ワールドスフィア)』を作り上げる。

 この場で暴れようが何をしようが、全ては『世界』の内側で行われたこと。

『世界』の外側には何一つとして漏れることはない。


『十全の理』出現から『世界』が閉じるまで、敵は何も出来なかった。

 補助魔法も敵に与えられた加護も全て『世界』の外側の出来事と認識され、効果は全て遮断される。


 殺戮が始まる。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『世界』を閉じたため、自らを奮い立たせるためにも叫んだ。

 愚策のように見えるが愚策ではなく理由がある。

 明らかにメティアを助けるように、真っ直ぐに向かうと、壁として俺を蹴り飛ばしたフルプレートアーマーの敵が立ち塞がる。


――掛かった。

 わざと驚いたように表情を動かす。

 それを見た(バカ)は、ニヤリと嗤い石壁(ストンウォール)を唱え、俺と敵との間に煉瓦のような石の壁が現れる。

――中でにゃんにゃんするほど、このバカは女に飢えているのかね……。

 と、内心ため息を漏らし、先程まで頭があったと思われる場所に風槍(ピアシングス)で付与した黒曜石製ぽいナイフで一気に突く。


 なんとも言い難い、奇妙な触覚を覚えた。

 ガグンだかゴリッという音と共に、石壁に触れ黒曜石製っぽいナイフの根本まで突き貫く。

 いかにも頭蓋骨を貫通させた感触が俺の右手を襲う。

 術者が即死したことで石壁が解除され、メティアを抱えるバカBと俺を隔てる壁となるものは即死したバカAの死体のみ。


 風槍の追加効果として、槍の中間部分は風の暴風が吹き荒れる。

 つまり風槍で頭蓋を貫通すると、脳が風の暴風によってぐちゃぐちゃにされる。

 開いた穴から脳がはみ出、且つ風圧によって目玉は飛び出し、鼻から血が滝のように流れる。

 もちろん手加減抜きの風槍の一撃だ。

 風圧の衝撃によって顎は千切れ飛んでいる。


 たかが六歳のガキに即死させられるバカA。


 そして凄惨な光景に呆然と佇んでいるようにみえるバカB。

――戦闘中だというのに忘れてないか、こいつ。

 だが、こちらは間違っても舐めプレイはしない。

 こちとらチートがあるとはいえ、たったの6歳だ。

 想定外なことがあれば、普通に致命的になる。


 だから、爆縮が付与された左手で、バカBの心臓に触れるように振りかぶる。

 しかし、壊れた左手に回復魔法(ヒール)はしていなかった。

 そのため、左手に響く激痛で思わず顔を(しか)め、狙いがぶれて左脇腹へ触れる。


 刹那後、バカBの左脇腹が爆発によって消失した。

 爆圧によって内蔵が『世界』へ飛び出る。

 血はバカBの背中側の壁にバケツをひっくり返したような跡が残っている。

 爆圧の熱量で血液の水分だけがトんだようだ。


 バカBの絶叫が響く。

 断末魔とも言える。

 日本語に直せば「あ」だか「い」だか分からないことをひたすら叫ぶ。


 俺の姫さまが起きてしまうだろ、このバカB。

 俺の姫さまは『白雪姫』なんだよ、寝ている彼女に涙して接吻という名の大人のキスをするのは俺だ。

 貴様じゃねぇ。

 とりあえず耳障りだが、ほっとけば勝手に死ぬだろう。


 姉さん達の様子が知りたい。

 だから、前に一歩出たところ、無謀にもバカBがメティアを人質に取――。

 られる前に、俺はこの世界で初めて、自衛魔法でもエンチャントマジックでもない。

 攻性魔法を使った。

隆起(アース)する大地(グレイブ)』の槍先をバカBの下顎から頭蓋へ向けて刺し貫いた。


 ……今度こそ終わり、俺は『世界』を閉じた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 血塗れとなった、俺は己の両手を見る。

 酷い有り様だ。

 俺の姫のためとはいえ、復讐されないためにも殺しきったんだからな。

 生前では、虫すらもあまり殺さなかった俺が、異世界ではためらいなく殺した。

 まぁ向こうも殺す気だったんだ、といえば結果としてはいいのかもしれないが、それでも俺は。


 吐き気が止まらない。

 でも、ここで吐いてしまったらきっと俺は人間なんだ。

 俺はチートを持つが故に人間じゃない筈なのに、一丁前に吐くとか。

 自己否定をする自分。


 誰かに慰めて貰いたい。

 人間を殺すというタブーを超えたのは仕方がなかったんだ、と誰がに慰めて貰いたい。

 自分と誰かの生のために、自分に悪意を持つ相手を食べる目的ではなく、ただ殺した。

 それが例え、苦しんでやったことで愉しんでやったわけでもないけれど

 それでもこの手で殺した。


 俺の血塗れた腕の中で眠る幼馴染を見た。

 先程は、大人のキスをすると言ったもんだが、このように清らかに眠る彼女にキスをするなんて。

 それも、「君を守護(まも)るために、俺は人を殺した」などとは言えない。


 彼女は清らかであるべきだ。

 だから、俺は彼女を抱えた。

 血塗れて穢らわしい両腕だけど。

 お姫様抱っこで、長机の陰に彼女を隠した。


 俺の服で上衣で敷布団を作り、寝かせる。

 俺は『十全の理』に魔法陣による防御壁の作成を依頼する。

 瞬時に展開されたものは『前衛要塞(フォートレスヴァンガード)』その名の通り要塞を作る。

 この場にいる限りは、清らかなまま眠りを妨げないだろう。


 だから。


「ここにいて欲しい」


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