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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第1章-人生の分岐点- I
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ナイト



 いきなり腹に鈍痛を感じた。

「がっ……あぐっ」

 背中は激痛が走り、痛みの余りに急速に覚醒する。


 どうやら俺は鬼を待っている内に寝ていたようだ。

 そして激痛の理由は、

――誰かに、蹴られ吹っ飛んで机に当たったのか。

 と、冷静に分析する。


――痛ってーな! 誰だ!

 顔を上げ下手人を睨もうとしたとき、目の前に俺を蹴り抜く寸前の、鈍色に光る脚甲があった。


 普通に人が死ぬような鋭い蹴りを咄嗟に左手で庇う。

 左の掌から音がする。

 つまり肉が裂ける音と骨が断たれる音。

 激痛。

 だが、ここで思考を切り替えなければこの後に待つのは、己の顔がひしゃげる未来。

 頭はぐらぐらし、脳震盪を起こしている可能性がある。

 起きるは億劫。


 しかし、起きなければ待つのは落としたワイングラスのように凄惨な空間。

 無理矢理、覚醒して距離を取る。

 自分には生活魔法が「ない」。 

 だから、対象を視認する必要がある。

 よって下手人を目で視た。


 フルプレートアーマーを着込んだ(てき)が2名。

 その内1名はメティアを米俵のように肩で抱えている。

 メティアはぐったりしており、死んでいるように見えるが魔力素が漏れ出ていない。

 一先ず生きていることに安堵し、(てき)を誰何する。

「てめぇ、いきなりとはトんだご挨拶だな」

 空威張りして俺自身を奮い立たせる。


 ぶっちゃけ、凄い怖い。

 生前の幼い時は、少林寺拳法を習っていた。

 それ繋がりで高校生のときは空手部だったが、試合とはいえ、殴られるのが怖くてすぐに止めたチキンだ。

 そんなチキンが、転生して姉を相手にチャンバラしたとはいえ、左手を本気で壊された状態で殴るか殴られるか、いや左手を壊したということは相手は少なくとも殺す気満々の相手に誰何するなど、正気の沙汰ではない。


 ぶっちゃけ姉さんは、肝が据わっている人なので難なく誰何するだろうが、俺はチートパワーを持ったとはいえ、平凡な小市民だ。

 出来るわけがない。

 だが、俺に構ってくれて思わず「カンチガイ」しちゃうほど、悲しいぐらいに元毒男(独身男性のこと)の(さが)を持つ、この俺が、メティアを(さら)おうとする敵を見逃すほど俺は腐ってはいない。


 だから、自分を誤魔化して誰何する。

「おい、なんとか言えよ。臭い野郎共」

 言葉が綺麗な人たちに囲まれて6年間生きていたものだから、この世界での汚い言葉が咄嗟に出ない。

 生前の日本語が通じれば、ハー○マン軍曹みたいなことが言えるんだが……と、嘆いても仕方がない。


 心は怖くて泣きそうで、左手が壊れた激痛で身体は泣きそうで、足はガクガクと笑っている。

 だが、男として逃げちゃいけないときはある。

 そう、まさにこの時。



 激痛がなんだ。

 メティアはもっと怖いだろう。

 子ども相手に本気で殺しに来ている男が相手なんだ。

 六歳だからこそ喜んで犯そうとする小児性愛(ペドフィリア)のド変態だっているはずだ。

 ……ふと自分の年齢(六歳)を考えてから、自宅にいる小児性愛を発病している身内を思い出す。

 頭が一瞬停止するが、すぐさま復旧。


 ま、まぁそんなド変態かと思われる相手に、抱えられているメティアの精神的負担はかなりのものだろう。

 俺はこの世界で『十全の理』というチートを貰った転生者だ。

 ここで奮い立たなければ何がチートだ。

 何が黒歴史(ちゅうにびょう)だ。

 伊達に学校に立てこもるテロリストを空想したりしないわ!


 と、脳内で悪魔と天使と俺が会議して選択枝を表示する。

 1.『十全の理』産の魔法でかっこ良くドカーン。

 2.『十全の理』にある身体強化でかっこ良くズバアァ。

 3.チートを前面に出した上でぶっころころころしちゃう。


 この中で選ぶは……3.!

「いや、ね。ストレス溜まるんですよ」と、脳内の俺に白目を向ける悪魔と天使。

 何が悲しくて制御しなきゃアカンのか。と、しどろもどろに言い訳する俺。

 ほら、ズバァとストレスをこうズバァっと発散したくなるときがあるだろう?! と、悪魔に同意を求めるがやれやれと肩を竦められる。

 この間の脳内会議、約5秒。


 生前、インターネットで他人の「黒歴史ノートスレ」なるものがあった。

 そのスレのなかに「『俺の姫さまに手を出すなど死にたいらしいな。貴様』と言った本人が死にたくなった」というレスがあった。

 ぶっちゃけこのスレは、心がざわめいて「あああああああ」って気持ちになることが請け合いだが、それでも他人の設定をみることが出来た、俺にとって社交(ネタ)(ほうこ)だった。


 だから、止せばいいのにその台詞を今吐いた。

 もちろん、自分を奮い立たせるためにも。


「その(メティア)は、俺の姫さまだ。それを(かどわ)かす貴様らは、余程死にたいらしいな」

 ……ヤバい。言った傍から死にたくなってきた。


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